第49話 ヴァリアント砦



 一夜明けて早朝

 何時もは昼過ぎにしている訓練を早朝にするユイナとヒカリそれを見守るシンヤ

 


「この時間に訓練するのも悪くないですね。寧ろこれからクエストを受けるならこの時間に訓練するべきですね」



「そうだね~少し眠かったけど頭がスッキリしてるね。魔力量が少しでも増えれば【回復魔法】に【補助魔法】ももっと使えるよね」



 ユイナとヒカリで基礎の訓練が多少違う事をしている



(ヒカリさんの基礎訓練がマルティがしていた方法で少しずつ効果が出ているみたいだな。少し魔力量が増えたかな? 

 ユイナさんは動きが少しずつ良くなって来ているしもう少ししたら次の段階かな)



 早朝の訓練はリリィの朝食の用意が出来るまで続けられた

 朝食は目玉焼きにベーコン 野菜サラダ コンソメスープ パン


 皆美味しく食べていたがヒカリとユイナは早朝訓練のおかげか1段と美味しそうに食べていた



 (お家の時よりも良い食材が沢山あって色んな料理を作れそう。

 でも……大丈夫。着いていくと決めたのだから)



 手分けして片づけて出発したのだった

 それから2日間は特に変わりなく足を進めていた。

 森の奥に進むにつれ表れる魔物がゴブリンから豚頭に大の男位の大きさのオークにローウルフから灰色の体にローウルフから一廻り大きいワイルドウルフに変わっていた

 オークは棍棒と斧を装備してワイルドウルフは更に俊敏になっている

 それでもダーネルが



「ゴブリンやローウルフから見ると確かに強いが、それでも初心者向けの魔物だな

 ゴブリンで慣れたら次は此奴らで、それから一人前に向けランク上げたり腕を磨いたりだな」



 言われて最初に見たときは緊張していたユイナとヒカリだったが、エヴィリーナの協力もあり少しずつ動きや見た目にも慣れて行った


 そして1日が経った昼頃


 ユイナは1体のオークと対峙していた。

 先に動いたのはオークで棍棒を振り上げて思いっ切り振り下ろした

 その動きを冷静に見極めて薙刀で棍棒を受け流すユイナ。

 態勢が崩れたオークに対して1本踏み出しながら体を回転させるユイナ。

 遠心力を載せた薙ぎ払いでオークの首を切り落とした

 


「経った1日足らずでオーク1体とは言え1人で倒せる様になるとはな大したもんだ……俺は数日掛かったぜ」



 呼吸を整えるユイナの背中を見ながら呟くダーネル


 

「ユイナちゃん急に強くなったよね。私も頑張らないと」



「私1人では強くなれませんでした。それに、まだまだです」



 ヒカリは言いながら水筒をユイナに渡す。

嬉しそうな雰囲気で受け取ると水を飲むユイナ



「大分、動きや反応も良くなっている。それと、ヒカリさんも【解毒魔法(小)】を覚えたし2人とも強くなっているよ

 この調子でやっていこうか」


嬉しそうに頷く2人。エヴィリーナが地図を見ながら


「かなりヴァリアント砦に近付きましたね。今日中には着けそうです」



「……もう少しですね。では、お昼ご飯用意しますか?」



 一瞬緊張するリリィだが、すぐに何時もの表情に戻った。

 お昼ご飯で嬉しくなるヒカリ達だが



「その前にもうひと仕事だな。この先に襲われている人がいる。

 襲っている者の気配は殺戮ソルジャーベアだ。数は3体」



 シンヤが言った瞬間、皆の間に緊張が走った。特にユイナとヒカリは体が強張っている



「おいおい、それは本当か? しかも3体って1体倒すのにAランク冒険者5人は居るぞ……戦ってる人数分かるのか?」



「4人だな。恐らくたまたま出くわしたんだろうな」



 人数を聞いてシンヤの顔を見るエヴィリーナとダーネル。



「でも、殺戮ソルジャーベアは確かに恐ろしいですけど、普段はワイルドウルフやオークを獲物にして人や魔族は襲いません。

 出くわしても下手に刺激を与えたり走って逃げなければ襲われない筈です」



「そう言われても出会えばそうも行かねぇ場合もある。

 後は何かの理由で数が増えすぎて、腹が減ったら襲われる可能性もあるわな」



 リリィとダーネルの話を聞いていたシンヤが




「とにかくここで話してる場合では無さそうだ。

 俺が先頭を行く。次をエヴィリーナさんで、ダーネルは少し離れて皆を連れてきてくれ

 来る頃には終わらせる」



「終わらせるっ……られるよな。シンヤの旦那ならよ。分かった、こっちは任せてくれ」



 頷くと走り出すシンヤに遅れまいと着いていくとエヴィリーナである



「くそっ、ぬかった! 殺戮ソルジャーベアが3体もこんな所まで来てたなんて!」



「ソニヤ! あんたもアタシの後ろに下がりな! レニーナ、エルマの状態はどうだい?」



 ボーイッシュな黒髪に黒目でヘルメット型の兜を被りプレートアーマーを着て長方形の大盾で、殺戮ソルジャーベアの猛攻を防ぐ2m近い身長の女性が後ろを振り返らずに聞く

 


「何とか出血と大きな怪我はどうにか出来たけど、今あるポーションじゃこれ以上は難しいよ!」



「……すみません……私が、ヘマしたばかりに……」


 背中を左肩から右脇まで裂かれて大怪我を負っているエルマ

 何とかポーションなどを使って表面の傷を塞いで出血を止めたが内側までは治しきれていなかった



「エルマのせいだけではない。 後ろから来ていたのに気付かなかった私達のせいだ

 ちっ無理をするなよ、オードラ!」



 ソニヤと言われた鋼鉄のライトアーマーを着た女性が応える


 突然、後ろから襲われて最後尾にいたエルマが狙われた

 咄嗟に前へ転がる様に逃げたエルマだが間に合わず背中に大怪我を負った

 殺戮ソルジャーベア3体に囲まれない様に大盾を駆使して立ち回るオードラに加勢するべくロングソードを振るうソニヤ

 


「このままじゃジリ貧だよ、ソニヤ!」



「ああ、分かっている! だがな!」


 防いで躱すだけで精一杯の2人。すると殺戮ソルジャーベアの動きが突然変わった。

 今まで、固まって攻撃していた殺戮ソルジャーベアが3方向に別れて襲って来た

 2体がソニヤとオードラに襲い掛かるふりをして、2人の頭上をジャンプで越えてレニーナとエルマに襲い掛かった

 慌てて反応するソニヤ達だが横から爪を振り翳されて対応が遅れた

 咄嗟にレニーナはエルマを庇う為に覆い被さって目を瞑る

 幾ら待っても衝撃は来なくて変わりに何かが落ちる音が聞こえた。恐る恐る目を開けるレニーナの前に



「えっ? えぇ?! まさかシンヤ?!」



 2人の前に庇う様に立つシンヤの姿があった。その廻りにバラバラになった2体の殺戮ソルジャーベアが転がっていた



「間一髪と言った所か。久しぶりだな、レニーナさんにエルマさん」



 振り返らずに言うシンヤ

 ソニヤとオードラはいきなり表れたシンヤに驚いている

 殺戮ソルジャーベアは唸り声を出して6本の腕を広げてシンヤを威嚇する

 威嚇されたシンヤは静かに殺戮ソルジャーベアを見つめた

 すると腕を広げた状態で固まる殺戮ソルジャーベア

 次の瞬間



「キュアァァァァァァア?!」



 悲鳴に近い声を上げて全力で逃げた殺戮ソルジャーベア

 


「えぇっ?!」  「はぁ?!」  「何故?!」



 怪我で声が出ないエルマ以外が同時に驚きの声を上げた

 そこに、少し遅れてエヴィリーナが姿を表した



「は、早過ぎです……シンヤさん……でも、戦闘は終わったみたいですね」



 息をついて話すエヴィリーナ



「あっ?! エヴィリーナ!……あんた何か変わった?」



 エヴィリーナの姿を見て驚くレニーナだが、自分が知ってるエヴィリーナと違い首を傾げていると



「エルマさんかなり深い怪我を負ってるな。今 【回復魔法】 使える仲間が来るから其れまで応急処置をさせて貰う。

 背中を少し触るよ」



 一瞬シンヤを睨む様に見るエルマだが何も言わずに背中を見せた。

 シンヤは右手で触り“気力”で内側からの自然治癒力を高めて少しでも痛みが和らぐ様にしているとダーネル達が到着してヒカリが【回復魔法】を掛けた

 その間にソニヤ達に自己紹介とここに来た目的を話した

 リリィとレニーナはここで顔を合わせて驚くが懐かしの再会に喜んでいた



「本当にありがとうございます。おかげで助かりました。

 2体同時にここまでバラバラに出来るとは流石、ゴブリンロードを倒すだけありますね。」



「いやぁ助かったよ! 防ぐだけで精一杯だったからさ! ありがとよ」



 ソニヤは優雅に頭を下げてオードラは豪快にお礼を言う



「ほんと2回も助けられちまったな。」



「ええ、傷を治してくれましたヒカリさんにお礼を言わせて貰いましたが、(一応)シンヤさんにもお礼を言わせて貰います。ありがとうございました」



 それぞれお礼を言う2人



「さて、昼御飯食べる予定だったが、また襲われるのも面倒だからこのままヴァリアント砦に行こうと思う。

 そこで、昼御飯にしようと思うけど皆はどうかな?

 ソニヤさん達も戻るから一緒に良いですか?」



「此方からお願いします。安心ですからね。」



 ソニヤが言うと頷く3人。シンヤ側もシンヤの考えに賛成なのでこのままヴァリアント砦に向のだった


 ヴァリアント砦に着くと、強固な防壁と頑丈な門に囲まれた砦が目の前に広がった

 シンヤが想像している以上の大きさだった

 


「では、私達は先に中に入りシンヤさん方が到着した旨を伝えて来ます」



 ソニヤが言うと4人は中に入って行った



「すぐには入れないんですね。呼ばれたのに」



「まぁ、向こうには向こうの予定があるんだろう。少し待とうか」



 言うと思い思いに休む5人。暫く待っていると突然門が開いたと思ったらプレートアーマーを着た騎士達が出てきてシンヤ達を取り囲んだ

 いきなりの出来事にシンヤ以外慌てだす



 (もしかして私とヒカリさんの正体に気付いたのでしょうか?)



 (ひょっとしてユイナちゃんと私に気付いた? どうしよ~)



ユイナとヒカリが内心正体ばれた?! と焦っているとエヴィリーナとダーネルは武器を構えようとする

 しかしシンヤが手で制すると武器から手を離した2人

 悠然と門の奥から1人の男が姿を表した

年齢は60代位の2mを超える長身で、白色のプレートアーマーの上からでも分かるがっしりとした体格をしている

 そして右手にはハルバードを握っていた



「ワシはヴァリアント砦でアリュード殿下に仕えるトールベンと申す。

 まずこの様な不躾な対応、謝らせて頂こう

 その上でシンヤ殿、ワシと一戦交えて貰いたい」


 

 そしてハルバードを構えるトールベンである















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