第19話 ヴァリアント砦の人間



 ヴァリアント砦がある方向を見て思案するシンヤ



「(レニーナさんは、身柄を保護してもらえるのか? リリィさんは魔族の女性……相手が分からない以上迂闊に渡さない方が良いのか?)」



 何も言わないで考え込むシンヤに



「なぁシンヤ。ヴァリアント砦にアタシの兄さんが勤めてるんだ。アタシの名前出したら助けてもらえるぞ」



「なるほどな。でも、魔族のリリィさんは大丈夫かな? 魔族に面する砦なら魔族の女性に対して、よからぬ事を考える者も居るのでは? よからぬで、気付いた。裸のままだから、取り敢えず毛布2枚あるから隠して……はい」



 レニーナが鼻息荒く言ってくるのに対して、冷静に考えるシンヤ。裸だったのを、思い出した2人は、顔を真っ赤にして慌てて毛布を受け取った。

 後ろを向いて体をくるんで



「その……毛布、ありがとう……ございます。

 それと……ですね。誰とは分かりませんが、何名かの砦の人に、襲われた女性が居ました。

 かと言って、この様な体では魔界に戻れないです

 それに、ゴブリン達ほど酷い目には、遭わないと思います。

 砦の方に保護をお願いしてみます。 (これ以上、迷惑は掛けられません)」



「そんな……兄さん達がそんな事するとは思えない!」



 悲しそうに頷くリリィと、あり得ないと首を振るレニーナ



「レニーナさんの兄上は、そんな事はしないのだろう。でも、他の人までは分からないからね。

 じゃ、見た目、魔族と判らなければ大丈夫かな? 

 (確か変身指輪リングの予備があったはず……これだ)」



「見た目を変えると言ってもこんな肌ですし、変装の技術も持っていないので……私は大丈夫ですよ」



「変装っても難しいからな。直接、兄さんに言えば大丈夫かな? そうすれば、良いんだよな?」


 

2人が、変装について考えていたら



「リリィさん、変装ならこの指輪で出来ますよ。利き手の反対の中指に嵌めてみて下さい」



「えっ? 指輪ですか……その、疑う訳ではないのですが、本当に姿が変わるのでしょうか? 聞いた事がないものでして」



 疑わないと言いながら、疑いの眼差しを向けつつ左手の薬指を隠すリリィ



「(利き手、反対の中指と言ったのだけどね……付けたら分かるんだけど、どうするか。この世界にないものだからな。彼女達ほどの、信用はまだ得てないのもあるか。) 」



「別に、1度付けてみたら良いんじゃないか? そうしたらわかるよな」



 レニーナに言われて、少し考えていたが“……そうですね”と頷き左手の中指に嵌めた

 すると、灰色だった肌は、健康的な人間の肌に、髪の色も黒色になり瞳の色も黒色から緑色に変わっていた。



「すっげ?! 何処ら見ても人間だよ! どうなってるの?! これ! 凄いんだけど!!」



「ちょっちょっちょっと お、おち、落ち着いて ま、待って下さい?!」



 興奮と驚きで、リリィの顔や腕を触り体を揺するレニーナ。ガクガク揺さぶられ困惑するリリィ

 その間に、アイテムボックスから手鏡を出すシンヤ



「少し落ち着こうかレニーナさん。リリィさんこれで信じてもらえたかな」



「あっ……その、ごめん……」



「は、はい、こんなに変わるなんて……その疑ってしまいごめんなさい」



 シンヤに渡された手鏡で、自分の顔や肌を見て驚くリリィ。すぐに頭を下げて謝った



「さて、ヴァリアント砦の人達は、ゴブリンの巣の入り口まで来ている。感じる気配がかなり驚いているが、じきにここまで来るだろう。

 そこで、このままは来た人に説明して一緒にヴァリアント砦に行くか如何するか何だけど」



「如何するって、アタシは一緒、ヴァリアント砦まで行ってそこからギルドに報告しないとな。

 ガイル達の事も話さないとだし……シンヤのことも話さないといけないけど、あんたは如何する? ってか、冒険者だよな?」



 レニーナの問いに頷きながら答えるシンヤ。



「俺は、冒険者だよ。今は、冒険者に成り立ての女の子2人に指導をしていてね。

 その子達が、薬草採取してる間に、ここの異変に気付いて来たんだ (……嘘ではないよな。ある意味……)」



「そうだったんだ。じゃ、早く戻って上げないと心配だな。ならギルドの報告、先に簡単にしてもらえないかな? 助けてもらって何だけど……アタシが戻ったら勿論するけどね」



 申し訳なさそうな顔になり、お願いするレニーナに頷くシンヤ



「……あの、シンヤさん。私も一緒に連れて行って貰うことは、出来ますか? その、レニーナさんのお兄さんを疑う訳ではないんです。

 それ以外の方が不安でして。あの、我が儘言ってると思っています。駄目……でしょうか?」



「俺は構わないが、レニーナさんの方は良いのか? それと、一緒に行くなら辻褄あう話を考えないといけないな」



「おぅ、アタシは構わないぜ。でも、辻褄あうってどうすんだ?」



「ありがとうございます。その、話は一応考えています」



 リリィが、考えたゴブリン連れ去りなども含めて3人で話あった。

 話している間も、入り口付近で動いてる気配はあるが、中には入って来ていなかったが



「よし、取り敢えず、それで行こうか。身の振り方については、落ち着いてから考えよう……話をしている間に、洞窟に突入してきたな」



 話が纏まり頷く2人。シンヤの突入発言で顔が強張るリリィ。


 此方に、近づく複数の足音が、段々とハッキリ聞こえてくる

 部屋の入り口から、鎧で身を包んだ、20代後半の2m近い身長に精悍な顔つきをした男性が表れた



「此方で話し声が……レニーナ?!」



「っ?!……兄さん!……ジェイド兄さん!!……兄さーん! うっ、……ぐすっ……うあぁぁぁん! 」



 ジェイドと呼ばれた男性に、飛びつき顔を埋めて大きな声で泣くレニーナ。



「……ゲイルがぁ……ひっく……ミューがぁ……ぐすっ……うっ…うっ……アタシもぉ……うぅ……」



 泣き続けるレニーナを、優しく抱きしめて背中を摩るジェイドであった 


















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