第16話 アネットさん、オレサマを差し置いて生意気な奴が出るみたいっすよ?

 新たな杖、株分けの杖をアネットが手に入れてから、数日後。


 アネットは魔法の杖を使いこなすべく、冒険者組合ギルドで冒険者として活動していた。

 けどそこまでガッツリ活動という訳ではなく、あくまで気が向いたら仕事クエストをするような感じである。



 ----というのも、アネットのサンダー魔法の主力たる【プチサンダー】は、当たった全てを例外なく縮小させる魔法である。

 そして冒険者組合ギルドの依頼の大半を占めている魔物の討伐依頼は、その討伐の証明として倒した魔物の身体の一部を持ち帰らなくてはならない。

 元の大きさに戻すまほうを未だに知らないアネットにとっては、たとえ倒して討伐証明として身体の一部を持って帰っても、小さいままだと信用してもらえないから、そこまで強大な魔物を倒す意味がないのである。


 精々が、麻痺させるだけの【サンダー】にて対処可能な魔物の相手をするというくらいだった。


 そして、アネットが魔法の杖で慣れる中、滅炎竜ブレイズもまたこの縮小状態でもようやく魔法が使い物になっていた。


『(最も、山を燃やすほどの火炎魔法が、今では小枝1本に火を点けるのが精いっぱいだがな)』


 しかし、攻撃魔法が一切使えなかった最初の頃と比べると、徐々にだが【プチサンダー】の効果も薄れているようだった。


『この調子なら、元に戻る事も……』

「ん? 何か言っ。た?」

『----!! いえいえ、何も?! ……というか、アネットさん。またそれっすか』


 反撃の時を伺っていたブレイズであるが、アネットに声をかけられて、大慌てで否定。

 そして、彼女が再びスライムの姿煮を食べているのを見て、嘆息していた。


『それ、金がない冒険者が食べるような代物という話で、正直、美味しく無かったっすけど……』

「癖があって、美味っ! 美味し。い!」

『そうっすか……』


 何も言うまい……。

 タクモス伯爵家で、伯爵家の料理人が丹精込めて作った料理を食べた時よりも、美味しそうな表情を浮かべているが、何も言うまい……。


『とはいえ、アネットさん? もうそろそろ、他の料理も食べて見たくないっすか? 具体的には海の幸的なヤツを』


 ブレイズは、【海の幸】というキーワードを用い、アネットに別の街への移動を勧める。

 というのも、この冒険者の街ラッカルトに寄ったのは、自分の巣にゴミを持ち込んだ冒険者がここの冒険者だったからと、弱点を作るための株分けの杖をアネットに授けるため。

 ----即ち、もうこの街に用はないからである。


『オレサマ達は、諸国漫遊をしながら、色々な土地で美味しいモノを食べる旅の途中のはずっす。1つの街で、それも同じスライムの姿煮を食べ続ける日々が目的ではなかったはずっすよ?』

「うーんっと、そう? かも?」


 ブレイズに言われて、考え込むアネット。

 「う~んっ」と、分かりやすく考え込んでいると口に出しながら、アネットが出した答えは----


「それじゃあ、明日にはこの街を出。よう!」

『その意気っすよ、アネットさん! では、次の街は海産物で有名な----』


 その時である。



「きっ、緊急事態です! 街の東門に、魔王軍の超災厄級の幹部が出現しました! 冒険者の皆様は全員、速やかに東門に集まってください!」



 緑髪の受付嬢さんが、風魔法を用いて、ギルドに通達を告げるのであった。

 緊急事態を告げる言葉に、冒険者達は真剣な表情を浮かべると、そのまま東門に向かって走って行く。


「幹部ってなんだろう。ね? ブレイズ? ……ブレイズ?」

『超災厄級? この《災厄の六獣》であるオレサマを差し置いて?』


 そんな中、《災厄の六獣》の滅炎竜ブレイズは、自分を差し置いて"超災厄級"という肩書きを持つ、まだ会った事もないその幹部に敵意を向けるのであった。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 冒険者の街ラッカルト、その東門に、1人の珍妙な魔人が現れた。


 その魔人は、黒いサングラスをかけた、八頭身のモグラ獣人である。

 歯車がプリントされた、ちょっと変わった執事服を着こんだそのモグラ獣人は、深々と丁寧に頭を下げながら、要求を告げる。


「初めまして、皆々様。わたくし、魔王軍最高幹部が1人、【領土職人アスドラ】と申します。

 この度、『この冒険者の街ラッカルトを更地に変えろ』という命と、『冒険者の街ラッカルト』という命を同時に承りましたわたくしの登場でございます。皆々様、短い付き合いとなりますことお詫び申すと共に----速やかに絶滅タイムを迎えてください」


 そういって、アスドラと名乗るその幹部は魔法を発動させる。



 そうして立派な東門を破壊すべく、大量の隕石が降り注ぐのであった。

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