第8話 すっごい魔法技術っすよ、アネットさん!
「【サンダー】!」
----ぴっかあああああああ!!
陽が落ちて夜闇が広がりつつある夜空。
そんな夜空に向けて、アネットは【サンダー】を放つ。
放たれた稲妻はうねうねと蛇行しながら、森の上空へと向かって行き、
----くるりっ!!
木々を抜けた森の上空にて、くるりっと、大きく円を描いてそのまま上空で消える。
「よしっ、上手くいった。ね」
アネットが今行ったのは、迎えに来てもらうための合図である。
【サンダー】を上空目掛けて放ち、大きく円を描いて合図を出して、滅炎竜ブレイズとの戦闘に巻き込まれないように逃げていたタクモス伯爵家の馬車に迎えに来てもらう。
どれだけ逃げたのかは分からないが、これで連絡は取れたし、馬車もここまで戻ってくるだろう。
まぁ、陽も既に落ちてしまっているので到着は明日の朝になりそうであり、アネットもキューユも小腹も空いてきているので、夕食代わりに何か食べておきたい所だが。
「えっと、それじゃあ夕食のかくほも、しとかないと……」
『いやぁ~! 今の【サンダー】の曲がりっぷり、マジ神がかったっすよ! 姉御ぉ!』
そして、そんなアネットに、全力で媚びへつらう者が居た。
彼女の【プチサンダー】によって縮小された滅炎竜ブレイズである。
『姉御、最高! 魔法の腕、めちゃくそ凄い!!』と、全力で媚びるブレイズ。
そんな今のブレイズからは、この世界を滅ぼすほどの力を持つとされた《災厄の六獣》の面影はちっとも感じられなかった。
『流石は姉御! このオレサマを討伐した魔法使いっすね!』
「むっ、アネゴじゃな。い。アネットだ。よ?」
『アハハっ! そりゃあ失礼しましたっす! アネットさん!』
「アネットちゃんで良いの。に……」と、小さな声で愚痴るアネット。
そして夕食の確保のために、【サンダー】を用いて動物の狩猟を始めていた。
それに対し、未だに彼女の魔法にて縮小状態にあるブレイズは、そんな気軽に呼べないと心の中で思っていた。
『(いやいや、あの稲妻とか、すっごくやべぇ魔法だろうが。なんだよ、あの
魔法は、真っすぐ飛ぶのが主流----というか、それが普通だ。
主流になっているのはやはりそれだけの理由があるからである。
基本的には、魔法というモノは完成されており、そこに余計な
先程の【サンダー】も、本来ならばただ真っすぐ進めれば、今よりも遥かに威力も出るだろうし、速度だって速まるはずだ。
それなのに無駄に蛇行し、くるりと円を描く軌道にしたことで、
恐らく魔法の研究をしている者からしてみれば、アネットの魔法は実践向きではあるが、純粋な学問として見れば落第だろう。
しかし、実践としてなら満点を上げても良い。
彼女の【サンダー】、そして【プチサンダー】は雷属性の魔法ではなく、サンダー属性の魔法であり、名称こそ同じだが、その効果はまるで違う。
アネットの魔法は威力うんぬんよりも、
アネットが放つ【サンダー】は当てた相手を必ず麻痺に、同じくアネットが放つ【プチサンダー】は当てた相手を必ず縮小させる。
威力なんてほぼ無くて良い----なにせ相手に当てた時点で、相手との戦力差などを無視して、一方的に状態異常を与えられるのだから。
『(本来、魔法の軌道に対して術式による変更が加えられていれば、オレサマのような魔法熟練者は一発で見抜ける。しかし、このアネットが放つ魔法は、本人の魔法の投げ方によってコントロールされている)』
ボールを投げる際に、ボールを相手に真っすぐ投げる。
それが普通の投げ方であり、魔法使いもまた魔法を真っすぐ放つのが主流である。
一方で、アネットの場合は、最終的にボールが相手に届けば良いと思って投げている。
だからこそ軌道も大きく曲がるが、彼女としては同じボールを投げているだけなので、術式による変更によって軌道の変更を知る癖があるこちらの意表を突ける。
『(達人の軌道は合理的だからこそ読みやすいが、素人の軌道は合理的な部分がないから読めない部分もある。アネットの魔法はそういうモノだ)』
恐らく今のアネットの"魔法を放つ際に真っすぐではなく、曲げて当てる"のは、サバイバルで身に着いた知恵みたいなモノなのだろう。
もし仮に、アネットにきちんとした魔法の指導を授ける事が出来たとすれば----今でも普通に強いアネットは、さらに強力な魔法使いになるのは確実だろう。
----天才魔法使い。
アネットを一言で言い表すとすれば、やはりそう語るしかないだろう。
『(あの
縮小状態から戻れない今、ブレイズがする事と言えば、やはり全力で媚びを売る事。
そして、もう1つする事があるとすれば----
「あー、キューユちゃ。ん! ご飯用の魔物、【サンダー】で落とした。よぉ!」
「うっ、うんっ! すっごい大きい魔物だし、いっぱい食べれそう……だね」
「あはは……」と渇いた顔を浮かべるキューユを、ブレイズは狙いを付けていた。
『……アネットに懐かれながらも、どことなく遠慮しがちな少女。名は確か、キューユ・タクモス』
ブレイズはそう思いつつ、2人きりで話す機会を伺うのであった。
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