第19話 アスドラの隕石も、アネットさんにかかれば楽勝っす!

 ----【領土隕石】は、アスドラのお気に入りの魔法だ。

 超巨大すぎる隕石を作り出し、それを落とすことにより、その土地に住まう者全てを倒す星属性の最強魔法である。


 一度詠唱をするのに、10分もかかるということだけはマイナス要素なのだが、それ以外は完璧な魔法。

 なにせ魔法発動中に魔力を込めれば、追加で巨大隕石を増やし続けることが出来るからだ。

 10分もかかるこの【領土隕石】の魔法発動中の時間はおよそ1時間、その間はいくらでも魔力を込めて巨大隕石を増やし続けて相手を絶望させることが出来る。


 以前、アスドラが魔王に対して大陸を献上した際に使ったのもこの魔法であり、あの時は現地民が7つ目の巨大隕石まではなんとか対処できていた。

 しかし、現地民が死力を尽くして対処できたのは、そこまで。

 死なないように、自分達の土地を守ろうと必死に頑張った現地民たちであったが、結局はアスドラが放つ合計"240個"もの巨大隕石を防ぎきる事は出来ずに、その大陸は更地となって魔王に献上されたのである。



 そんな魔法が今、冒険者の街ラッカルトを更地に変えるべく、放たれる。



「(さて、あの少女はいくつまで対処できるでしょうか?)」


 アスドラはそう思いながら、巨大隕石を前にしても、一切怯むことなく前を見据えるその少女、アネットに注目していたのであった。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 アネットは手にした杖を隕石に向けると、近くを飛ぶブレイズもまた隕石に向けて口を大きく開けていた。

 2人が準備をする中、街よりも大きいその巨大隕石は、刻一刻と落ちつつあった。


 街の人達は、絶望していた。

 自分達の街よりも、遥かに大きい隕石がこちらに迫ってきており、もう逃げ場はなく、死ぬ運命だと諦めていた。


「うわぁ! おっきい隕石です。ね!」


 街の人達が絶望に沈む中、最前線にいるアネットは緊張感のない台詞を口にする。

 それは、今から巨大隕石によって死ぬかもしれないなんて、ちっとも考えてない台詞だった。


『流石っすね、アネットさん! あの巨大隕石相手に笑っていられるだなんて、オレサマ、びっくりっすよ!』


 ブレイズもまた、いつものように彼女に媚びた台詞を続ける。

 そこにはアネットならばこの程度なんとかするという期待を込めた声だった。


「え~、そうか。なぁ? でもでもあの隕石さん、落ちちゃうと私、死んじゃうのか。な?」

『そうっすねぇ、アネットさん。流石のオレサマでも、あのサイズだと死んじゃいますっす。というか、全員漏れなく、滅亡コースっす』


 ニヒヒっと、ブレイズは、まるで他人事ひとごとのように笑っていた。

 それに対してアネットは、「だよ、ね~」と同意する。


「という訳で、やっちゃいます。か!」


 アネットは笑い、その手を、杖を持つ手を隕石に向けて、魔法名を唱える。



「----サンダー魔法【メッチャ・プチサンダー】!」



 アネットが手が持つ杖----株分けの杖が光り輝くと、真っ白な雷が放たれる。

 その雷はまっすぐに隕石に放たれていた。

 杖から放たれた雷は手から放ついつもの【プチサンダー】よりも、勢いこそ素早いが、上下に激しく揺れる不安定であり、今にも消えそうなはかなさを見せていた。


 そして雷は街を滅ぼそうとする隕石にぶつかり、雷は隕石を破壊できず、そのまま消えてしまう。


 ----ぎゅぎゅぎゅっ!!


 すると、隕石に大きな変化が訪れる。


 隕石の輪郭がぼやけ始め、その輪郭がどんどん縮んで行く。

 そう、巨大隕石が、目に見えて小さくなっていくのだ。


 ----ぎゅぎゅぎゅーぎゅっ!!


 どんどん縮み続け、街を覆っていた隕石の影がどんどん小さくなって、街の危機がどんどん小さくなっていく。



『ほいっ、と』


 街を覆うほどの隕石は、1/20くらいの小ささになり、その小さくなった隕石にブレイズが熱線を放つ。



 ----【赤竜熱線ブレイズレーザー】。

 かつてブレイズが4つ目の月を焦がし、そして斬ったとされるその魔法は、アネットによって小さくなった隕石を粉々にしていた。


 粉々になった隕石はパラパラと雨のように、街へと降り注ぐ。


『ぱくっ、とな』


 ガブリっ、とブレイズは口を大きく開けて、粉々になった隕石の中でも、ほんの少し大きいモノ----それでも小石程度だが----を厳選し、食べて処理する。


 あっという間、ものの数秒。

 街を滅ぼす隕石は消え、アネットとブレイズはハイタッチで喜びを分かち合っていた。


「やった。よ! ブレイズ!」

『凄いっすね、アネットさん! やっぱり【メッチャ】を付けたのが大きかったと思うっすよ! オレサマ、マジで天才的っす!』

「うん! ブレイズのアドバイ。ス、のおかげで、上手く行った気がす。るよ」

『お褒めに預かり、何よりっす! まぁ、オレサマはアネットさんなら出来るって、初めから信じて居たっすけどね~』



 街の人々は呆気に取られ、そしてなにより----



「なん、ですか? そのバカみたいな魔法は……」


 自分が放った隕石を容易く小さくしてしまったアネット。

 そんな彼女に対して、アスドラは意味が分からないと頭を抱えるのであった。

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