第15話 新たな杖を手に入れましたよ、アネットさん!
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それが魔人の一種である
彼らは腕や足を自ら千切る際に、自らが持つ記憶と経験を全て
そしてこの『株分け』のスキルが
「では、『株分け』を使わせていただきます」
「お願いしま。す!」
ディーテは丁寧にそう言うと、アネットは「しても良いですよ」と承諾の意見を出していた。
それは、長く伸びすぎた髪の毛を切ってもらうのと同じテンションで、アネットは応えていた。
「でっ、では、やらせていただきますね。----『株分け』」
----パチンっ!
自身の樹木のような手を使い、アネットの髪の一房を切る。
そして切った髪を一房、店の奥に置いてあった樹木の杖に、紐のように絡みつかせる。
----パアアアアアッッ!!
そして絡みつかせた髪が一瞬光り輝いたかと思うと、その光はすぐに消えてしまう。
すると先程まで樹木を思わせる茶色い杖だったのに、今では光沢感のある銀色の杖に変化していたのであった。
「----アネット様。これで完了でございます」
「はにゃっ?!」
「もう終わりな。の?」と聞くアネットに、「終わりましたよ」と伝えていた。
「どうぞ、手に取ってみてください」
「----よいしょっ。と。なにこ。れ?! すごくな。い?!」
杖を手にしたアネットは、その感触に驚いていた。
その感触は杖を手にしているというよりも、自分の腕が伸びている感覚に近い。
杖の中を魔力がすーっと流れていくようで、自分の身体以上に魔力の通りが良いくらいである。
「よろしければ杖の感触を試してみたら、いかがでしょうか? 店の裏手にて、魔法用の的を用意させていただいております」
「ほんと。う?! ちょっとやってきま。す!」
喜び勇んで、アネットは道具屋『樹木のトー・レント』の裏口を抜け、早速、魔法の試し撃ちに向かって行った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「……本当に、あの杖でよろしかったのでしょうか?」
『無論だ。むしろあの株分けの杖にするために、この道具屋に決めたのだからな』
あの杖で良いのかと問うディーテに対し、滅炎竜ブレイズは大丈夫と答えた。
『あの株分けの杖は、良い杖じゃないか。自分自身の記憶と経験を共有する事によって、その当人にしか使えないようになったことによる【防犯特性】、さらには杖と共有する事によって"自分の身体が伸びたかも"と錯覚するほどの【高い魔術操作性】。そして、極めつけには個人の成長に応じて杖自体も成長するという【成長特性】----どれを取っても、一流の杖ではないか』
本来、杖は勿論、武器は全て、相手の成長に応じて買い替えるのが当然である。
子供の時には便利だとしても、成長するに従って新たな杖を使おうというのは、なんらおかしくはない普通の事だ。
そんな常識に反して、株分けの杖は杖自体も成長する。
使い続ければ続けるほど、杖を通して放つ魔力も上がるということだ。
成長する杖----それが、株分けの杖。
それが故に、最初の頃は他の杖と比べるとさほど魔法の腕が上がるという感触は薄く、なにより成長が完全に止まってしまった老人などには効果もないと言える。
「しかし、あの杖は重大な欠点が----」
『あぁ、それも知っている』
むしろ、その重大な欠点こそが、ブレイズが求めていた理由なのだから。
『株分けの杖は自身の記憶と杖を共有した、いうなればもう1人の自分自身。それが故に、長い期間使い続けた後に破壊されると、その使った時間とほぼ同期間、魔術の発動が困難になる』
1年使えば、1年間。
10年使えば、10年間。
仮に100年も使い続けたら、100年間もの間、魔術の発動が困難な状況に陥ってしまう。
「今からでも遅くはありません! あの杖は長期間使い続けなければ効果を発揮しない杖ではありますが、長期間使い続けたらそれこそ----」
『それこそが、オレサマの計画よ!』
ブレイズはそう高らかに語る。
『あのアネットはオレサマの計画に必須だが、だからこそ計画の終了時にはきっちりとやらねばならぬ。力を付けてもらう事は大事だが、それと同じくらい力を封じる手段も講じておかなくてはならないのだ』
そういう意味で言えば、あの株分けの杖は最高の代物と言える。
ブレイズの計画が上手く行って他の《災厄の六獣》も全て縮小化した後に、彼女の杖を破壊して彼女の魔術の発動を困難にしておく。
そうして、自分が優位に立つのだ。
『お前は実に良い仕事をしてくれた。我が下僕に、対価を支払わせて貰おうではないか』
「そっ、そんな滅相もないっ! ----って、これは?」
神に近しい滅炎竜ブレイズからそんな代物を貰う訳にはいかないと、断ろうとするディーテ。
しかしながら、そんな謙遜を無視し、ブレイズが手渡したのは、ブレイズの鱗であった。
『その鱗には、アネットのサンダー魔法の影響を大きく受けておる。追加の解析として、その鱗にかかっている魔法の解析を頼みたいのだ』
それは対価というよりも、追加の仕事依頼であった。
お金を貰うというよりも、さらに厄介な案件を押し付けられたという感覚に近かった。
断る訳にもいかず、ディーテは「全力を尽くします……」と応えるしかなかったのであった。
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