第13話 アネットさん、ギルドで情報収集するっす!

 ----美味しいモノを食べ歩く、諸国漫遊。


 それが今の、アネットの旅の目的である。



 滅炎竜ブレイズにより、魔法を発現させてもらったキューユ・タクモス。

 当初のブレイズの目論見通り、その事を恩として感じたキューユは、ブレイズの言う通りに、アネットを各国で旅させる目的ストーリーを考えた。

 それが食べ歩きによる諸国漫遊であり、アネットに伝えたところ、アネットは「面白そう!」という理由で食べ歩きに納得した。


 そして、ブレイズは地図案内ガイドという役割を与えられて、アネットと同行する事となった。


 ブレイズの道案内を受け、途中休み休みを入れつつ、アネットとブレイズは最初の目的地、冒険者の街ラッカルトにやって来ていた。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




「----っ! これ、おいしい。ね!」


 満面の笑みを浮かべて、冒険者組合ギルドのカウンターで料理を堪能するアネット。

 ちなみに今日のメニューは、『スライムの姿煮』と呼ばれる、味は美味しいが見た目の影響であまり食べる人は居ないゲテモノメニューであった。


 そこら辺に居る最弱魔物として名高い、ブヨブヨとしたスライム。

 あのスライムをタレに付け込んで煮ただけという、ザ・シンプルと言っても過言でもない、原形がモロに残っているはずのその料理を、アネットは嬉しそうに食べていた。

 その様子を歴戦の冒険者、そしてブレイズは若干引き気味に見ていた。


『(あれ、そんなに美味しかったっけ?)』


 ブレイズは、アネットのみかくに若干不安を覚えつつ、冒険者組合ギルドから得た書類を見ていた。


『……ふむ、依頼主は【ハーツ・パンクンパ】。この国の王か』

「ブレイズ、それはな。に?」

『あぁ、アネットさん! なぁーに、これはオレサマの巣に悪さをした冒険者の依頼っすよ』


 ブレイズが見ていた書類、それはこの国の王であるハーツ・パンクンパ国王からの依頼書であった。

 内容は、『滅炎竜ブレイズの巣に極氷結球を投げ込む』という依頼。

 

 ----そう、滅炎竜ブレイズが目覚めるきっかけとなった、巣に廃棄物ゴミを投げ込んでいたあの4人の冒険者が受注した依頼であった。


 そんな依頼を、ブレイズは受付嬢に懇切丁寧に頼み込み、もとい脅迫して、依頼書の写しを見ていたのである。


「王様が出した依頼な。の?」

『みたいっすね。つまりは王様の方から、《災厄の六獣》相手に、戦いを仕掛けたという訳っすね』


 《災厄の六獣》相手に喧嘩を売るというのは、台風や地震相手に戦いを挑むようなモノ。

 そんな判断を、国を治める王がしたという理由が、ブレイズには理解できなかった。

 

『いくつか調べたところ、他の《災厄の六獣》に対しても依頼を出してるみたいっすね。オレサマの巣に物を投げ込むのと似た感じで、住処に何かを投げ込んだり、儀式をするのに手伝いを要請したり、と』


 勿論調べたのはブレイズではなく、タクモス伯爵家なのだが、それは言わなくても良いだろう。

 ともかく今の国王は積極的に、《災厄の六獣》に喧嘩を吹っ掛ける活動をしているみたいだ。


 恐らくは今の魔王が住む居城たる魔王城の結界が、《災厄の六獣》の魔力によって出来ているから、それを解除するために《災厄の六獣》に対する依頼を出しまくっていると思われる。

 一部では『伝説の勇者のようになりたい』と、国王が堂々とそう語ったのを聞いたという者も居るらしい。


『勇者ねぇ……あんなのに憧れるとか、マジっすか』


 その勇者と戦った《災厄の六獣》の滅炎竜ブレイズとしては、出来ればやめてほしいと思うばかりだ。

 あんな強い勇者、もう1人出てくるとか勘弁願いたい。


『強い勇者は、もうアンタだけで十分っス』


 と、スライムをむしゃむしゃ食べるアネットに視線を向ける、ブレイズ。



 ----そう、こんな異常に強いヤツは、勇者とアネットだけで十分である。



「ぷはぁ~! 美味しかっ。た!」

『それは何よりっす! さぁ、それじゃあ行くっす』


 スライムの姿煮を食べ終わったアネットを見て、ブレイズは慣れた様子で空をふわっと飛ぶと、アネットの頭の上に着陸する。


「……? どこ。に?」

『忘れたっすか? キューユさんからの手紙にも書いてあったはずっす』


 まぁ、正確に言えば『キューユの名を借りた、ブレイズのオススメのお店』だが。


『今から行くのは、キューユちゃんのオススメの道具屋っす。そこでアネットちゃん用の杖を作ってもらうっすよ』

「杖をつくってもら。う?」


 杖とは、魔法を放つのに役立つ武器のこと。

 杖がない今のままでも魔法は使えるが、杖を用いる事で、威力や速度などを向上させることができる。

 効果こそ凄いが威力と速度には不安を覚えるアネットには必要不可欠な武器。


『良い杖は魔法の性能だけではなく、体内の魔力を整えて健康にしてくれるとも聞くっすね。アネットさんも、健康で、美味しくご飯を食べていたいっすよね?』

「もちろ。ん! 健康で美味しく、それは大事で。す!」


 予想通りの反応が返って来て、ブレイズは嬉しくなる。


『(やはりそうか。アネット・ツーデンス、お前は食事絡みなら話を聞きやすい)』


 となれば、都合がいい。

 この次に絶望に叩き落とす《災厄の六獣》は、見た目が食べ物のアレそのものだから。

 『アレは美味しいっすよ!』と言っておけば、戦ってくれるだろうというイメージが湧いて来る。


「----それ。で?」

『あっ、あぁ! 道具屋っすね! 分かったっす、案内するから手で撫でないで欲しいっす』


 なでなでしてくるアネットに、そう答えるブレイズ。

 恥ずかしいからではない、単に今このタイミングで魔法を撃たれたら確実に当たるからである。


『では、行くっすよ! アネットさん!』

「おぉぉ~!!」



 ちなみに、だが。

 その後お腹が空いたと言い出し、スライムの姿煮をおかわりしたアネットのせいで、道具屋への出発は少し遅れるのであった。

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