第一幕 第四話「月夜鴉は秋の空に詠う」
少年は来る日も来る日も、夜になる
昼の神主見習いとしての務めを果たすなり、
手燭の
少年が毎晩少女のもとに通う様子は、平安の世であれば
その日は、月の美しい日だった。
まったく欠けた所のない
少女が「きれいな月ね」と言うと、少年は「そうだね」と言った。しかし少年の瞳には月の姿は映っておらず、少女の姿をただじっと
少女の輝かしい光に目をやられた少年は、瞳にこびりついた少女の残像を夜空に再度
ついに
月の模様を地面に描き、「月にはウサギがいるんだ」と少年は言った。しかし少女はウサギを知らなかったため、少年は自分の知るいろいろな動物の話をした。身振り手振りでそれらの動きを真似して少女に見せた。二人の身長よりも大きい動物もいるのだと、少年は嬉々として語った。
別段少年は動物や植物の事が好きだったわけではないが、少なからず少女の興味を引くそれらについて詳しくなれば、きっと少女も喜ぶはずだと、少年は次の日から森に入るたびによく観察してみようと心に決めたのだった。
少年の話の中でも、自分の暮らすこの空間の事を
少年は次の日に、鳥の羽を一つ拾って持っていった。その白い羽は少女の
その日は、大粒の雨が降りしきる日だった。
風も強く吹き、滝のような
少年は自分の部屋の中に傘を見つけたが、油の加工が
仕方がないので、少年は大きな
蓮の葉のおかげで頭こそ濡れなかったものの、かえって地面に跳ね返った雨が松葉色の袴の裾を濡らすとともに、泥を跳ねさせて汚した。湿気のこもったような匂いが鼻についた。
少女のところへ
これも結界に込められた太陽の力が水を拒み、月に反射した日のわずかな光でさえ受け入れているのだろうと少女は言った。そのため、結界の外へ出られない少女は雨を知らなかった。少年は「空からたくさん水が降ってくるんだ」と説明した。しかし少女が知っているのは井戸から
そうだ、と言って少年は持ってきた蓮の葉の上に溜まって残っていた雨水を使って、少女と水をかけあって遊んだ。少年の指先から離れた
少女は雨を知らなかったが、傘のことは知っていた。しかし雨を
少年は自身の持ってきた蓮の葉を少女に渡して、いつか雨を防ぐための傘だと言った。
少女はおずおずと蓮の傘を差した。月の光から少女を
少年は少女の顔を見るために蓮の傘の下を
少年の見ることのできなかった少女の顔は、
少年と少女が出会って
その日は、特に風も無ければ雨も降っていない、かといって晴れ渡っていたかと言われればそうでもない、
ゆるやかに雲が流れ、星月もよく見える。季節柄に夜はよく冷えて、山では吐く息もさらに白くなってきていた。
あと二日もすれば
この日少年は、江戸の町の話を少女に語って聞かせた。少年自身も一度しか行ったことがないというのだが、その時見たことや、
山などは無く遠くに見えるだけで、少女の暮らす小屋よりもずっと大きな家がたくさん
広い道を
今でこそ大きな町である江戸だが、かつては
その話に少女は瞳を輝かせる。ぼんやりと少年の語る江戸の町が少女の頭の中に形成されていったが、きっと想像もできないような場所なのだろうと、ここのような木々に囲まれた自然などではなく、人が作り出し人が動かす、息づいた町なのだろうと、胸を膨らませる。
ないものねだりのその幻想は、日々を重ねていく
初めは知らないことに対して、驚きというほどの興味しか無かったのであろうが、しだいにそれは単なる興味という言葉では言い表せないほどに、少女の心の中で大きく
いつしかそれは少女の中で一種の憧れのようなものになっていた。
少女は届くはずもない夢物語に祈りを込めて
『
少女は明かりに吸い寄せられる虫たちのように、少年が
しかし光というものは、強くなればなるほど、純粋に照らすものであればあるほど、その裏に濃く深く、決して
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