第4話 友達を魔法で助けるなんて、心が天使っす! アネットさん!

 ----アネットが【プチサンダー】を使って、アッポルを縮小させていた頃。



 【キューユ・タクモス伯爵令嬢】は、護衛の近衛兵たちと共に、野党の襲撃を受けて、足止めを喰らっていた。


「ひゃはああああああ! 金だしな、おらぁああ!!」

「逆らおうとすんなよぉ、そんな事をする方が無駄だからよぉ~」

「そうだぜぇ、そうだぜぇ。やめとけ、やめとけなぁ~」


 顔を隠すために黒マスクを被るという、いかにもな野党集団。

 でっぷりとしたお腹を持つリーダー格の男と、痩せ細りながらも目はギラギラな男が6人。

 そしてその野党集団は、危険指定されている魔物----【ホーカマウルフ】の群れを引き連れてやって来ていたのだ。


『『『グルルルゥゥ……』』』


 いまにも襲い掛かろうと、使役者オーナーであるリーダー格の男の号令を待っている、ホーカマウルフたち。


 魔物とは、この世界に溢れる魔力が集まって生まれた、生物ならざるモノ。

 その多くは人に仇なす狂暴性を持つ危険な生き物であるが、このリーダー格の男はなんらかの魔道具アイテムによって、この魔物、ホーカマウルフたちを従えているようであった。


 ----炎属性にして狼系な魔物、ホーカマウルフ。

 とある地域で、群れとなって人々を襲う魔物で、獲物を追い込むために周囲のモノに炎を放って追い込むという厄介な特性を持つ魔物である。

 乗っていた馬車の車輪を、口から吐く火炎で溶かしたのも、この魔物の力だろう。


 乗っていた馬車の車輪を破壊されて、足止めされたキューユ令嬢と近衛兵たち。

 車輪の破壊の実行犯たる野党たちは、ゲヘへっという、下卑た顔と笑い声を浮かべながら、リーダー格の者達以外がゆっくりとこちらに近付いて行く。

 その後に、リーダー格の指示を受けたのか、ホーカマウルフたちもこちらに向かって来る。


「……どうしますか、キューユ様?」


 近衛兵の隊長が、キューユにそう尋ねる。

 この野党たちは恐らく農民崩れ、ろくな戦闘経験を積んでいるようにも見えず、戦えばこちらが勝つのは当然。


 しかし問題は、ホーカマウルフたち。


「(あのリーダー格の男、恐らくは没落貴族崩れの野党、そういった所ね。一応の戦闘経験と、切り捨てる判断が出来そうな顔をしてるわ)」


 切り捨てる判断とは、すなわち、前の野党たちがやられたら、すぐさまホーカマウルフたちに炎を吐かせる指示を出すという事。

 野党たちは元農民、そしてリーダー格の男は元貴族----現在の地位は一緒だが、あのリーダー格の男の中では明らかに自分の方が上だと思っている。

 元農民の野党が1人でもやられたら、即座にホーカマウルフたちに火を吐かせて、野党なかまもろともこちらを燃やし殺すつもりなのだろう。


 近衛兵隊長はそうだと思っているからこそ、雇い主たるキューユに相談しているのだ。

 ----ホーカマウルフに炎を吐かれるだろうが、野党どもを殺して良いか、と。


「(私の炎魔法ではホーカマウルフたちには、敵わない。確実に近衛兵の中から犠牲者が出る……でも、このままだと、私達が摑まるのも時間の問題。どうすれば----)」


 キューユ・モスタク、御年11歳。

 伯爵家の令嬢として、こういう場合にどうすれば良いのか、幼いながらも苦心させていると----


「あぁん? なんだぁ、ありゃあ?」


 リーダー格の男の、不満そうな声を聞き、視線が自然と、彼と同じ上空へと向く。


「……光?」


 キューユが見つけたのは、弱々しい光であった。

 初代勇者が使ったとされる7つの属性の魔法の中に、光魔法というのがあるが、あの弱々しい光は、光魔法のそれと比べると明らかに弱々しくて、また別な魔法の感じがしていた。


「グヘヘ。なんだよ、お前ら。まだ仲間を隠し持って----」


 リーダー格の男が笑ったのも束の間、弱々しい光は急に方向を変え----


「グピャアアア?!」

「「「お頭ぁ?!」」」


 リーダー格の男に、直撃する。

 そして、さらに----



「ウピャアア?!」

「俺もぉぉぉ?!」

「なんだ、これぇぇぇぇ?!」


 いつの間にか接近していた光が、他の野党たちにも命中。

 さらには同時刻に、ホーカマウルフたちにも、命中していた。


「(複数の魔法を同時に、当てる? あんな弱々しい光なのに、たいした魔法技術)」


 キューユが感心していると、さらに驚くべき事が起きていた。


 -----しゅるるるっ。


「ナンダコリャアア」

「オカシラァァァ」 「タスケテェ!!」 「チヂムゥゥゥ」

『ワオンッ?!』 『ワオーンッ?!』 『ガルルゥ?!』


 目の前で、光を喰らった野党たちが、童話に出て来る妖精フェアリーのように、小さく、そう小人のようになってしまったのだ。


「あのまほうの力? でも、縮小させる魔法だなんて、聞いたことが----」



「キューユちゃああああん!!」



 その時である。

 キューユの名前を呼びながらこちらに来る、ボロッボロなドレスを着た少女が、こちらに向かって来ていた。


「アネットちゃん?」


 その少女は、アネット・ツーデンス。

 貴族のパーティーなどで良く顔合わせをした間柄で、キューユの知りあいであった。


「アネットちゃんが、何で森の中に? もしかして、あの子がさっきのまほうを?」


 とりあえず事情を聞くために、近衛たちにアネットを迎えに行かせるキューユなのであった。

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