第6話 逃走の先に……



  結衣と陽菜が森の中に逃げていた頃


 森の入り口にある拠点は阿鼻叫喚の地獄絵図と貸していた

 騎士を襲い食べたソルジャーベアが、今度は拠点を襲って来た。

 その時は、秋多含め皆戻って居たので、最初は秋多と上級騎士をメインに戦いながら撤退の準備をしていた。


 ソルジャーベアの“魔気”に充てられたのか、森のゴブリン、ローウルフ、猪の魔物バウンドボアの群れが襲って来たためパニックになり



「俺の腕がぁあ 食いちぎられて、助けてくれぇぇ」



「来ないで、来ないで、来ないでぇぇぇ」



「血がぁ、血が止まんねぇよ」



「ちぃ、これでは、撤退もままならん」



 中級騎士が、コブリンの首を刎ねながら、舌打ちをする


 腕を噛み千切られた男子、複数のゴフリンに捕まり、服を破られされそうになる女の子、腹をゴフリンのナイフで刺され血を垂れ流す男子など半数以上のクラスメイトが怪我や大怪我を負っていた。


 彼等を、守りながら下級騎士と中級騎士それに冒険者が戦っているお陰か少しずつ数が減ってきた。

 更に、立ち直った東城や、戦えるクラスメイトも参戦して、徐々に押し返している


 そして、ソルジャーベアと戦っている秋多達は



「あーくっそ! 切れねぇぇ! どうなってんだこいつはよぉ」



「仕方ない秋多殿。ソルジャーベアが相手ででは鋼の剣の硬さでは無理は……ない! っく」



 秋多と上級騎士が前衛で戦い、阿仁間と多立が後衛で攻撃魔法と補助魔法でサポートしていた。



「[水流ウォーター牢獄プリズン]」



「[補助魔法] [攻撃・速さ・防御] それと[回復] [回復] [回復] って、さっさと倒しなさいよ! 勇者でしょうが、あんた!」



 阿仁間が水の柱で、牢屋みたいにソルジャーベアを囲み動きを封じる。多立は補助魔法を掛けて、回復魔法を連続で唱える。

 如何に、ソルジャーベアの動きを封じても腕が6本もある為か、水の柱の隙間から攻撃してきてダメージを食らいその都度、回復していた



「うっせぇなぁ! 攻撃が殆ど通らねぇんだから仕方ねぇだろ!! こうなったら[セイクリッド・リアクター] [セイクリッド・リアクター] [セイクリッド・リアクター] [セイクリッド・リアクター]!」



 聖魔法を連続で放つ秋多。ソルジャーベアを囲う水柱が、頭の上にもあるので、水柱ごと上から押し込む。

 聖魔法と触れ聖属性も混ざった水柱が、ソルジャーベアの頭にめり込み切り裂いた。


「ギエェェャャャャォォォオ?!」



 苦痛の叫びを上げるソルジャーベア。動きが、完全に止まる



「今です! 秋多君、スキル[心剣]で口から突き刺して下さい」



「そうか!」



 秋多は剣を真正面に構え[心剣]を発動させる。

 


「おらぁ!」



 下から掬い上げるように、剣を口の中に突き刺し頭を貫く。絶命したソルジャーベア



「よっしゃぁぁあ!」



「ソ、ソルジャーベアを倒せたのか 」

 (何とかなったか……しかし)



 ガッツポーズで喜ぶ秋多。ソルジャーベアを、4人で倒せたのは凄いことだが、上級騎士は素直に喜べ無いでいた。


 理由は、彼の視線の先にある。ゴブリン集団を退ける事が出来て、一息ついていたクラスメイト。辛うじて死者は出てないが、 被害は大きい。

 溜息をついて撤退の用意をするのだった。



 

  その頃、結衣達は


 結衣は、陽菜に手を引っ張られ走っていたが



「あの陽菜さん、少し休憩させて下さい」



「あっ、ごめん。ずっと走ってたら疲れるよね」



 両膝に両手をついて一息入れる結衣。すぐに背筋を伸ばして



「1週間訓練したお陰ですね。そんなに疲れは感じません。一息入れて、落ち着きたかったんです」



「そっか、良かった。あと、走ってる間は[補助魔法(弱)] ずっと掛けてたから、多少は効果あったと思うよ」



補助魔法をずっと掛けていたと、言われて眉を少し上げて驚く結衣



「ありがとうございます、陽菜さん……今からでも、遅くないと思うので、陽菜さんは皆のも…「それは駄目」……陽菜さんは何故、私にそこまでして下さるのですか? 昔、助けたと、言うことですが……私は覚えてないのです。申し訳ありません」



 再度戻ることを提案しても、断られる。助けてくれたと、言われても結衣は思い出せず謝った



「そんなに気にしなくていいよ。小学生の頃だし、それに、私が力に成りたいだけだからね。ゆっくり思い出してくれたら嬉しいけどね」



 結衣に深々と頭を下げられ、両手を顔の前で振って慌てる陽菜。



「そうだ、結衣ちゃん武器持ってないよね。私は木の杖があるから、このナイフ使って……って、あんな事あったし嫌かな?」



「嫌ではないです。武器はないので、使わせて頂きます。一応訓練で、扱い方は習っているので実践あるのみです」



 右手でナイフを持って逆手に構えて、振って動きを確かめる。まだ、ぎこちないけど何とかると、考えてたら



「ギャギャギョギャギャョ」



「えっ? あれは、ゴブリンでしょうか?」



「そう…だね。実物を見るのは初めてだけど……数多いよね」



 咄嗟に短剣を構える結衣と、木の杖を構える陽菜

 その回りを十数体のゴブリンが、取り囲む



「……来ますよ。陽菜さん」

 (大丈夫……私も特訓は受けて来た。スキルは無くても素質は発動させたから、身体能力も上がってる)



「うん!」



 錆びた剣で、襲い掛かるゴブリンの攻撃を、横に転がり躱す結衣。陽菜は、ゴブリンの棍棒を木の杖で受け止め、押し返していた。

 膝をつき顔を上げ見上げると、剣を振り下ろして来るゴブリンが見えて、顔が引き攣る結衣。

 すぐに、顔を引き締め両手で短剣を持ち、ゴブリンの顔に突き刺した


「ギェェ?!」


 後に倒れて動かなくなるゴブリン。次の瞬間



「ぐっ?!」



 後頭部に鈍い衝撃を受け倒れる結衣。続いて背中に、激痛が走り息が詰まる結衣



「っ……? はっ…… ぇあ?」



 いきなり上に向けられ、仰向けとなった結衣の目に映ったのは、棍棒を振り上げるゴブリンの姿。

 棍棒が腹に数回めり込んだ


「ぐっ?! がっ?! かふっ?! 」



 咄嗟に、両手で庇おうとしても、左右をゴブリンに抑えられて身動きが取れない。痛みで、意識が朦朧としていたが



「結衣ちゃん! 結衣ちゃん!! ちょっ……離し」



 自分を呼ぶ声で、僅かに意識が戻り声の方に顔を向けると

 陽菜が木の杖を振り回してゴブリンが、近寄れずにいる。結衣の助けに行こうとして



「うっ? いったぁぁぁ! うっ」



 倒れていたゴブリンに、右足ふくらはぎを噛み付かれ前のめりに倒れる陽菜。そこに、左脇を短剣で刺された



「いっ?! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ?! 誰かぁ! ふぐっ」



 痛みで悲鳴を上げ、助けを呼ぼうとしたが、地面に顔を叩き付けられる陽菜。



(何で、なんで、こんな事に…私はなにもしてないのに……陽菜さんまで……)



 小さい頃から理不尽にさらされ、召喚されてからも、変わらなくて、逃げたのに、ただ陽菜を巻き込んだだけ。

 そして、1体のゴブリンが結衣のスカートの中に手を入れて来た

 

 森の奥に居るため誰も助けに来ない……そう思っていたが、

 


     「……えっ?」



 突然、2人を襲っていたゴブリン達の首が宙を舞い小さな声を出す結衣だった









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