第14話 オススメの道具屋はこちらっすよ、アネットさん!

 ----道具屋『樹木のトー・レント』。

 冒険者の街ラッカルトの外れに位置するそのお店は、建物の真ん中から巨木が生える独特な建物であった。


「ここです。か?」

『えぇ、そうっす! さっ、さっさと入って欲しいっす!』


 ブレイズに急かされるようにして、アネットは恐る恐る店の中に足を踏み入れる。

 扉を開けると共に、来店を告げるベルが鳴り響き、店の中から1人の店員女性が現れる。


「いらっしゃいませ! ようこそ、みんなの道具屋! 『樹木のトー・レント』にお越しいただきありがとうございます!」


 その店員さんは、緑色のアフロヘアーの女性であった。

 店員さんは鮮やかな色遣いの半袖ミニスカートの女性で、その右目の部分には目玉の代わりに藍色の花が咲いていた。


「うわぁ、可愛らしいお嬢さんですね! ご安心くださいませ、わたくし人間ヒトではない樹木人トレントではありますが、魔王軍と関係ないただの魔人ですので」


 ニコッと、アネットの顔を見ながら、店員さんは優しく接客をし始める。


「お嬢様は愛らしいですし、お求めなのはブローチでしょうか? それともネックレ----」

『久しいな、【ディーテ】。相変わらず、しっかり商売をしてるようだな』


 優しく接客する店員に対し、アネットの頭に着陸していたブレイズが"ディーテ”と名前を呼ぶ。

 名前を呼ばれた店員は、「誰ですか? 私の名前を呼ぶのは……」と言いつつ、声がしたアネットの頭部の方へと向かって行く。


『よぉ、お前の名前を呼んだ滅炎竜ブレイズ様だ。記憶よりも小さいとは思うが、まさか別種のドラゴンと間違えんよな?』

「ひっ、ひぃぃぃぃっっ!!」


 ディーテと呼ばれた店員は慌てて後ろへと退き、そのまま頭を付ける。

 いわゆる、土下座----と呼ばれるヤツである。


『ちなみにお主がお嬢様と呼んだ方は、今のオレサマの主のようなものだ。オレサマと同等くらいには扱うように』

「こっ、心得ましてございますですっ! はいっ!」


 ガンガンッと、地面が凹むくらいに頭を叩きつけるディーテ。


「えっと、知り合い。なの?」

「しっ、知り合いだなんて、とんでもないです! 私ごとき樹木人トレントが、知り合いを名乗るなどとんでもないです!」


 「ははぁ~!!」と、へりくだった態度を見せると、顔を上げて自己紹介を始める。


樹木人トレントって、な。に?」

『身体が樹木になってる、特殊な魔人っすよ。魔王軍にも属してない、ただ身体が樹木になってて、樹木に詳しい道具屋の店主と考えて貰って良いっす』

「色々な人が居るんだ。ね~」


 「へぇ~」と感心するアネットに対し、樹木人トレントの店主は深々と頭を下げ続けながら、自己紹介を始めていた。


「わたくしは、樹木人トレントのディーテと申します! 滅炎竜ブレイズ様とは、今より数千年前に下僕しもべとして契約させていただいております!」

「数千前か。ら? いま、何歳で。す?」

『ふむ……まだ藍色であるなら、50歳よりも下、という所っすか』


 ----数千年前から契約しているのに、50歳以下とはどういう事なのか。


 アネットは疑問符を浮かべ、ブレイズは『樹木人トレントの特徴っすよ』と応える。


樹木人トレントは寿命が100歳くらいしかないっすが、種族スキルとして『株分け』というスキルを持つんっすよ。そのスキルを使えば、記憶と経験を全て引き継いで最大10人くらいにまで増えれるんっす』

「すごい。っす! いくらでも増えれるとか、すごい。っす!」


 パチパチと拍手するアネットだが、「いえいえ! 数に限りがありますので!」と謙遜した様子のディーテ。


『オレサマと直接契約を結んだ者、その経験と記憶を受け継いでいるという所っすか?』

「はいですっ! 滅炎竜ブレイズ様と直接的に契約させた者を初代としますと、25代目になります!」


 「ははぁ~!」と、再び頭を下げるディーテ。


「滅炎竜ブレイズ様との契約により、種族的に火に弱かったわたくしは鍛冶も出来るようになったんです! わたくしにとって滅炎竜ブレイズ様は、神でございます! さらに契約により----」

『御託は良い。さっさと商売を始めろ、ディーテ』

「りょ、了承致しましたです! ブレイズ様!」


 即座に頭を上げ、ビシッと敬礼のポーズを取るのであった。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




「そっ、それで! この度はわたくしの『樹木のトー・レント』になにか御用でしょうか?」


 ひきつった顔で接客するディーテ。

 ひきつった顔なのは、なにがきっかけで、滅炎竜ブレイズの機嫌を損ねるか分からないため、慎重に対応した結果である。


「えっと、杖が欲しい……だっ。け?」

「杖! 杖でございますね! お任せください、必ずや採算度外視で最高級の杖をご用意させていただきますです!」


 そう言って、早速杖を選出しようとするディーテに対し、


『待て、ディーテ』


 ブレイズが待ったをかけた。


「……なっ、なにか対応をお間違えしたでしょうか、ブレイズ様?」

『いいや、良い接客だったと思う。ただ、最高級の商品を作るならば、お主ならではの方法があるのではないかという話でのう?』


 ぱさぱさっと、翼で空を飛んだブレイズは、アネットの耳にコソコソッと助言みみうちをする。

 そしてその言葉を受けて、アネットは----


「えっと、"最高級の杖ならば、樹木人トレントしか作れない例の杖が良い"と言。えと」

「なっ----?! ほっ、本当によろしいのですか、"あんなの・・・・"で?!」


 お出しして良いか迷うディーテに対して、ブレイズは『構わん』と応じた。



『使い手と共に成長する杖。樹木人トレントしか作れない、"株分けの杖"を用意してもらおうではないか。我が下僕よ』

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