第7話 遭遇したが……
ゴブリンの首が、宙を舞うのを呆然と見ていたら、いきなり引っ張られ地面に座らされる結衣
座らされた横に陽菜が、左脇を抑えて蹲っている
「陽菜さん?!」
痛みで、苦しんでいる陽菜を抱え上げようとして
「短剣が刺さっている。無闇に動かすな」
言われて、見上げる結衣。2人を庇うように、立つ後ろ姿。黒髪に灰色のパーカーを着て、ちょっとダボッとしたズボンを穿き右手は刀を持つ男性がゴブリン達と対峙立している。
「何とか、間に合ったな」
ゴブリンから視線を外さず、結衣に声を掛ける男、靱平である。声を掛けられても驚きで、放心状態になっているので分かってない
「ギャギェェェ!」
叫び声を上げながら、左側のゴブリンが棍棒振り上げ襲いかかる。
ゴブリンに対して、左手の裏拳を顔面にたたき込むと、そのまま木に激突して潰れる音がした
次は、真正面と右側のゴブリンが一斉に襲いかかるが、音もなく振り抜いた一閃で、5体の首が飛んだ。
残り1体のゴブリンが真正面に立ったまま、固まっていた。そのタイミングで、後を振り返る靱平
そこで、我に返った結衣は
「い……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
叫びながら陽菜を抱えて逃げ出した
「……えっ?……はい? 」
変な声を上げて一瞬、唖然とするもすぐ戻り正面のゴブリンを睨むと
「ギャギャャャャャャァァァア!」
此方も、叫んで逃げ出した
「いや、お前もか?!」
咄嗟にアイテムボックスを出しある物を取り出すと、ゴブリンの背中に投げつけた。
投げつけられた事に気付かず、一目散に逃げるゴブリン
「このまま、巣まで戻ってくれたら手間が省けるが……それより」
後ろに向いて結衣達を追い駆ける靱平である
「はぁ……はぁ……はぁ……もう……無理」
肩を支えて逃げていたが、体力の限界で陽菜と一緒に倒れ込む結衣
「うっ……くっ、ううっ…」
「陽菜さん?! 分かりますか? 意識ありますか?」
声をもらす陽菜な顔を覗き込む結衣
「短剣を……抜いて……欲しいの、じゃ……ないと……回復……出来ない」
頷いて短剣に手を掛ける結衣
「抜きますよ……3・2・1、抜きます!」
「ぐうぅぅ!」
一気に抜く結衣。陽菜は、傷口を抑えて回復魔法をかけ続ける。陽菜の顔にいくつも油汗が浮かび結衣が、ハンカチで拭き取りながら、背中を摩っていた
暫くかけ続けていると、傷が治り血が止まる。
血が止まったのを見て、ホッとした顔になる結衣
「良かった、治りましたね。陽菜さん……陽菜さん? っ?! 陽菜さん!!」
返事もなく動かない陽菜。慌て陽菜の口元に、耳を当てる結衣
「スー スー スー 」
静かに寝息をたてている陽菜。息を1つ吐いて緊張が解けたのか、全身の力が抜ける結衣。
「はぁー 良かった」
結衣の背後から
「治ったみたいだね」
優しく声を掛けられ、飛び跳ねるほど驚き短剣を両手に持ち陽菜を庇う形で振り返る。
そこには、靱平が右手に刀を持って立っていた
1歩近づくと
「っ! 来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで!」
顔を引き攣らせ、両手に持った短剣を上下に振り回す結衣。
靱平は無言で刀を頭の上あたりに構える。すると、結衣は動きを止め息を飲んだ
刀を振り下ろすのが見えたら、目を瞑り顔を両腕で守る結衣。
次の瞬間、何かを斬る音と、風圧が結衣を襲う
「……うっ?!」
少しして
「もう、目を開けて大丈夫だよ」
先程よりも、優しくなった声を掛けられ、おそるおそる目を開けると
「……えっ?」
目の前の地面に、先程までなかった線が引かれていた
「その線から先に近づかないから安心して良いよ」
言われて、更に驚いた表情で、靱平の顔を見る結衣
「な、何が、目的ですか?」
疑う視線を向けて聞く結衣
「目的か? 強いて言うなら、君達を守ることかな? 」
「……えっ? で、本当の目的は何ですか?」
疑惑の眼差しを更に強めて聞く結衣
「ええっ? そうだな。そこで、寝ている子は、恐らく魔力切れを起こしてると思う。暫くは、目が覚めないだろう。
先程の、ゴブリンとの戦いを見ていたら守れないと思う。だからだよ」
(疑り深いのは、危険な世界では大事だけど、ここまでとは……何かあったな)
言われて、考える結衣。魔力切れを起こしてるのか分からないけど、いざ戦えるかと言われたら自信は無い
「それに、もし俺が例えばの話だが君達の体目的ならとうに襲ってると思うけどね。そんな事はしないが」
言われて少し納得する結衣。彼の実力があるならとうに襲われてると思う
「そう…ですね。分かりました。ありがとうございます。それと、疑ってごめんなさい」
「分かってもらえたなら良かったよ」
疑いの眼差しが消える結衣。相変わらずの無表情だが。すると、靱平がアイテムボックスから何かの布を取り出した。
どうなってるんだろう、あれっと思いながら見ている結衣に
「君は、まずこれを着て」
結衣に投げる。受け取った結衣は広げて見て
「これは……マントですか?」
不思議そうな顔で靱平を見る結衣
「あーその、何て言うか、服が破れて色々と見えてはいけない所が見えてる……かな」
「……っ?! 」
言われて下を向く結衣。言われた通り色々と大変な状態になっている事に今気付いた。
途端に、耳まで真っ赤になるも、表情は無表情に近く、不思議な顔になっている
「はうっ?! あのっ?! あうあうあう///」
靱平に背を向けてわたわたしながらローブを羽織る結衣。靱平も背を向けて地面に座った。暫く落ち着くまでわたわたしていた結衣である
「落ち着いた?」
「は…はい、その色々とごめんなさい。それと」
少し顔が赤いが、正座をして姿勢を正す結衣。
靱平も座ったまま姿勢を伸ばす
「改めて助けて頂きありがとうございます。私は 永原 結衣と言います。それと、横になっているのが、橘 陽菜と言います」
頭を下げて自己紹介をする結衣
「どういたしまして。永原さんと橘さんね。俺は、ひ……
「平井 信也さんですね。分かりました。では、平井さんとお呼びします。私も……いえ、その……」
本名を言おうとしたが、考えて偽名を言う靱平。
結衣は、名前を好きに呼んで良いと、言いたかったが、口篭もってしまう
「無理をしなくて良いよ。俺は、永原さんと呼ぶから、それで良い? (本名名乗っても良かったけど、あの女神の事だし何か引っ掛かる。
考え過ぎかも知れないけど何かありそうだしな。
ハッキリ判るまでは、念のために隠しておこう)」
頷く結衣。そこで、気付いた事があり
「そう言えば、平井さんて、日本の名字ですよね。確かこの世界は、日本人名は無いと教わりました。もしかして平井さんは私達と、同じく召喚された人ですか?」
「その通り。召喚された日本人です。と、言ってもここが、2回目なんだよね」
2回目の発言で驚く結衣。ただ驚いても殆ど表情を変えてない結衣。それでも、靱平は雰囲気や気配で分かっていた
「2回目……」
「本当は1回目の時が終わった後、日本に帰れる筈だったんだよ。何故か2回目に送られたけど」
「えっ? 何かあったんですか?」
日本に帰れたと聞いて、少し前のめりになる結衣
「あったみたいだけど……今の所それは、分からないんだよね。所で、君達は何人召喚されたの? 君達2人だけだよね?」
「分からないのは、大変ですよね。私達は2人だけではないです。21人です」
「……んっ? 今……何人って言った?」
人数を聞いて一瞬固まる靱平
「21人です。この国の帝王と皇女が召喚しました」
「・・・・・・」
「あの……平井さん?」
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ?!」
(これか?! 俺がここに送られたのは?! 21人?! 何考えてんだよ?! 馬鹿か?! アホか?! 女神の話なら、そんな人数召喚しようとしたら普通は神が止めるはず?! まてよ、ギャル擬き女神は、尻拭いがとか言ってたなって、その尻拭い俺にさせる気か?! おぉいー!!)
「えっ? あ、あの平井さん? 大丈夫ですか? えっ? えっ?」
突然、絶叫して頭を抱える靱平対して、思わず立ち上がり無表情でおろおろする結衣である
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