第23話 ギルド長と




 ロード達の頭を振り回して走るエリナが向かう先



 〔中立都市ランドール冒険者ギルド長執務室〕



 冒険者ギルド5階にありギルド職員でも用事がないと入れないフロア。

 その1番奥にあるのがギルド長執務室

 部屋の主は書類を書いていたが、駆け足で近づいて来る足音に気付いて顔を上げる

 肩より長い銀色の髪をポニーテールに束ね、銀色の瞳で扉を見る


「……はぁ、また【常世ヘブンズ闇牙ブラッティ】が何かしたのかしら……(色々とSランクに上がって、ますます手に負えなくなってるわね)」



 目を瞑り眉間の所をほぐす男装の麗人と呼ぶにに、相応し格好と美貌を兼ね備えた人物

 『中立都市ランドール冒険者ギルド長』にて数少ないSランク冒険者リディーナ・エル・ウィーン


 しかし今は若干、疲れの色が見え隠れしていた。

 リディーナの心情はお構いなしに近づいて来る足音。

 本来ならノックをして許可を貰い入るのだが、勢いそのままに入って来た



「なっ? 魔物?!」



 エリナがロード達の顔を前面に突き出して入って来たため、咄嗟に机の横に立ててあるロングソードを構えるリディーナ



「うぇぇぇん! ギルドちょうぉぉぉ!」



「えっ? エリナ? 貴女何をやって……っ?! その魔物はまさか?!」



 エリナに気付いて呆気に取られたが、彼女が持つ魔物の顔に気付き目を見開いて驚く



「はいぃぃぃ! そうです! ローキンですぅぅぅ!」



「ろ、ローキン?……ゴブリンロードとキングね。少し落ち着きなさいエリナ。

 いえ、落ち着いてる場合ではないわね……兎に角ロードが倒されてるのは幸いね。

 でも、いつの間にゴブリンロードに進化したの? それよりも、被害状況を確認しないと

 エリナ、死亡者は? 怪我人に状況は何処まで把握出来てるの?」



 エリナの言葉に一瞬首を捻るが、すぐにギルド長の顔になるリディーナ



「あの……被害は出てないと言いますか、ああでもやっぱり出てるんですよね? どっちなんですかぁぁ」



「……分かったわ。エリナ、ロード達を倒した者はギルドに居るの? (かなり混乱してるわね。仕方ないけど)」



「はい! 1階の〔小会議室〕に居ます」



「〔小会議室〕ね、待たせる訳にも行かないわ。エリナ 一緒に行くわよ。

(小会議室はせいぜい10人程度しか入らないわ。

 ゴブリンロードを倒した人数がその程度の筈がない。恐らくクラン代表メンバーが待ってるわね。

 手間を取らせる訳にには行かないわ……まさか【常世ヘブンズ闇牙ブラッティ】ではないわよね……ないわね)」



 本当は色々と違うのだが、リディーナの考え方がこの世界では一般的である



「わ、私もですか?!」



「当たり前でしょ。私の所に来たって事は、ゴブリンロードを倒した人達の受付をしたのは貴女になるわね」



 基本、受付をした職員が男女問わず必要に応じてギルド長等に繋いだり呼びに行ったりする



「はい、そうです。分かりました、一緒にお願いします」



「宜しくね。それと、ロード達の頭は私が預かるわ。ずっと持ちたいなら別だけど」



「えっ? わっわっわっ?! お願いします! ごめんなさい」



 リディーナと話して大分落ち着きを取り戻したエリナだったが、ロード達の頭を持ってる事に気付き慌ててリディーナに渡す。

 受け取ったリディーナはシンヤ達が待つ〔小会議室〕に向かった。更なる驚きが待つとも知らずに。


 その頃、〔小会議室〕で待つシンヤ達は


 

「エリナさん頭を持って、奇声上げながら出ていったきり帰ってこないね」



「そうですね、ヒカリさん。恐らくギルド長と言われる人を呼びに行ってる筈ですね」



「此方に向けた気配が2つ近付いている。1つはエリナさんだから間違いないと思うよ」



「その……気配ですか? それで人の動きが分かるのですから凄いですね。

 そのお陰で私も助け出されたんですね。本当に感謝しています」



 来るまでの間、それぞれ話をする4人

 徐に、シンヤが扉に顔を向けて“そろそろ入ってくる” と言ったので、話を止める3人

 そして、ノックをする音が聞こえて



「失礼します。この冒険者ギルド長のリディーナです。反対側の席失礼します」



 OLのパンツスーツに近い服を着たリディーナは、エリナを伴いシンヤの反対側の席に座った。

 リディーナの後ろに立つエリナは落ち着きを取り戻した様に見えた


「改めて当ギルド長リディーナ・エル・ウィーンと言います。

 ゴブリンロードを倒して頂きありがとうございます。頭は机の上に置かせてもらいます。

 それと、職員が失礼な態度を取った聞きました。申し訳ありませんでした」

 


 ゴブリンロードとキングの頭を置いて、真剣な顔で頭を下げるリディーナとエリナ



「初めまして、俺はシンヤと言います。

 左横に居るのがリリィ、後ろの赤髪の子がユイナ、緑髪の子がヒカリと言います。

 ゴブリンを倒したのは、たまたま見つけたからです。エリナさんの事は気にしていないので大丈夫ですよ」



 シンヤが紹介してそれぞれ頭を下げる3人



「ご紹介ありがとうございます。

 そう言って頂けると助かります。

 ゴブリンロードの事は恥ずかしながら、ギルドも把握出来て居ませんでした。

 このまま野放しになっていたら被害は拡大していました。

 それで色々お聞きしたいのですが、まずゴブリンロードとの戦闘で被害はどれ程出ましたか? 

 此方としても出来る限りの事はさせてもらいます」



 リディーナの話を聞いて違和感を感じたシンヤは

 


「エリナさん、リディーナさんには話してないのですか?」



「えっ?! それは……そのぉ……ご、ごめんなさいぃぃ! テンパってました! 」



 

 シンヤに振られて体がビクッとなり、リディーナにも見られて顔を背けるエリナ

 もごもご口を動かすが、リディーナに睨まれてシンヤに思いっきり頭を下げた

 


「本当に申し訳ありません。もう一度お話をお聞かせ願いたいのですが、如何でしょうか」

 


 頭を下げてシンヤに聞くリディーナ



「分かりました。まず、隣に座るリリィさんはゴブリンから助け出した人です。そして、ゴブリンロードを含めてゴブリンの巣に居たゴブリン達を俺1人で倒しました」



 話を聞く表情のまま暫く固まるリディーナ


 

「はぁ? いや、失礼……ゴブリンロード達を倒したのは、シンヤさん1人で、と言いましたか?」



「はい、その通りです」



 顔が引き攣りそうになるのを、必死で抑えて真顔でリリィやユイナ達を見るリディーナ

 ユイナとヒカリは頷いて肯定する。リリィは



「信じられないかも知れませんが、シンヤさんの仰る事は全て本当です。私は、ゴブリンから助けられました。

 その事は、シンヤさんが全てのゴブリンを倒した後に来た、ヴァリアント砦の警備隊長のジェイドさんも確認しています

 ジェイドさんの手紙も預かっています」



「それは、本当ですか?! それなら、初めからそう申して頂けたら良かったのに」



 驚いてシンヤとリリィの顔を交互に見るリディーナ。だが、シンヤは困惑していた。



「手紙に関してはシンヤさんはご存知ありません。

 バタバタしていたので、私が受け取りました。

 ジェイドさんも忙しくしていましたので、代筆で同隊員のエルマさんが書かれたのを預かってます」



 懐から手紙を取り出すリリィ。それを、エリナが受け取りリディーナに渡す



「確かにヴァリアント砦の書簡に封蝋ですね。

 読ませて頂きます」


 手紙を読み出すリディーナ



「(エルマさんが代筆しているって事は、俺の事どう書いてるんだろう)」



 代筆とは言えエルマによって書かれている内容が気になるシンヤだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る