第5話 集団召喚④実地訓練からの…



 ゲス男もとい東城と一悶着あった翌日。クラスメイト達は、実地訓練を行うカイルド帝国内にある魔徒まとの森にいた。

 この森は、出てくるのは、弱いモンスターのみで、新人騎士や駆け出し冒険者が、経験を積むのに使われる森である。

 この森を抜けた先に、魔王が治める魔界がある。

 クラスメイト達は、数名の騎士や冒険者の指導で、拠点施設と戦闘を行っていた。

 結衣は、拠点で、雑用と料理を担当している。

 結衣達、後方支援の皆は、森の入り口付近で、拠点施設に料理などを行っている。 

 その頃森の中で、戦闘をしている秋多達は



「ハッハー! 弱っぇな! ゴブリンや狼擬きじゃ俺の相手にはならねぇなあ!」



 支給された鋼の剣を振るうたびに、灰色の体に鷲鼻、歪な形の耳をしたゴブリンの首が飛び、茶色の体の狼に似たローウルフの首が飛んでいた。



「[エアーカッター]……秋多君、あまり調子に乗って、1人突っ込み過ぎないで下さい。

 皆が皆、君のスピードに、ついて行ける訳ではありませんから。東城先生は、多立さん含めた回復役と怪我した人の守りを、もっとお願いします」



 阿仁間は、秋多の討ち漏らしたモンスターを、風魔法で切り裂きながら、暴走しがちな2人に指示を飛ばす



「ちっ、またかよ。しゃーねーな、魔法の試し撃ちをするか。聖魔法 [聖鎚セイクリッド リアクター]」



「……分かった」

(うるせぇな、クソガキが! 俺に指示出すな! くそが!!) 



 文句言いながらも足を止め、聖魔法でモンスターを2~3体押しつぶす秋多。

 東城は、表面上冷静を装い内心は怒り心頭だった。だか、阿仁間の方が、皇女からの受けは良く、評価も高いので、聞いてるふりをしている



「痛い痛い、早く治してくれよー」



「私の方が先よ! うぅ……」



「うっさいわね! 何で、アタシは聖女になったのよ。魔法で、派手に行きたいわ。面倒くさい」



 お腹に噛み付かれた戦士の男の子、左腕と左足をナイフで切られた魔法使いの女の子など、ひっきりなしに回復をせがまれてイライラしている多立

 今回、戦闘に参加している回復魔法を使える人間は回復魔法(中)以上である。それ以下は、まだ危険と判断され拠点で待機している。

 


「ちょっといいかな、阿仁間殿。モンスターの数が、何時もより多い上に、怪我をする人数も増えてきている。ここは、一旦拠点まで下がるべきだ。」



「そうですね。(回復は、追いつかなくなっている。秋多君は、また1人で突っ込んでいる。東城先生は……聞いてるようで、無視してきている。)

 撤退して立て直しましょう。怪我が酷い人は、回復魔法が使える人と、先に撤退して騎士の方が、護衛をお願いします。秋多君と数名の戦える者で殿を務めます」



 今回の実地訓練で、責任者を務める上級騎士が、阿仁間に、撤退を提案して、すぐに決断した事に安堵の表情を浮かべる。すぐに、表情を引き締め部下の騎士とクラスメイトに指示と説明をしに向かう。

 阿仁間は、また突っ込んで行く、秋多に声を掛ける。そして、やりとりを後から睨み付けている人物が1人いた。



(あのクソ騎士、何で、教師で年長者である俺に聞かずに、クソガキに聞いてんだよ! 俺なら、そんな甘っちょろいことせずに、性根鍛えるのに、戦わせ続けるんだぞ! クソ!)



 事なかれ主義である東城なら、仮に振られても、撤退案を取り入れて逃げ出すが、本人は分かってない。



「秋多君、怪我人が増えすぎたので、一旦撤退します。まだまだ、戦いたいと思いますが、皆の命が最優先です。そこで、殿を一緒にお願いします。これは、この中で1番強い君にしか頼めません。皆の命預けます」



「……そう言う事なら、仕方ねーな。モンスターは任せとけ。さっさと、帰るぞ」



 ニヤリと笑うと、頷く秋多。向かってくるモンスターを切り裂いた。頷き返して、辺りを見回す阿仁間。東城の姿を探すと、いつの間にか先頭のグループにいた。足を怪我した女子生徒に、肩を貸していて、腰に回した手で、さりげなく尻を触っていた。

 頭を、軽く抑え首を横に振る阿仁間



(……あの男は……いや今は、安全に撤退する事を考えないと。秋多君も、突っ込まず、皆に合わせて動いてくれている)



 頭を切り替えて向かってくるモンスターに[エアーカッター]を、放つ阿仁間であった




 拠点施設では、一時撤退してくる知らせを受けて、準備をしていた。布団の用意、薬草準備、回復魔法を何時でも使える様になどせわしなく動いていた。結衣は、調理を離れ雑用を引き受けていた。

 そこに



「君、丁度いい所に、薬草が足りるか分からなくてね。採取を手伝ってもらえないか?」



「分かりました。手伝います。荷物だけ置いてきます」



 運んでいた荷物をテントに置きに行く結衣。だから気付かなかった。後から結衣を見ていた騎士が、一瞬下卑た笑みを浮かべていたのに



「お待たせしました。行く前に、伝えてきます」



「それなら、今通り掛かった子に伝えておいたから大丈夫だよ。では、お願いね」



 森の中に向かって歩き出した2人。



「あの……まだ、奥に行くのですか?」



 最初は入り口付近で、採取すると思っていた結衣だが、何も言わずどんどん奥に入って行く騎士に、違和感を感じていた。



「ここら辺で、いいか」



「何か……えっ?」



 大きな木と、生い茂る植物に囲まれた場所に来た2人。騎士が呟いた瞬間、結衣は両肩を摑まれ地面に押し倒された



「あぐっ?! な、何を……っ?!」



 地面に押し倒され苦悶の声を上げる結衣。騎士は、結衣の下着ごと、カッターシャツのボタンを引き千切った。

 彼女の白い肌と見えてはいけない所まで見えてしまう。顔を引き攣らせ青くなる結衣



「東城て奴から、聞いてんだよ。お前は、好き者だってな」



「そん……違っ……」



 首を振ろうとしても、体が動けない



「まっ、俺からしたらどっちでもいいけどな。お前は、どの道俺達のおもちゃになるんだから」



「……えっ?」



 楽しそうに笑いながら言う騎士の言葉で、一瞬思考が停止する結衣



「学者何て、訳分かんねぇ素質引いて全く役立たず。この実地訓練が終わったら、何かと理由付けてな。隷属の首輪つけて、俺らの慰み者になるって決まってんだよ。後、戦闘で役にたたない奴らも同じにするって皇女様の命令でな」



「うそ……そん……なん……で、わた…し」



 絶望の表情に染まる結衣。スキルも魔法も身に付けれてないけど、それでも、必死に頑張っていた。

 何もかも、無駄だったと思いその時、涙が頬を伝う



「泣いてんのか、ハハッ。すぐに、気持ちよくしてやるよ」



 抵抗出来ない結衣の、胸を摑もうと手を伸ばして来た。思わず、目を瞑り顔を背ける



「だめぇぇぇ!」



 知っている声が聞こえ、目を開けて見る結衣。騎士の背中に張り付いている人影が見えた。騎士は、結衣に被さったまま人影の頭を摑み地面に叩き付けた



「いったぁぁい」



「陽菜…さん」



 背中から叩きつけられ、痛みで2~3回転がった後、木の杖を支えに立ち上がる



「ゆ、結衣ちゃんから、は、離れて!」



 怖くて体全体が震えているが、木の杖を騎士に向けて言う陽菜。それを、鼻で笑いながら



「そんなに体震わせて何が出来んだよ。あぁ!!」



 騎士が怒鳴り声を上げると、体をビクッと震わせて、杖を胸の前で抱きしめる。馬鹿にした笑いをして、結衣に向き直る騎士



「は、は、は、離して!」



 一瞬だけ目を瞑り、決意して目を開いて騎士に駆け寄り木の杖を振り下ろす陽菜



「ちっ、ガキが」



 木の杖を頭に食らうも、鬱陶しそうに顔を顰める騎士。腰の前に挿していた、短剣を抜いて陽菜の右足踝辺りを斬りつけ殴り飛ばした



「っい……ごふっ……うぅ」


 1~2回地面にバウンドして痛みで蹲る陽菜。右足の踝は半分近く切られ血が流れていた



「っ?!……ひ、陽菜さん?!」



「おいおい、他人の心配してる場合か? お前が、しっかり楽しませてくれたら、これ以上あのガキには何もしねぇよ(何てな。お前に、飽きたら次はあのガキだがな)」



 騎士を一瞬睨んだ結衣。そして、覚悟を決めた顔になり静かに目を閉じた



(もう、いいや。私は、どうなっても……でも、陽菜さんだけは……)



 酷く歪んだ笑みを浮かべ、結衣の胸を摑もうと両手を伸ばす騎士



「ガルルルルルルルッ」



 その時、頭の上から獣の唸り声が聞こえ頭を上げる騎士



「なぁ?! な……何で…ここに」



 結衣も目を開け、騎士の顔を見ると真っ青になっていた。何とか頭を動かして声のした方を見て固まった

 そこにいたのは、見た目は、熊に近い体調5mはある“魔獣”だった。目は赤く4つあり、腕もお腹から2本出ていて、肩からもそれぞれ1本ずつ計6本の腕を生やした殺戮ソルジャー魔熊ベア

 帝国の上級騎士が、5人居て何とか戦える魔獣。

 本来は魔界にしか居ないが、実地訓練の戦闘の影響か帝国内まで来ていた



「く、くそ!!」

 (こんな化け物とやり合えるか! もったいないが命が大事だ)



 蹲っている陽菜の足と、下にいる結衣の首を摑むと、思いっきりソルジャーベアに投げつけた



「ぐっ……きゃ?!」 「あぅ?!」



 投げつけると同時に、ソルジャーベアに背を向け、一目散に走り出した。ある程度走って、後を振り返り動きが止まる騎士。ソルジャーベアは、2人には目もくれず騎士を追い掛けていた


「なん……ぐっ?! ギャァォォァァアアア!!」



 追いつかれ、鎧ごと腹に噛み付かれ上半身を引き千切られた。引き千切った上半身を、食べるソルジャーベア。それを、唖然とした表情で見ていた2人だったが、陽菜が先に気付き



「結衣ちゃん動ける?!」



「えっ? あっ、私は動けます。ですが、陽菜さんは……」



「私は、回復魔法で傷を治したから大丈夫。早く拠点に戻ろう!」



 立ち上がり、結衣の手を引こうとしたが、結衣は手を振りほどいて、首を横に振る



「私は、あの姫様の命令で、戻っても慰み者になるだけです。陽菜さんだけ逃げて下さい」



 陽菜の目を見つめて言った後、騎士を食べるソルジャーベアを見た。それで、結衣が何を考えて居るのか分かった陽菜は



「そんな?! 駄目だよ。一緒に戻ろう。阿仁間君とかに相談したら、きっと何か手はあるよ!」



「阿仁間さんにこれ以上迷惑はかけれません。それに、東城先生の事もありますし……私の事はいいので、陽菜さんだけ今の内に逃げて下さい。そして私の分も「そんなのだめぇぇぇ!!」 えっ?」



 今まで、聞いたことない声で、結衣の話しを遮る陽菜



「結衣ちゃんは覚えてないと思うけど、私は前に結衣ちゃんに助けてもらった事があるの。だから、今度は私の番! 一緒に逃げよう結衣ちゃん!」



「へっ?」



 素頓狂な声を出す結衣。そんな結衣の手を摑み、強引に立たせると、落ちていた騎士の短剣を拾い走り出した



「あ、あの、陽菜さん? 陽菜さんは逃げなくても「黙って!」……はい……でも、何処に逃げるんですか?」



「とにかく、拠点とお城から離れよう! それから……とにかく逃げよう!」




 結衣の手を引いて走る陽菜であった

 






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