第5話 お友達の親御さんがきな臭い事を話してるっすよ! アネットさん!

 キューユを助けるため、【プチサンダー】で野党たちをみんなまとめて縮小させたアネット。

 キューユはそんなアネットに対して心ばかりのお礼をしたいと言い、応急処置を施した馬車にアネットを乗せ、家へと帰る事に。


 そしてキューユ救出のお礼として、タクモス伯爵邸にて、アネットは歓迎を受ける事になったのである。




「うわぁ、おいしそ。う!!」


 十数人ばかりのメイドさんが、代わる代わる料理をテーブルの上に置いて行く。

 置かれている色とりどりで豪華な料理たち----そんな光景に、アネットは目を輝かせて喜んでいた。


 テーブルの上に並べられていくのは----おいしそうなケーキ。


 ふわふわとしたスポンジに、チョコレートをかけたり、クリームで飾り付けたり、あるいは美味しい果物をふんだんに載せた、森暮らしでは絶対出てこない料理スイーツ

 メイドたちと共に入ってきた料理長が1つ1つ説明していくが、アネットの頭には何一つとして、説明が入って来なかった。

 なにせそれくらい、目の前のケーキはすっごくおいしそうに、アネットには見えていたからだ。


「これ、ぜんぶ食べて良い。の?」

「えぇ、勿論でございます」


 ニコリと、真っ白な歯を見せて了承する料理長の言葉を聞き、アネットは嬉しそうに、もぐもぐと食べ始めた。

 フォークやナイフといった食器を使うのも忘れ、彼女は目についたケーキを手に取って、口の中へと放り込んで行く。


「おいし。い! これも、これも、これも、ぜんぶ甘くて、おいしい。の!」


 それはお世辞にも、貴族の令嬢に相応しいとは言えない、かなりお下品な食べ方であった。

 しかしその表情は、お世辞抜きに、ただ純粋に食を楽しむ者の笑顔であり、料理長はその笑顔を見れただけでも嬉しかった。

 ……まぁ、食べ方はもう少し上品な方が良いのは事実だが。


「……」

「あの、失礼とは思いますが……どうかされましたか?」


 料理長がそう聞くのは、キューユからそう言付かっているからだ。


 仕えている主の娘----キューユ・タクモス伯爵令嬢。

 彼女は家へ彼女を連れ帰るなり、「くれぐれも丁重に扱って欲しい」と料理長を始め、メイド達にもそう命令した。

 普通なら「丁重に"もてなして"欲しい」と伝えるべき所なはずだが、料理長達はキューユの見た事もないような真剣な眼差しに口出しすることが出来ず、彼女の命に従った。


 その命令を下したキューユ自身は、父親にしてこの家の当主である【ボイル・タクモス伯爵】と話があると言って、出て行ったきり。

 もし仮に彼女アネットに粗相をしてしまうと、キューユだけではなく、事と次第によってはボイル伯爵が出て来る可能性すらあった。

 下手すると首が飛ぶどころでは済まないかもしれないため、料理長は慎重に対応していたのだった。


「私の料理に、なにかご不満でも?」

「うっ、うう。ん! ちがう。の! すっごくおいしい。よ? おいしいんだけど……」

「けど?」



「私1人だけじゃなくて、キューユちゃんとも食べたいな。って」



 少し顔を赤らめてそういう愛らしいアネットの様子に、部屋に居た料理長、そしてメイド達も、微笑ましい気持ちになるのであった。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 一方、その頃----ボイル伯爵の仕事場である、書斎にて。

 キューユは、部屋の真ん中で椅子に座ってふんぞり返っている男----自らの父であるボイル・タクモス伯爵に事情を説明し終えていた。


「……なるほど。そういう経緯で彼女を家へ招いたのだね」


 眼鏡越しでも分かるような鋭い視線を実の娘に向けながら、ボイル伯爵は納得したとそう言葉にした。


「正直なところ、キューユの話だけでは説得力に欠けるところがあったのは事実だ。しかしながら、こうして証拠を持ち出されては、信頼せざるを得ないね」


 と、ボイル伯爵は机の真ん中で、箱の中から必死に出ようとする野党たちを見ながらそう言った。


  「ダシテ!」 「モウカエリタイ」 「ママぁ!」


 それはサンダー魔法により、未だに縮んだままの野党たち。

 「野党に襲われるも、アネットによって野党たちは小人になりました」などという、娘の絵空事のような説明に説得力を生む代物であった。


「あらゆるモノを縮小させるサンダー魔法……聞いたことはないが、まさかそのような魔法が存在するとは驚きだ。ハズレ魔法とはいえ、有力な武器であることには違いあるまい」

「父さんは……」


 ぱしんっ!!


「この部屋では、伯爵と呼びなさい。キューユ」


 炎魔法の鞭を瞬時に生み出し、実の娘の頬を叩いて訂正させるボイル伯爵。

 それに対し、キューユは「申し訳ありません……」と小さな声で反省の弁を述べた。


「分かればよろしい。それでキューユよ、先程言いかけた事はなんだ? 申して見よ」

「伯爵は……アネットちゃんを、彼女を"アレ・・"の討伐に使うつもりですか?」


 そもそもキューユが、アネットが暮らす森に居たのは、その"アレ・・"の討伐を、王都へ頼みに行った帰りだったから。

 自分達の領内の戦力では足りず、王都へ急遽増援を頼みに行った----それだけの強敵。

 

 キューユが心配していたのは、そんな強敵の討伐に、アネットを使うことだった。


「アネットちゃんは、まだ10歳。そんな幼い少女に、"アレ・・"の討伐を頼むだなんて……」

「幼いとはいえ、10歳。お前の1つ下だ。問題はあるまい」


 そして、ボイル伯爵は決断する。


「この世を滅ぼすほどの力を持つとされる最強種たる6体の魔物。通称、"災厄の六獣"。

 そのうちの1体、滅炎竜ブレイズ----その討伐に、アネット・ツーデンスを『使用』する」


 完全にアネットを、魔物討伐の道具としてしか見ていない言葉。

 異議申し立てをしたいキューユであったが、けっきょく逆らう事は出来ず、アネットと共に討伐に向かう事になったのであった。

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