第41話 エヴィリーナ
リディーナのロングソードが男に当たる寸前エヴィリーナのレイピアで防がれる
「くっ、エヴィリーナ! ええぃ!」
(奴隷紋を上書きするには一定時間触れないと出来ない……此奴らを先に倒さないとだけど)
エヴィリーナから距離をとって取り囲む男達を観察するリディーナ
全員、黒装束に身を包んでいる
「お前達、闇組織の連中だな。ジャルドはカイルド帝国の元貴族……帝国と繫がっているのは本当だったのか」
リディーナの左横から3
右側から両手に短剣を持った男が連続で刺突を繰り出し
正面から突撃して来た男はショートソードを下から斬り上げる
リディーナはクローを上に弾くと、返す刀でショートソードを上から叩きつけバランスを崩しながら短剣を繰り出す男の腹に蹴りを入れて後ろに蹴り飛ばした
そこに、すかさずエヴィリーナが斬り掛かる。咄嗟に受け止めて斬り合う内にリディーナが徐々に押されていき受け止め切れずに後ろに下がるリディーナ
下がるときにライトアーマーと腹部に斬撃が入り更に飛ばされるリディーナ
その間に黒装束達は体勢を立て直し陣形を組み直していた
「ぐ……やはり強いな」
(剣術も身体能力も私より上……その上Aランク冒険者に匹敵する奴らが10人
腹部の傷も……傷がない?! それどころか服も破れていないだと?!
特殊繊維で作った服とは言えエヴィリーナの斬撃をあの距離で食らって無傷の筈が……まさか?!)
ある事に気付いたリディーナはユイナ達に視線を向けた
ヒカリが【補助魔法(小)】をずっとリディーナに掛けていた。【補助魔法】が(弱)から(小)になって僅かだが防御力も上げる事が出来る
僅かだが上がった事で、ギリギリだがエヴィリーナの斬撃を防いでいた
それに気付いた黒装束の1人がショートソードでヒカリに斬り掛かった
当然、ヒカリでは反応出来ない速さだが“御守り”の防御が発動した。
ショートソードの攻撃が反転してショートソードから男の体に伝わり麻痺を引き起こした
状態異常に耐性がある黒装束達でも防ぎ切れなくて、少しの間 動きが止まった
その隙をついて首を跳ね飛ばすリディーナ。
リーダー格の男が
「……ちっ 小娘共は後だ。先ずは裏切り者を狙え」
「私はお前達の仲間ではない! 妹は返してもらうぞ!!」
男は鼻で笑うと一斉にリディーナに襲い掛かった
男達の攻撃をいなしてエヴィリーナから距離を取りながら攻撃の隙を窺うリディーナ
リディーナは男達とエヴィリーナの攻撃を捌くのに手一杯で気付いてないが、入り口付近で杖を両手で持ち風魔法を唱える黒装束の姿があった。
「大変ユイナちゃん。あの魔法使いにリディーナさん気付いてないよ」
リディーナに【補助魔法(小)】を掛けながら言うヒカリ
「何か……何かないでしょうか」
辺りを見回すユイナ。その時目の前で倒れている男の姿が見えたときある物に気付いた
「これは……ボウガンでしょうか?」
「多分、小さいけどそうだと思うよ」
「それはショートボウガンね。至近距離なら威力は高いわ。でも、冒険者には使い勝手が悪いから見たことないのね
私達の村ではいざという時の護身用に女性が何人か持ってた位ね」
(ゴブリンの集団には全く役に立たなかったけど)
リリィの説明を聞いたユイナはボウガンを魔法使いに構えた
魔法使いは既に唱え終わっていて後はタイミングを計っていた
(狙いが上手く定まらない……あったのはこの1発だけだった……これを外したら後は無い
落ち着け……落ち着け)
ユイナが心を落ち着かせ狙いを定めようとしたとき
頭の中がクリアになる不思議な感覚になっていた
それはスキル【集中】が発動した合図
狙う部分が鮮明に視えたユイナ
「っ?! そこ」
放たれた矢は、魔法使いの両手と杖にめり込んだ
「いっ?! ぐあぁぁ?!」
両手と杖をボウガンの矢で縫われた状態となり蹲る魔法使い
一瞬其方に目が行った男達。その隙を見逃す事はないリディーナ。
クローを装備した男と短剣を装備していた男の首を跳ねると、ククリを装備していたリーダー格の男の心臓をひと突きで刺して倒した
その流れでククリを奪うと魔法使いの頭に投げて止めを刺すリディーナ
一気に4人やられて浮き足だってしまった残りの黒装束の男達
そこで、動いたのはユイナ達3人だった
“御守り”の防御がまだ働いている内に黒装束達に突撃した
浮き足だっていなければ回避するか離れる判断をしていたが、全員思わず攻撃してしまった
全員、麻痺で動けなくなった
その意図に瞬時に気付いたリディーナは瞬く間に残りの黒装束達を倒していく
そして感情のない顔で見てくるエヴィリーナの前に立った
「皆さんありがとうございます。後は、私がやります」
「せめて少しだけ」
ヒカリが近づき【回復魔法(小)】を掛けた。
魔力が余り残って無いので少しだけだがそれでも体が軽くなった
リディーナはヒカリに頭を下げると3人から距離をとり改めてエヴィリーナと向き合う
先に動いたのはリディーナだった。それを軽くいなすエヴィリーナ。
あっという間に防戦一方になるリディーナだが
(エヴィリーナには僅かな癖がある。その癖は治っていなかった。その一瞬をつけば……)
癖が出るまで、我慢するリディーナ。ひたすら防戦を続けていて遂にその時が来た
バランスを取るため一瞬だけ動きが止まるエヴィリーナ
その一瞬に全力でロングソードを振るいレイピアを弾き飛ばしたリディーナ
(今だ!!)
ロングソードを放り投げ駆け寄るリディーナ。
この時、リディーナは奴隷紋の上書きの事だけを考えていて他が完全に無防備になっていた
「ごはっ?!……がっ?!」
エヴィリーナの右膝蹴りがリディーナの鳩尾にめり込んだ。
リディーナは全力で駆け出していたため、深くに膝がめり込み息が詰まり目を見開いた。
だが、エヴィリーナの攻撃は止まらない。
前のめりになったリディーナの顎にエヴィリーナが放ったフルスイングの右フックが炸裂した
堪らず膝から崩れ落ちるリディーナの髪を左手で摑むエヴィリーナ
霞む視界に薄れゆく意識でエヴィリーナの顔を見るリディーナ
右の拳を振り上げているのが見えた
(ゆ……油断……した。レイピア……を飛ばせば……と……)
しかし右の拳が振り下ろされる事はなかった。
突然エヴィリーナの動きが止まったと思ったら、背中から温かい何かが流れてくる
それにより意識が戻って来たリディーナが見たものは、エヴィリーナを後ろから羽交い締めにしているリリィと麻痺で動けないエヴィリーナだった。
「しっかりしなさいリディーナ! 私達を攫わせてまで助けたかった妹さんへの思いは、こんなものなの!! 巫山戯ないで!!」
「……っ?! 私は……エヴィ……リーナァァァ!!」
エヴィリーナに抱き着くリディーナ。
ジャルドに刻まれた奴隷紋の上に魔導具を重ねた
そして目を閉じて集中してあらん限りの魔力を流し込んだ
途端に苦しみ出すエヴィリーナ
(エヴィリーナ……もう少しだけ我慢して……後、少しだから)
ジャルドが刻んだ奴隷紋は右の内股にある
エヴィリーナが奴隷紋を刻まれた日にジャルドに呼び出されたリディーナ
そこで見たのは裸で地面に座り無表情のまま足を開いて姉に奴隷紋を見せるエヴィリーナと、横で笑っているジャルドの姿だった。
血の気が引いて真っ青になるリディーナに、ジャルドは “俺の言うこと聞かなければどうなるか分かるよな” と言われて頷くしかなかった
新しく奴隷紋を刻んでいるときに昔の事を思い出し涙を流すリディーナ
そのリディーナの右頬に手が触れた。思わず目を開けたリディーナが見たものは
弱々しく微笑むエヴィリーナの顔だった
「エヴィ……リーナ……戻った……のか?」
「……姉……様……ごめん……ね ありが……とう……」
だけ言って力尽きて気絶したエヴィリーナ
慌ててエヴィリーナの体を調べるが特に問題はなく
「良かった……本当に……“リーナ”……あぁ……」
エヴィリーナの体を優しく抱きしめて嗚咽をこぼすリディーナ
そんな2人を優しく見守るリリィ
全ての魔力を使い気を失ったヒカリを介抱して無表情ながら優しい雰囲気で見るユイナだった。
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