第21話 王様はやる気のようですよ、アネットさん!

 ----パンクンパ王国、王都。


 そこは、かつて伝説の魔王を倒した伝説の勇者が作ったパンクンパ王国の中心部。


 商取引が活発で、古くから商業を中心として発展している一大都市。

 他にも、王国随一の騎士養成学校や、王国のこれからを話し合うための評議会、冒険者組合ギルドの本部など、王国における重要施設が集まっていた。


 そんな王都の重要施設の中でも最重要施設----それが"タミナス城"。


 白く光り輝くそんなお城の玉座の間にて、この国の王様たるハーツ・パンクンパは老執事からの報告を受けていたのであった。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




「ご苦労。下がってよろしい」


 仰々しい物言いにて、カッコいい黒髭を生やした王様----ハーツ・パンクンパがそう口にする。

 その言葉を受け、片眼鏡モノクルをかけた老執事が「失礼します」と言って、部屋から出ていく。


 老執事が出て行ったのを確認して、ハーツ王は彼から受け取った報告書に目を通す。


「----『タクモス伯爵家のキューユ・タクモスが、上級の火属性の魔法の使い手になった』と。なんでも報告書通りならば、炎すら燃え上がらせる高温の蒼炎を使いこなす、火属性の魔法の使い手になったとか。

 何でも、あの《災厄の六獣》の1体、滅炎竜ブレイズと契約する事で、そんな力を得たんだったか」


 一度は魔法が使えない無能として、見捨てられたに等しい扱いを受けたキューユ・タクモス。

 そんな彼女が、他者を圧倒するほどの火属性の魔法の使い手になったというのは、驚くべき事態である。


「報告書には、その滅炎竜ブレイズと契約するきっかけとなったのは、滅炎竜ブレイズを弱者へと落とした令嬢の協力があってこそか。その令嬢の名前が……アネット・ツーデンスか」


 ツーデンス家から追放された令嬢、アネット・ツーデンス。

 既に彼女の父親であるトーデン子爵との聞き取りによって、彼女が"サンダー属性"なるハズレ魔法を発現させたからこそ、追放したという事実も入手している。

 確かにハズレ魔法しかもらえなかった令嬢を、追放するというのは間違っていない。


「間違っているとすれば、滅炎竜ブレイズにそこまで言う事を聞かせられる力を持っているのならば、道具として管理すべきだった、という所か」


 そう、ハズレ魔法を与えられたのなら、そのハズレ魔法を使う"人間ヒト"として見なすのではなく、ハズレ魔法を使う"道具アイテム"として見なすべきだったのだ。

 そうすれば、アネット・ツーデンスという強力な武器が手に入ったというのに……情けない話である、とハーツ王はそう考えた。


「まぁ、良い。トーデン子爵が失敗したなら、王である余自らが彼女を使い勝手のいい道具にするだけだ。《災厄の六獣》にいう事を聞かせる力があるなら、他の5体にも同様な事が出来る可能性が高い」


 老執事からの報告では、アネット・ツーデンスは現在、【港町テトラ】に向けて移動中との事。

 そこには、別の《災厄の六獣》が目撃されたという記録がある。



 その《災厄の六獣》の名は、【堕落魔デザイア】。

 海に住む巨体の《災厄の六獣》であり、人々を殺し合わせ、その島を海の底へと沈めたと伝わる、恐ろしき相手。



「魔王軍め、6体の《災厄の六獣》の魔力を使って強固な結界を形成するとは厄介な。おかげでこの余が、お主達の魔王城に行くためには、その《災厄の六獣》を全て対処しなければならないではないか」


 冒険者組合ギルドには、《災厄の六獣》の討伐、もしくは彼らの勢いを削ぐ依頼を出すように継続的に命令している。

 しかし今の所効果があったのは、滅炎竜ブレイズのみ。


 他の5体に関しては、居場所が確認できていないモノまで居る始末だ。


「早く、魔王を倒さなければ……」


 と、ハーツ王は自分の掌の上に、7つの魔法の塊を生み出しながら、そう言う。


 赤、青、黄、緑、茶、黒、白----。

 そう、ハーツ王は7つの属性、それもかつて魔王を倒したとされる伝説の勇者が持っていたとされるあの7つの属性魔法を全て扱える、特別な才能の持ち主なのだ。

 王家を遡って見ても、初代国王である伝説の勇者以外に、この7つの属性魔法を同時に発現させた者は、このハーツ王ただ一人。


 つまりそれは、現魔王であるカラミティーを倒し、伝説の勇者の再来を為せという、神の啓示に違いない。

 ハーツ王はそう思い、魔王討伐のため、魔王城に入るために《災厄の六獣》を討伐しようとしていたのだ。


「魔王を倒すためには、《災厄の六獣》をすべて倒して、魔王城の結界を解除せねばならない……。

 まったく、神は余にどれだけの試練を課すというのだ。結界を形成する《災厄の六獣》を余はまだ1体しか倒しておらぬ。いったい、先はどこまで続いているのか」



「そんなに焦らずとも、お父様なら出来ますよ。魔王討伐」



 頭を抱えて弱気になってしまったハーツ王に、優しくそう声をかけたのは、第4王女【ギアラ・パンクンパ】であった。

 黄色と茶色の2色の髪を、クルクルッと三つ編みにした彼女は、いつものドレス姿ではなく、冒険にでも出かけるのか動きやすい恰好に着替えていた。


「おぉ、ギアラよ! その恰好は……つまりは、やってくれるという事か」

「勿論です、お父様」


 よいしょっと、そう言いつつ、軽量の魔法が付与された大きなリュックサックを背負うギアラ。

 そしてギアラは、父であり王でもある彼、ハーツ・パンクンパにこう宣言する。


「只今よりこの私、ギアラ・パンクンパ。ハーツ王の命を受け、アネット・ツーデンスに接触。

 ----そして、彼女を王の傀儡どうぐにするよう、洗脳します」


 ニタリっ、と意地汚い笑いを見せるギアラ。


「あぁ、楽しみにしているよ。全てはこの余が、魔王カラミティーを倒した勇者となるために」


 そしてハーツ王もまた、ギアラよりも悪そうな笑顔を浮かべるのであった。

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