第39話 思惑
机を挟んでリディーナの前に立つシンヤ
刀の切っ先は下に向いているが、鼻先に突き付けられている幻影が視えて固まるリディーナ
何時もの表情を崩さない様に
「……よく隠し通路が分かりましたね。それで、聞きたいこととは何でしょうか?
(……表情は何時もと変わらないのにこの雰囲気は……)」
「そうですね、この通路は誰も知らないのですか?」
先程感じていた刀の幻影は消えた為か少し落ちついたリディーナ
「え? えぇ、そうですね。代々受け継ぐギルド長のみが知らされます。
そして緊急事態の時、ギルド長が開けるのです」
「……なる程、その隠し通路を使ってユイナさん達3人が連れ去られたのはどう説明する?」
目を見開くリディーナ。しかしすぐ戻してそれ以上は表情は変えなかった
でも、シンヤが感じた気配は動揺と不安が混ざったものである
「連れ去りとは穏やかではありませんね。何故そんな事に?」
「資料室に戻った時彼女たちの姿は無かった。聞いた限り外に出た様子も無かった」
リディーナは机の端に両手を置いた。左手は机に立て掛けているロングソードに近い所に添えている
両手を机の端に置いたので、体が前に傾き顔が俯く
直ぐに見上げる形で顔を上げた。微笑んでいたが目は笑っていない
「仮に攫われて隠し通路が使われたとして、何故私を疑うのでしょう」
「まず、隠し通路はギルド長のみが知っている。そして倒した【
真顔になったリディーナが左手でロングソードの鞘を摑み机を乗り越えてシンヤに斬り掛かった
「……っ?!」
それより速くロングソードを抜く前にシンヤが峰で叩き飛ばした
背中から壁に激突して息が詰まるリディーナ
直ぐに立ち上がり鬼気迫る表情でロングソードを構え上段から斬り掛かる
次の瞬間、リディーナの前から姿が消えたシンヤ
リディーナの目でも追えない速さで動いたが、直感的に顔の右横に防ぐ形でロングソードを構えた
直後、ロングソードごとこめかみ部分を蹴り飛ばされ壁に叩き付けられてロングソードを手放した
四つん這いになりまともに動けないリディーナ
それでもロングソードを何とか摑むが、刃の部分をシンヤに足で抑えられる
引き抜こうとしているがビクともしない
「確かにあいつらより強いが諦めたらどうだ? 」
「……だ……まれ……」
顔を上げてシンヤを睨み付けるリディーナ
「何故、そこまでして奴らに肩入れする?」
「……」
口を噤むリディーナ。そこでユイナ達がバルボッサ商会で起きたことについて話していたのを思い出した
「エヴィリーナか」
「何故……それを……っ?!」
驚いた表情になって自身の洩らした声に気付き俯くリディーナ
「身内を人質に取られてるなら何故助けない?
ギルド長なら出来るだろう」
「……かる」
俯いたまま何かを呟いたリディーナ。次の瞬間顔を上げ
「お前に何がわがる!!」
涙を流しながら叫ぶリディーナ
「Sランク冒険者になっても! しょせんは弱小王国の弱小貴族でしかない私に! 何も出来ずに妹をエヴィリーナを攫われて! 気付いた時には妹は奴隷紋を刻まれていたんだ! 奴らの言いなりのままギルド長になり、使われる私の気持ちがお前なんかに分かるのか!!」
思いをシンヤにぶつける様に叫び続けるリディーナ
「(この時代にも奴隷紋は残っているのか。当然と言えば当然か?
隷属の首輪は付けた主が死ねば外れるし壊す方法もある
しかし首輪より強力な奴隷紋は主が死ねば死ぬことになるし解除する方法はない。普通なら)」
奴隷紋は1度刻まれると一生解除が出来ない。感情も思考も意のままに操る事も出来る
「それなら助ける方法はあるだろう」
「……お前……巫山戯てるのか。私の話を聞いてい無かったのか!」
「聞いていたさ、だからこそだ。
奴隷紋が刻まれたなら、貴女が上書きすれば助ける事は出来る」
驚愕の表情になるリディーナ
「何を……言っている……そんな事……出来るわけない」
「操られてる以上は攻撃もされるだろう。後、力関係など色々とあるが奴隷紋の上書きは出来る。助けたいなやるべきだ」
「しかし……妹を……奴隷なんて……これ以上苦しめることは……」
驚愕の表情のまま目が泳ぐリディーナ
「それに、貴女が妹さんを一時的にでも奴隷に出来たら俺には解除出来る方法はある」
「そんな……いや、騙されないぞ……私は奴隷紋を消す方法をずっと探していたんだ。でも、無かったんだ。何が、目的だ」
「(目的ね……確かに目的もあるが今は言っても無駄だな……一層正体を明かすか。
しかし、今の彼女の状態では……ならば)」
シンヤは抑えていたロングソードから足を退かして離れる
怪訝な表情になるリディーナ。突然、背を向けるシンヤ
「信じて貰えないなら仕方ない。俺は彼女達を助けに行く、場所は分かってるからな
こんな事をされた以上、奴らのリーダーは殺してでも助け出す」
「やめろ……そんな事をしたら妹は……」
「死ぬな。しかし、助ける方法があると言っても聞かないのなら仕方がないだろう」
唖然とした顔で言うリディーナを無視して隠し通路に向け歩き出すシンヤ
「やめろ……やめろ……やめろぉ!!」
必死の形相でロングソードを摑み背後から襲い掛かった。ロングソードがシンヤに当たる直前
振り抜きざまにロングソードを弾き飛ばすシンヤ
肩、太股を峰で叩き最後に腹に叩き込ん机に叩き付けられるリディーナ
「た……のむ……やめて……くれ」
「(やり過ぎたが、ここまで力量差を見せられば信じるか? 後は彼女が知っているかだな)」
刀を鞘に収めて右手に召喚するのは、愛刀【輝煌一文字】
懇願するように見ていたリディーナが突如表れた刀を不思議そうに見た
刀を抜いて刃をリディーナに見せて
「この刀に使われている鉱石が何か分かるかな?」
「なにを……これは? 見たことない輝き……まさか輝耀煌鋼?! それに……この光はアルティマイト鋼か?! そんなまさか……どちらも数百年以上前に無くなった鉱石だぞ?! 文献でしか見たことないものがなんで……お前はいったい何者だ」
刀を鞘にしまいながら
「……俺の本名は平木 靱平だ」
「……はっ? 平木……その名前は千年以上前に魔王を倒した勇者パーティーの一員で……まさか……そんな」
今までで1番驚いた表情になり
「その、まさかさ。簡単に言うと俺は、女神の采配で千年以上後のこの時代に送られたんだ」
「そんな……バカな……でもあの強さといい、今の刀も今は無いもの……」
真剣な表情になり考えるリディーナ
「本当に、妹を助けられ……ますか?」
「ああ、さっき俺が言った事をしてくれたら助けられる」
聞いたリディーナはよろよろと動き正座をして姿勢を正すと
「今までの無礼を謝ります。どうか……妹を助けて下さい」
土下座をして頭を下げるリディーナ。
「頭を上げて欲しい。此方もやり過ぎたからね。
彼女達が攫われて怒っていたのもあったから、此方こそ申し訳なかったです」
リディーナの肩に手を置いて謝るシンヤ
頭を上げたリディーナは涙を堪えながらシンヤの顔を見て頷いた
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