第40話 【常世の闇牙】


 リディーナの傷を治したシンヤ


 「回復魔法では無いのに傷が治るなんて」



「人に備わっている自然治癒の1つを“気力”で高めて治したんだ」



 シンヤから受けた傷が治り驚いているリディーナ



「そんな事まで出来るなんて流石ですね。



「様は付けなくていいよ、敬語も要らないから。

 全ては過去のことだしね。 余り騒がれたくない今は冒険者のシンヤだ

 (と、言ってもこれから目立つ事始めるのだけどね)」



 頷くリディーナ



「分かりました……分かったわ、シンヤさん」



「それでいいよ。それより、準備は出来た?」



「……はい、出来ました。手筈通り行くけど彼女達は本当に大丈夫なの?

 シンヤさんの言う“御守り”が発動していたら彼女達は連れ去られて無かったと思うのだけど」



 妹を救うための準備奴隷紋と何時もの姿の上に銀色に耀くライトアーマーを付けていた



「あぁ、彼女達に持たせている“御守り”は強力だが危険を察知してから発動までに時間がかかるんだ

 あいつらクランの本拠地に着いた位で発動する

 そうしたら手出し出来ない、貴女の妹と一緒に助け出す。それと、間違いなく奴らのクランは壊滅させることになる」



「分かっています。妹を助け出しユイナさん達を救い出したら全ての責任は私が取ります」



 覚悟を固めた顔で頷くリディーナ。それに対して何か言おうとしたシンヤだが止めて



「そうだな、では行こうか。今日の夜までには全て終わらせる。ギルド職員に気付かれると色々と面倒だから執務室の鍵は掛けておこう」



「はい!」



 隠し通路から向かうシンヤ達であった



 【常世ヘブンズ闇牙ブラッティ】の本拠地


 大通りから外れた防壁付近に構えている4階建ての建物その一室の前で



「どうなってやがんだ。いきなり触れなくなったぞ?!」



「知るかよ。折角少しは楽しめると思ったのによ」



 大声で話す2人の男。ユイナ達を閉じ込めている部屋の見張りに立っていた

 




「……私は何でこうも変な事しか考えてない連中に連れ去られるのかしら。もう、終わりかしら」

 


「リリィさん、気をしっかり持って下さい。

 シンヤさんが助けに来てくれます……来てくれると思います……来ますよね?」

 (私はまだスキルが2つしか使えない。その2つも使い方がまだ分かりません。しかもまた、シンヤさんに迷惑掛けてます)



「ユイナちゃんも落ち着いて。今はシンヤさんから貰った“御守り”のお陰で私達には何も出来なくなってるから大丈夫だよ」

 (武器を取り上げられてるから私達も何も出来ないけど……)



 ゴブリンに連れ去られたトラウマを思い出しそうになるリリィに過去の事で少しパニックになりかかるユイナ

 しかしヒカリがそれぞれの手を持って寄り添う事で少しずつ落ち着いてきた



「そうね……今はあの時とは違うわね。私には戦う力がないから信じて待つしか出来ないけどね」



 頷くユイナとヒカリ。

 その時、扉がノックされて1人の女性が入って来た

 両手にトレーを持ち人数分のパンとスープに飲み物が載っている

 3人は持って来た女性を見て驚いていた

 白色の髪に銀色の瞳に感情がない顔、エヴィリーナである

 エヴィリーナの後ろから



「お前ら、大人しくそれでも食ってろ」

 (ちっ、本当なら食事は俺が持って行って食わせてから……だったのによ。触れねぇからあの操り人形が運ぶ事になるとはな。まぁそれさえ食っちまえば1人ぐらいクククッ)



 見張りに立つ男の内1人が声を掛けてきた。

 エヴィリーナは何も言わずに3人の前にトレーを置いた

 ニヤけた男の顔とトレーを交互に見て



 (((これ、食べたら駄目なやつね)))



 同時に思う3人。

 その為、食事に全く手を出さないからニヤけた顔から睨み付ける顔に変わって行く男。

 部屋の外から睨んでいた男は食べさせようと部屋に一歩踏み込んだ瞬間


 外から何が弾け飛ぶ音が聞こえた



「な、なんだぁ?!」



 音がした方に振り返った男。建物内の何処からか



「襲撃だー!」



「全員、奴をぶっ殺せ!」



 声と共に一気に騒がしくなる建物内


「何が起きてんだ? まさか此奴らを取り返しに来たのか」


「はぁ?! んな訳ねぇだろ! 俺達が攫ったなんて証拠はねぇんだぞ!」



 見張りの男達が話し合っていると、いきなり目の前の窓ガラスが割れた


「なん?! て、てめぇは……グブッ!」



 飛び込んで来たリディーナに一太刀で斬り捨てられる見張りの男達。



「皆さん! ご無事で……エヴィリーナ?!」



 部屋に入った所に立っているエヴィリーナを見て驚くリディーナ



「何しに来たの! 私達を攫っておいて!」



 部屋の隅で3人固まりながらリリィが声を上げる

 攫われる時に隠し通路にリディーナの姿を見ていた3人は睨み付けていた


 その視線に息が詰まりそうになるリディーナへ

腰に下げていたレイピアで斬り掛かるエヴィリーナ

 咄嗟に受け止めたリディーナは



「くっ……エヴィリーナ! 目を覚ませ!」



 ユイナ達がいる角とは反対側の角にエヴィリーナを弾き飛ばすリディーナ

 弾き飛ばされて倒れたエヴィリーナはゆっくりと立ち上がる

 両手をぶら下げて光がない銀色の瞳で姉を見るエヴィリーナ



「彼女はいったい?」



「あの子……エヴィリーナは私の妹だ! ジャルドに操られてるいるんだ!!」



 ユイナの問いに悲痛な声で答えるリディーナ

 3人はエヴィリーナを見た。そこで、リディーナが何故こんな事をしたのか分かった


 感情のない表情でリディーナに斬り掛かるエヴィリーナ。

 全く手加減のないエヴィリーナに対して、久しぶりに見た妹の姿に動揺してしまったリディーナは防戦一方になっていた

 更に、近付いてくる複数の足音はそのまま部屋に入って来た男達はリディーナを取り囲んだ

その数は10人


3人が囚われている部屋は元、倉庫代わりに使っていたほど広い部屋の中心に立っているリディーナ

 


(このクランに居る奴らの大部分をシンヤさんが引き受けてくれてても10人も来るか。

 エヴィリーナの相手をしながらだと……いや、弱音は吐くな! エヴィリーナの前に此奴らを倒し妹を助ける!)



 軽く深呼吸をして気持ちを整えるリディーナ

 そしてロングソードを振り翳し目の前の男に向かって突撃したのだった



 

 

 





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