第7話 もう強すぎっすよ、アネットさん!

『先手は譲ってやろう、幼き少女たちよ』


 『ガハハッ!』と、滅炎竜ブレイズは豪快に笑っていた。


 なにせ、伝達者メッセンジャーの役割を与え、見逃した2人の冒険者が用意した"強者つわもの"が、幼い2人の少女だったからだ。

 しかも、片方の少女からは弱い雷属性の魔力を感じるが、もう片方の少女からは力を持つアイテムを持っているだけで何も感じなかった。


『(片方は雷属性の魔法使いながらも、微弱。しかしもう片方は、力を持つアイテムを持っているだけの『無能』----。こちらが負ける要素は一つもない。それならせめて、餞別代りに先手を譲ってやろうではないか)』


 滅炎竜ブレイズの言葉に、「ほんと。う?」と、弱い雷属性の魔力を持つ少女----アネット・ツーデンスは首を傾げて聞く。


『あぁ、無論だ。この滅炎竜ブレイズ、一度言った事には責任を持とうではないか。先手はそちらに譲らせてもらおう』

「そうなん。だ。……えっと、キューユちゃん? やってい。い?」


 こそこそと、アネットは隣に居たキューユに話しかけていた。

 許可を求めての行為だろうが、ブレイズはそれを見て、『自分では何も決められない愚かな少女である』と、アネットを弱者だと認定した。


「じゃあ、いく。よ?」

『いつでも構わん。ただし、それが貴様の最期になるだろうがな』


 ブレイズの言葉は威圧と恐怖を加えて放たれるも、アネットのマイペースさはちっとも変化しなかった。

 彼女はいつもやるように、手をブレイズの方に向け、魔法を唱える。


「【プチサンダー】!」


 そう言って、彼女の手から放たれたのは、弱々しい、今にも消えてしまいそうなか細い雷プチサンダー


『カーカッカカッ! なんだ、そのか細い雷は! 俺様を倒したあの勇者は、もっと激しく、もっと鋭く、俺様に迫って来たというのに!』


 高らかに笑ったブレイズは、魔法を唱え始める。

 そう、先手は・・・もう譲った・・・・・


『受け止めてやるとは、行ってねぇからなぁ!! ----【火球】!』


 ----ゴォォォォォッ!!


 ブレイズが生み出したのは、火属性の魔法【火球】。

 ただ火炎を球体上にして発射するだけのシンプルな魔法ではあったが、その【火球】は威力が桁違いであった。


 おおよそ人間の数倍はありそうな、植物を一瞬にして灰にする強力な火の玉が、2人の少女に向かって放たれる。

 そしてその魔法は、2人の少女を理不尽にぶち殺すべく突進を開始し----



 ----シュルルルルゥゥゥゥゥゥ。



 一瞬のうちに消えて行った。



『……は?』


 "理解不能"、それがブレイズの頭の中に広がっていた。

 正確にいえば、ただ【プチサンダー】を受けて、目にも見えないくらいに小さくなって消えて行ったのが正しい。

 だがしかし、そんな事は知らないブレイズにとっては、ただ魔法がいきなり消えたように見えたのだった。


 ブレイズにとって、いま見た光景は、現象としてなら説明できるモノだった。

 ただ自分の圧倒的な力の具現化たる【火球】が、あのひょろひょろとしたか細い【プチサンダー】に当たった。

 そして、2つとも消えた----それだけだ。


 自分の魔法と、あのひょろい雷が相殺し合っただけ----ブレイズの頭には『そう言う事だ。受け入れろ』と警告音が成り続けていた。


『なんだよぉ、それはぁ!?』


 しかしながら、いま目の前で起きた事を、ブレイズはやはり1つも理解できなかった。


 なにが起こったかは分かったが、どうしてこうなったのかは全く分からなかった。

 故にブレイズは翼を動かし、空を飛んで距離を取る。


『なんだ、その力は!? 俺様の魔法を、どうやって消した!?』

「【プチサンダー】!」


 答えはなく、またしても放たれる先程の異様な魔法。


『----【赤竜の滅炎刃ブレイズエクスプロージョン】!!』


 異様な魔法に対し、ブレイズは自らの全力を込めて、少女へと差し向ける。


 《災厄の六獣》の一角、滅炎竜ブレイズ。

 その名を冠する、究極に近しい【火球】。


 元々その魔法は熱を用いて、相手を切断するために生み出された。

 しかしあまりにも強大すぎる火属性の力により、その魔法は相手を切断しきる前に相手を燃やし尽くすという効果を生み、結果としてこの魔法にぶつかったモノは全て『切れる』と同時に『燃やし尽くされる』という2つを同時に味わう事となった。

 相手を殺すために生み出した、ブレイズの最強の一撃。



 ----シュルルルルゥゥゥゥゥゥ!!



『まっ、また消滅したぁああああああ!!』


 しかしその魔法もまた、先程の魔法と同じく消えた。

 いや、縮小されて見えなくなった。


『なんなんだ、お前は?! 勇者とは比べ物にならないぞ! なんだそれは、理解不能だ!?』


 勇者は強かった、しかしそれは確かな理由を持っての強さであった。

 しかし目の前に居るこのアネットは、ブレイズにとって、理解が追いつかない強さであった。


 未知、なんでこうなっているのかが全く分からない。


「----むぅ!? あたらな。い!」


 一方で、アネットはアネットで不機嫌だった。

 彼女としてはキューユと帰って、タクモス伯爵邸でご飯を早く食べたかった。


 ----なので、増やした・・・・


「【プチサンダー】ぁ!!」

『----っ!! 【赤竜のブレイズ----』


 ブレイズは再び先程の技を放とうとした。

 しかしながら、それを放つ事は出来なかった。



「----じゅう・・・れんぱつ・・・・ぅ!!」


 ----シュルルルゥ! シュルルルルゥゥゥゥゥゥ!! シュルルルゥ! シュルルルルゥゥゥゥゥゥ!! シュルルルゥ! シュルルルルゥゥゥゥゥゥ!! シュルルルゥ! シュルルルルゥゥゥゥゥゥ!! シュルルルゥ! シュルルルルゥゥゥゥゥゥ!!



『えっ? ちょっ、まっ----ぎゃああああああああ!!』


 流石のブレイズも、10個にも増えた異様な魔法の対処は出来ず、【プチサンダー】の魔法を受けて、小さく、小さく縮み続ける。


『ぎゃああああああ!! つっ、翼で飛べない!? おっ、落ちるぅぅぅぅぅぅ!!』


 小さくなったことによって、ブレイズは空も飛べなくなったのか、そのまま地面へと落ちていく。


『ぐべぇっ?!』

「よいしょ。っと」


 地面に落ちたブレイズは変な声をあげ、そんなブレイズを拾い上げるアネット。

 元の大きさだと絶対に無理だったが、ブレイズはサンダー魔法によって、30cmほどの、手乗りサイズになっていた。

 そこまで小さくなっていたので、アネットは容易く拾い上げれたのである。


「キューユちゃー。ん! 居た。よー!」

『まっ、待って⁉︎ オレサマの話を聞いてぇぇぇぇ!』


 必死に抗議するブレイズと、そんな事関係ないとばかりに拾い上げたブレイズをキューユに見せて来るアネット。


「ねぇねぇ、キューユちゃ。ん! 逃げられないように翼をもいど。く?」

『物騒すぎんか、それは?!』



 かくしてブレイズ討伐はあっさりと終わり、出番を待っていたキューユは圧倒的すぎる力を持つアネットに、恐怖を覚えるのであった。

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