第18話 戦闘を終え


 呟いたシンヤの声が聞こえたのか、頭を下げていた魔族の女性が



「お願いします。殺さないで下さい。見捨てないでで下さい。出来ることは何でもします。」



 シンヤの足下に這い蹲り頭を下げる



「安心して、殺さないよ。見捨てないから、そんなに、慌てなくても大丈夫だ。ここにゴブリンはもう居ない」



「えっ? 居ないって……ゴブリンロードにジェネラルに見つかったら殺されます。それに、私達を囮にするのではないのですか?」



 ゴブリンが居ないと言われて、今までの慌てぶりが嘘のように静かになる魔族の女性。

 もう一人いる人間の女性と共に驚いた顔になり、信じられない表情をしている



「ゴブリンロード以下、全てのゴブリンは俺が倒している。証拠出そうか (まさかここで出すことになるとは……)」



 アイテム袋からロード・キング・ジェネラルの首を取りだして2人に見せるシンヤ

 あんぐりと口を開けて固まる2人。暫く固まっていたが、我に返った魔族の女性が、先ほど以上に顔色を悪くして冷や汗を掻きながら頭を下げる


「申し訳ありません。疑ってごめんなさい。謝ります。何卒、命だけは……お願いします。何でもしますから。」



「怒ってないから、気にしてないから大丈夫だよ。落ち着いて、安心していいよ (この反応。この世界もゴブリンなどに連れ去れて、繁殖相手をさせられたら、状態によって言い方悪いが “処分” に近い事になるのか?)」


 考えながら2人に手を伸ばすシンヤ。体が一瞬、大きく震えて目を瞑る2人の女性。

 ずっと小刻みに震えている頭に優しく手を乗せると


「少しじっとして」



 上目遣いに見てくる2人に、優しく声を掛けを流すシンヤ

 頭から温かいものが流れて不思議そうにする2人

 少しずつ気持ちが落ち着き、暴力を振るわれた所の痛みなどが消えて和らいだ表情になった2人


「改めて言うけど、君達に危害を加える事はない。その上で、貴女から少し聞きたい事があるけど、場所を変えようか?」



 魔族の女性は、地面に打ち付けた額の傷を触り消えているのに驚いていると、慌てて頷いて“大丈夫です”と答える



「ありがとうございます。俺は、シンヤと言います。まず、貴女の名前は?」



「わ、私は、リリィと言います」



 やや緊張気味に答えるリリィ。シンヤは微笑みながら


「リリィさん、貴女は魔界に居る所を攫われたのですか? 他に攫われた方々は、その、奥に居る人々でしょうか?」



「はい、少し長くなりますが。私達は元々カイルド帝国に近いレーズ村で暮らしていました。

 そこに、ゴブリンロード率いるゴブリン達が突然襲って来ました。

 勿論わたし達も抵抗しましたが、ゴブリンロードの前ではあっという間に、村の男達は殺されました。その中で父が辛うじて私を村から逃がしてくれました」



 ここまで、話して村が襲撃にあった当時を思い出し、顔が引き攣り呼吸が乱れるリリィ。

 一旦、呼吸を整え気持ちを少しずつ落ち着けていた

 その間、シンヤは促す事なく静かに続きを待つ


「……そして、私は近くの村に助けを呼びに行きました……ですが、皆ゴブリンロードが表れたと聞くと、誰も助けには動いてくれませんでした。

 どれ位の時間、助けには奔走したか分かりませんが、結局呼べなかった私は、村が気になりこっそり戻りました

 戻る途中にゴブリンに掴まり、ここに連れ込まれました。私が連れて来られた時には、皆ゴブリンの赤ん坊を生んで……いたり孕んでいました……そして、私も……わ、わたしも……あ、ああ……」



 話して行くうちに、段々と顔色が悪くなる。


 巣の話になると、自分の肩を抱いて顔が恐怖で引き攣り震え出すリリィ

 包み込む様に、優しく抱いて“気力”を流していくシンヤ



「リリィさん、ありがとう。辛いこと話してくれて……大体分かったから、ゆっくり……ゆっくり……」



 抱きしめて背中を摩りながら、“気力”を流し続けるシンヤ。静かに、もう一人の人間の女性を見ると



「……貴女の、名前だけでも教えて貰えますか? 無理にとは言いませんが」



「……アタシは、レニーナって言います。一応冒険者していてランクはDだ……です。

 アタシは、2日前ギルドから最近ゴブリンが増えてきた調査の依頼を受けて来たんだ。

 アタシ以外に“剣士のゲイル”と“魔法士のミュー”て言う兄妹の3人で調べに来たんだよね。

 最初は、ゴブリンだけだから何とかなってたんだよ。でも、突然ゴブリンキングが表れてゲイルを大金鎚で一撃で叩き潰しちまいやがった!

 兄が殺されたミューは、手当たり次第に魔法放ってたらゴブリンジェネラルに……っ!」


 頭に血が上って怒りを露わにしたレニーナだが、目を瞑って落ち着かせていた



「ごめん……2人が殺されても戦ったが、アタシは弓矢が得意で後衛の支援担当だからさ。

 すぐ掴まってね。それから、2日間はあんたの想像通りさ。

 ただ、アタシは初めてじゃなかったからね。それに冒険者もしてるから、ある程度覚悟は出来てた。

 だから何とか耐えれたって……言いたいけどさ。

 本当は、シンヤ……さんが、助けに来てくれるのが遅かったら、アタシも彼女みたいになってたよ」



 と、力なく笑うレニーナ。辺りを見回して



「アタシからも聞いてもいいかい……ですか?」



「敬語は無理に使わなくていいよ。呼び捨てで構わない。聞きたい事は何かな?」



 敬語で話してなかったのを思いだし、敬語を使おうとするレニーナ。気にしなくていいと言われて頷きながら


「洞窟の中静かだけど、シンヤの仲間は外に居るのか? 中の調査に手が回らないのかい?」



「ゴブリンの巣に来たのは俺1人だよ」



「「……えっ?」」


 1人と言われてレニーナだけでなく、落ち着きを取り戻したリリィも同時に声を上げた



「いやいやいや、何言ってんの? 1人……え……えぇ?! ゴブリンジェネラル1体倒すのに冒険者Bランクが最低3人いるんだいね! しかもゴブリンロードはAランクとSランク冒険者パーティーが複数居ないと倒せないだよな?! それを1人?! 4体は居たはずだい?! えぇ?!」


 驚きの余り所々言葉がおかしくなるレニーナ



「もしかしてシンヤ様は高名な冒険者ですか? 若しくは、“剣帝”の称号を持つ騎士団長ですか?」



 姿勢を正しシンヤを様付けで呼ぶリリィ



「リリィさんそれは違う。後、様は付けないで下さい。確かに4体とゴブリンが50位居たと思うが、全て1人で倒したよ……うん、倒しました (……強さに見た目は同じはずだったよな? ロードはA、Bランクが居たら普通に倒してたよな? 

 この世界の冒険者のレベル低いのかな?)」



 「まじか~ でも、それだけ強かったら名前は知れ渡ってるよな? ん~ん?」



「分かりました。シンヤさん」



 苦笑いをするシンヤ。すぐ、真剣な顔になりある方向を見る



「シンヤさん、どうされました?」



「複数の人間の気配があの方向から近付いて来ている」



 言われてシンヤの指差す方を見る2人



「あの方向はヴァリアント砦がある場所じゃねーか! 確かカイルド帝国の第1皇子が指揮を執ってるはず!」



 驚いた顔で砦の方向を見るシンヤとリリィ



    ヴァリアント砦


 それは、魔界に対して構える防衛基地でもあるのだった

 










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