第3話 森の中でも快適生活とは……流石っすね! アネットさん!

 ----ツーデンス子爵家から勘当された少女、アネット。

 

 最初こそ涙を流していた少女ではあったが、それは1時間ほどで終わり、彼女はツーデンス子爵領にある小さな森に移動して、そこで暮らしていた。

 そしてアネットはその生活を、それなりに満喫していた。

 そもそも未だアネットは10歳、自身が勘当されて、家なし子になったという事を、正しく理解できていなかったというのもあるが。


 ツーデンス子爵家から勘当されたアネットは、近くの森で一人、元気に暮らしていた。


「【サンダー】!」


 こうして元気に暮らせているのは、彼女の魔法、サンダー魔法が理由であった。


 そう、アネットが家から勘当されることになった理由である魔法、サンダー魔法。

 サンダー魔法は雷魔法と違って、威力も低く、速度も見て分かるくらい遅いという、雷魔法の下位互換。

 しかし、アネットにはそれで十分だったのだ。


 彼女の手から放たれたサンダー魔法の弱々しい雷は、うねうねと揺れながら、目標物たる、木になる赤い果実【アッポル】にぶつかる。


 ----びりりっ。


 アッポルはサンダー魔法によって3秒ばかり痺れていたかと思うと、そのまま木の枝からポトリと落ちていた。

 そして、落ちたアッポルをアネットは拾い上げると、パクリとかじり付く。


「う~ん、おいし。いっ!!」


 美味しいと、嬉しがるアネット。

 これは雷魔法にはできず、サンダー魔法ならできる芸当であった。


 なにせ雷魔法だと威力が強すぎて焼け焦げてしまい、その点、威力が不足しているサンダー魔法なら果実を焦がすことなく、表面についた虫だけを痺れ落とし、清潔に食べる事が出来ていたのだ。

 

 今日も今日とて、美味しいアッポルを食べて、お腹を満たすアネット。


 ここ数日、サンダー魔法を当てて、アッポルなどの果実を木から落として食べたり、時には野兎などに当ててお肉を得るなどして、アネットは順調にサバイバル生活を満喫していた。

 というか、礼儀作法など、貴族ならではな堅苦しい生活をしないで良くなり、むしろ健康になりつつあったのだった。





「う~ん、っと、今日はおひるねをしよっか。な?」


 その場のノリで、というかお腹いっぱいになったので眠る事を決めたアネット。

 そのままスヤスヤと眠ろうとした時、


 ----ペタリっ!!


「むきゃっ?!」


 風に運ばれて、1枚の紙が、アネットの顔に張り付いた。

 眠気もすっかり吹っ飛んでしまい、少々不満気なアネットは紙を顔から外すと、そこに書いてある文字を読んでいた。


「えっと、【プチファイア。ちいさな炎を出して、あいてをこうげきする魔法です】~?」


 それは、魔術の指南書の最初の方に載っている、基本中の基本のような事であった。

 

 炎魔法の基本魔法、"ファイア"。

 それよりも威力は劣る、"プチファイア"。


 全ての魔法には基本魔法、そして基本魔法の前に"プチ"がつく魔法があると、習ったことがあると、アネットは思い出した。


「たしか、雷魔法のきほん魔法が【サンダー】なんだよ。ね?」


 そう、アネットの頭にあるのは、その程度の浅すぎる知識。

 自分が使うサンダー魔法の基本魔法もまた、同じ【サンダー】であるということはただの偶然で、もし仮にそうでなかった場合、彼女は魔法も使えず、野垂れ死んでいただろう。


 ものは試しとばかりに、アネットは別のアッポルに狙いを定め、魔法を唱える。


「----【プチサンダー】!」


 彼女が魔法を唱えると共に放たれる、先程よりも弱々しい雷。

 ふわふわと風に揺られて、まるでタンポポの綿毛のように揺れる真っ白い"それ・・"は、アッポルにぶつかり----アッポルがゆらゆらと揺れて落ちる。


 ----しゅるるるっ!!


「あれれ……?」


 落ちて来たアッポルを"摘まんで拾い上げる"、アネット。


 ----そう、先程落としたアッポルよりも、【プチサンダー】で落としたアッポルは"小さく"、小粒サイズになっていた。

 同じくらいのアッポルを狙ったはずなのに、だ。


「ちいさく、なって。る?」


 「どうなってるんだろう?」と小さくなってしまったアッポルを拾い上げ、怪しむアネット。

 しかし怪しもうとも、アネットの知識では、どうしてこうなってるかだなんて、分かるはずもなかった。


「う~ん?」


 分からないなりにも、必死に考えていたアネットだったが、その考えは中止にせざるを得なかった。



『たっ、助けてぇぇぇぇ!!』



 近くから、アネットと同じくらいの少女の、助けを求める声が聞こえて来たからである。

 そしてその少女の声を、アネットは知っていた。


「……キューユ、ちゃん?」

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