第20話 超災厄級に名前負けしてないっすかね? そう思いません、アネットさん?
----"戦略的撤退"。
頭の中でそんな言葉を思い浮かべながら、魔王軍最高幹部の《四頂点》、領土職人アスドラは逃走を開始していた。
「(なんなんですか、あれは?!)」
いまさっき、目の前で起きた光景なのに、まるで夢のよう、いや夢であって欲しい出来事。
自分が生み出した超巨大隕石が、杖から出したか細い雷に当たると、小さく、物凄く小さくなってしまったのである。
「(あの魔法はヤバイ、としか言いようがありません。あらゆるモノを縮小させる魔法だなんて、マズすぎる)」
同時に、弱小種族たるクロウモールの魔人であるアスドラは、本能で理解していた。
あの縮小魔法を放つ少女よりも、自分が恐れるべき気になる存在があるということを。
その存在こそが、小さくなった隕石を壊すために、
小さなドラゴンは、魔王軍で何度も見かけた。
ドラゴンというだけあってどいつも強かったが、それでも
そもそも、この世で
「("縮小魔法"、"結界に使われている《災厄の六獣》たる滅炎竜ブレイズの魔力の途絶"、そして"あの小さな赤いドラゴン"……まさか、あの滅炎竜ブレイズそのものなのでは?)」
アスドラは、自力でその真実に到達していた。
そして、いまこのタイミングで知ったことを後悔していた。
もっと早く、それこそ戦う前に知っておきたかったと。
縮小魔法を放つ令嬢、そして小さくなった滅炎竜ブレイズ。
このタッグは、確実に敬愛する魔王カラミティー様にとって、脅威になるに違いない。
「一刻も早く、魔王カラミティー様にこの忠心たるアスドラが、お伝えしなくては----!!」
アスドラは、クロウモールである。
走るよりも地中を進む方が、速くこの場所から逃げ出す事が出来る。
そう考えたアスドラは、地面を掘り進めるためにその爪を向けて----
----びりりりりっ!!
「
地面を掘ろうとしたその瞬間、アスドラの身体の動きが完全に鈍化した。
身体全体が痺れて、口が上手く回らず、爪も思ったように動かせない。
----麻痺。
あらゆる動きを遅くして、動きを阻害する状態異常。
「
彼女の魔法の速さを、アスドラは理解していた。
彼女が放つ縮小化させる【プチサンダー】は、アスドラにとっては十分に避けられる速さだったのだ。
アスドラは知らなかった。
彼女が放つ、あらゆるモノを麻痺させる【サンダー】は【プチサンダー】と比べると速く、なにより杖によってその速さが速まり----結果として、アスドラは致命的な隙を生み出してしまった。
「----【プチサンダー】!!」
アスドラが、アネットが放つ【プチサンダー】を受ける、その隙を。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
『おぉ、実に小さく縮みましたねぇ』
パタパタッと、滅炎竜ブレイズは翼を用いて、【プチサンダー】を受けて小さくなってしまったアスドラに近付いていた。
縮小してしまったアスドラは、狂ったように、必死に逃げようとする。
自慢であろう爪で地面を掘ろうとして、地面が硬すぎるのだろうか、全然掘れていないようであった。
『なにが、超災厄級だ? 小さくなった程度で、喚き散らかす無能めが?
----あぁ、地面で掘って逃げようとしてるのか。分かる。オレサマも経験あるからなぁ』
ブレイズはそう言って、口を大きく開ける。
『オレサマだって、最初は空を飛ぶという基本的な行動すら出来なかったんだ。オレサマ以下のお前なんかが、地面を掘れるはずがないだろう?』
----ぼぅっ!!
『済まんが、小さすぎて聞けないんだ。まぁ、「お前の目的は?!」と聞きたかったんだろうなら、こう答えてやるよ。
----オレサマが"縮小"という名の地獄に居るんだ。オレサマ以外にも、この地獄を味わってもらいたくてなぁ』
火炎魔法を使って消し炭にして始末したアスドラに対して、ブレイズはそう呟く。
『おやっ? これはなんだ?』
と、そこでブレイズは、消し炭の中から、1つの球体を見つけ出す。
その球体はキラキラと光り輝いており、中心には【星】という文字が刻み込まれていた。
見た事のない代物ではあったが、実に綺麗で、アクセサリー代わりにちょうど良いと、ブレイズはそう考える。
『良く分からんが、アネットさんの機嫌を取るのに良さそうだ。これは討伐報酬代わりに貰っておく。
じゃあな、超災厄級に相応しくない、田舎モグラ魔人めが』
パクッと、その球体を口にくわえたブレイズは、『アネットさ~ん!』と、いつものように全力で媚びる姿勢を貫くのであった----。
こうして、冒険者の街ラッカルトに襲い掛かった超災厄級の存在。
星属性の魔法を操る、魔王軍最高幹部の《四頂点》の一角、領土職人アスドラは退治された。
《四頂点》の撃破という快挙は、冒険者の街ラッカルトのみに留まらず----。
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