第37話 暗躍



 スキルプレートを見て固まるユイナに



「何かあったのかな?」



「あの、スキル本の【スキル基礎】を覚えたのですが、それ以外に【集中】と言うスキルも覚えました。

 両方使えるみたいです」



 スキルを2つ覚えた事に驚くリリィとヒカリだが



「【スキル基礎】は本を読んでスキルを覚える学者専用スキルだよ。

 全てのスキルを覚えていく上で必要なスキルだ

 【集中】は本を集中して読んでいたから身に付いたと思うよ」



「そうなのですね。ですが、私はスキルの事を書いた本で覚えるのですよね。

 確かに集中して本は読んでましたが【集中】は書かれていませんでした

 あと、この【集中】はランクの(弱)や(小)がありません」

 (【スキル基礎】は基礎なのでランクはないのでしょう)



 シンヤに聞くユイナ



「スキルには使うとランクが上がるのと上がらないのがあるんだ。

 何を基準で分かれるのか俺にもハッキリ分からなくてね

 学者は【スキル基礎】を身に付ければ今回みたいに、本を読んで付随して覚えることがあるよ」



「なるほど。では、違う本を読んで行きます。

 【集中】スキルがあればより早く覚えられそうです」

 


 次の本を取り読み出したユイナ。 

 今まで話を聞いていたリリィが



「それにしてもシンヤさん。色々と詳しいのですね

 」



「まあ、たまたま旅をしている時に知ったんだよ

 知識を得るために古い本を読んだりしていたんだ」



 誤魔化しながら話すシンヤだが、リリィは“勉強家なんですね”と感心していた



「ユイナちゃん。スキル覚えるのは勿論大事だけど、先にご飯食べない? 冷めちゃうよ」



「……そうですね。折角、買って頂いて温かいのですからいただきましょう。

 本当に割り勘しなくていいのですか?」



 それぞれ注文した料理に手を伸ばすと



「気にしなくていいよ。かなりの額の報奨金が手に入ったしね。」



「「ありがとうございます。いただきます」」



 同時にお礼を言って手を合わせて食事を始めるユイナとヒカリ



「シンヤさん、ありがとうございます。

 えっと……い、いただき、ます……」

 (食べる前にこの動きはしたことないわね。 これで、いいのかしら?)



 2人の動作を見ながら手を合わせて言うリリィ



「リリィさんは、食べる前に手を合わせる事はないのですね」

 (お城に居たときも食堂でお城の人達も殆どしてなかったですね。

 数名の人はしてたので、全くしない訳ではないのでしょうね)



「えっ? あ、そうね。食べる前はしたことないわね。 食べた後は、ご馳走さまと言うぐらいね」

 (人間は毎回食べるときに言うのかしら?

 気を付けないと……)



 聞かれて一瞬ドキッとしたリリィ。直ぐに微笑みながら答える



「する人としない人が居るんですよね。因みに私もしたりしなかったりですね~。

 エリナさんのお勧め美味しいですね」



「人それぞれと言う事ね。フフッ 確かに美味しいわね。

 鳥肉揚げて野菜とソース掛けてパンを挟んだだけなのに……本当に美味しいわね」

 (私【家事】スキルあるのに……これが、人間の料理ね。本当に色々と学ぶ事あるわ)


 

 パンを見ていたリリィだが、ふと顔を上げて3人を見る

 嬉しそうにもりもり食べるヒカリ。

 少しずつゆっくりと上品に食べるユイナ

 そんな2人を微笑みながら見守るシンヤ


 その時、リリィの頬を一筋の涙が伝う


「えっ……あっ……何で 涙が……止まらない……うっ……」

 (そうだシンヤさんを見たとき……お父さんを思い出して……みんな……)

 


 1つ涙が流れると堰を切ったように止め処なく溢れる涙

 抑えようと両手で顔を包むも止まらずに嗚咽も漏れる



「リリィさんも辛かったですよね……側に居ますから」



「リリィさん……辛いこと沢山あったもんね。

 思いっきり泣いたら少しは楽になるから」



(家族を亡くして近しい人達も亡くなり帰る家もなくなったんだ。

 その状態でゴブリン達に……

 人間として偽り人間の中で暮らすとなると色々と不安などもあるだろう)



 左側をユイナが寄り添い、右側をヒカリが寄り添っている

 シンヤは側に立って優しく頭を撫でていた


 暫く泣き続けたから少しずつ落ち着きを取り戻したリリィ

 ハンカチで涙を拭いて



「……ごめんなさい。落ち着きました。

 心配かけてしまったわね。それに、ご迷惑おかけしました。」



「俺達は迷惑とは思って居ない……少しずつしていけばいいよ」 



「シンヤさんの言うとおりです。一緒に生活する仲間なんですから」



「そうですね。お昼ご飯食べましょう」



 申し訳ない表情で謝るリリィ。シンヤ達は優しく笑いながら話す

 ヒカリの言葉で席に戻って昼食を再開した

 すると、リリィがポツリと


「その……シンヤさんは怒るかも知れませんが、先程のシンヤさんを見ていたら父を思い出しまして……ごめんなさい」



 リリィの言わんとする事が分かったシンヤは首を横に振り



「そうか、全然気にしてないから大丈夫だよ。

 俺は42歳だから年齢的に3人の親位になるのかな」



「「「……えっ?」」」



 同時にシンヤの顔を見て固まる3人



「えっ? えっ? 嘘ですよね? どう見ても20代にしか見えませんよ。 嘘だと言って下さい」

  (……お父さんと同い年なの? あっ、それで先程の眼差しに表情で重なったのかな)



「本当だよ。まぁ、20歳でしょ……色々とあって30歳過ぎて本格的に1人で旅に出たんだ

 そして、ユイナさんとヒカリさんにリリィさんに出会って今に至るかな」



「とても42歳には見えません。 ええ、本当に……でもそうですね」

 (あの若さは、女神様に直接召喚されたからでしょうか?

 話しの内容から20歳で召喚されて、30歳過ぎに魔王を倒してそこから1人で世界を旅して……そしてこの時代に再度召喚されたのですね)



「何をどうしたらそんなに若さを保てるの?

 しかも、お父さんより年が上ですから驚きですね」

 (もしかして女神様の力? それとも異世界召喚ならではとか? 20歳前半かと思ってたよー!)

 



 何処か納得した顔のリリィと、無表情のまま目だけ見開いて驚くユイナに、信じられない表情のヒカリ



「驚かしたね。まあ、生きてれば色んな事があるよ。

 さて、ご飯食べちゃおうか」


 

 シンヤに促されて食事の続きを食べる3人

 お互いの距離が近付いたと感じながら時折話して食事をする事で楽しい一時は過ぎて行った


 食べ終わり勉強を再開した3人の横で考えているシンヤ。

 考えが纏まったのか席を立ち



「悪いが少し出てくるよ。夕方までには帰るからそれまで勉強してて貰えるかな

 食堂に戻す物はついでに戻して来るよ」



「分かりました。戻られるまでには、最低1つはスキル覚えてみせます」



「私も、文字を読めるように頑張ります」



 シンヤは頷いて



「分かった、無理しすぎ無いようにね。

 それと、エリナさん以外の人が呼びに来ても出なくていいからね。

 覚えるのに集中するんだよ。行ってくる」



 食堂のトレーや水筒を持ち部屋を出てエリナの所に行った



「あ、シンヤさん。もしかして、私のお勧め食べて貰えました?」



「はい、皆で食べました。美味しかったです。

 皆美味しいと言って食べてましたから

 それで、食堂の支払いをしたいのですが」



 シンヤに気付き声を掛けるエリナ

 美味しかったと言われて嬉しそうに笑う



「分かりました。それでは、プレートと渡された紙をお願いします」



 プレートと紙を受け取ると奥に入るエリナ

 少しして出て来て



「プレートをお返しします。それと、食堂にお返しするトレー等は此方で一緒に返しましょうか?」



「ありがとうございます。お願いします。

 お願いついでに、1つ頼みたい事がありまして良いですか?」



「何でしょうか?」



 嫌な顔をしない笑顔で聞くエリナ



「俺は夕方まで外に出て来ます。

 その間はユイナさん達は資料室で勉強するのですが、もし誰か訪ねて来たらエリナさん経由でお願いします」



「分かりました。お任せ下さい」

  


「ありがとうございます。お願いします」



 笑顔のまま頷くエリナ。お礼を言って扉に向かうシンヤ



「(さて……どう出るか。相手はメンバーの数を正確に報告してない可能性もあるだろう

 早めに動いて来るだろうな)」



 考えながらギルドを出るシンヤ

 シンヤを、少し離れた位置で見ている人影があった

 食堂で絡んで来た【常世ヘブンズ闇牙ブラッティ】のメンバー



「舐めた真似をしてくれたが、お頭が欲しがった女の連れとは運が良いな」



「……あいつは腕が立つ。舐めたら此方が痛い目見るぞ」



「ちっ、うるせぇぞダーネル! あっさりやられて撒かれた癖によ!」



 ダーネルを睨みながら怒鳴る剣士の男



「……ラーフお前もあっさり追い返されてたよな」



「あぁ、何かいったか?」



 小声で呟いたので剣士ラーフには聞こえて居なかった。

 “別に”と言うと



「……で、本当に確かなのか? お頭がバルボッサ商会で目を付けた商品になる奴らか 」

 (はぁ~命令とは言え、女を商品て言わされるわ

 下手したら……何でおれこのクランに入ったんだ)



「それは、間違いねぇ。の情報だからな。これで、上手くいきゃもっと上を目指せるしランクも上がる

 おまけにあの野郎の鼻も明かせる クククッ」



 嫌らしい笑みを浮かべるラーフと仲間たち。

 ダーネルは内心溜息をついていた


 その頃ギルドの外で目を瞑り壁にもたれ掛かり【聴覚(EX)】 【集音】 【気配察知(EX)】のスキルを発動させて、相手の気配と場所を特定させ話を聞いていたシンヤ



(想像通りか。しかし随分、巫山戯た事を考えているな。

 が気になるが恐らくは……なら離れるべきではないか

 でも、離れないと動きは無いだろうし早めにカタをつけようか……どっちにしろ)



 そこで、ゆっくり目を開いて



「来るのなら、叩き潰すのみだ」



 付いてくる気配を感じながら歩くシンヤであった







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