第2話 アネットさんを勘当するとか、ほんと無能な父親っすよね? そう思いません、アネットさん?

 ----【パンクンパ王国】。


 それは、かの大魔王を封印したとされる、伝説の勇者が興したとされる国。

 この国では、初代国王----つまりは、伝説の勇者が使ったとされる7つの属性の魔法が素晴らしいともてはやされ、逆にそれ以外の属性の魔法は下等だと蔑まされる傾向にあった。


 そんなパンクンパ王国の、とある地域。

 伝説の勇者が使ったとされる7つの属性の魔法のうちの1つ、雷魔法。

 そんな雷魔法、その優秀な魔法使いを、数多く輩出する【ツーデンス子爵】の家で、1人の貴族令嬢が危機的状況にあった。




 真っ白なドレスを着た、銀色の髪をした愛らしい少女。

 少女----いや、その令嬢の名前は、【アネット・ツーデンス】。

 御年10歳になる、この家の長子"だった・・・"者だ。


「アネット、今日を限りにお主は我らがツーデンス家から勘当だ」


 ドヤ顔でそう宣言するは、ツーデンス家の現当主にして、アネットの父。

 ----チョビ髭が似合う狸顔の男、【トーデン・ツーデンス子爵】その人であった。


「かんどー?」


 一方で、聞き覚えのない言葉に、頭を傾げるアネット。

 それに対して、「家から出ていけ、という意味だ」と、トーデンは目を吊り上げて説明する。


「アネット、お主はいま、何歳になった?」

「6、7、8……えっと、10歳で。す!」

「そうだ、10歳だ。そして先日、教会で魔法の判定を受けた」


 そう、10歳----多くの子供達が、教会にて魔法の判定を受ける頃であった。


 ----魔法が使えるか、否か。

 ----使えるとしたら、どんな魔法が使えるか。


 教会という場所は、神の教えを広めるだけではなく、10歳を迎えた子供達に対してそういった事も教えてくれる。

 そして先日、アネットもまた、その判定を受けた。


 結果としては----"最悪どんぞこ"。

 魔法を全く使えない無能認定されていた方が、まだマシだと思うくらいには。


「アネットよ。お主の判定は、教会によれば----【サンダー】などという属性、サンダー魔法のみを扱える魔法使いとの事だ。

 そしてサンダー魔法とやらは、誰も知らぬ未知の属性との事ではないか。そんなハズレ魔法の使い手が、我が家から出たなど、恥でしかないわ」


 魔法が使えない無能程度ならば、【セルス商会】に嫁がせるという事も出来た。

 セルス商会は最近ぽっと出の商会ではあったが、たんまり稼いでおり、保有している財力は伯爵家や侯爵家相当だと言われており、貴族の家と縁を結びたい彼らの元に嫁ぐという選択もあった。

 ツーデンス子爵家も、彼らの財力には興味があったし、アネットも知らない所で人知れずに婚約の話が進んでいたくらいだ。


 しかしそれも、サンダー魔法という、良く分からないハズレ魔法を授かってしまったアネットでは、意味がない。

 セルス商会が欲しいのは貴族の血筋であって、サンダー魔法なるハズレ属性の魔法を使うアネットは、もうツーデンス家では価値がない者として扱うしかなかったのだ。


「アネット、お前は我が家の期待に応えられなかった」

「お父さん……」

「もうこの日より、我がツーデンス子爵家に立ち入る事は許さぬ。とっとと、消えるが良い!」


 アネットは、父の言葉の1割も意味は分からなかった。

 ただ、自分がこの家から追い出されてるという事は、なんとなくニュアンスで理解していた。


「……はい、分かりました。よ」

「よろしい。今後ツーデンス家の者ではなく、ただのアネットとして生きてゆきたまえ」


 「話は以上だ」と言い、トーデンは椅子に座り、その視線をアネットから完全に外していた。

 

 アネットを勘当した以上、新たにツーデンス家の名を背負う者が必要となる。

 出来れば雷魔法の使い手が居れば良いと思いつつ、トーデンは次なる跡継ぎ候補を探すため、執事が用意した報告書に目を通す。

 報告書には、このツーデンス子爵領の他の子供達の判定結果が書かれており、トーデンはそれを注意深く見ていく。


「……まだ居たのか、アネット? お前の家は、もうここじゃない」

「うっ、うえええええええええんんんっっ!!」


 涙を流しながら、アネットは慣れ親しんだツーデンス子爵家を後にするのであった----。






 そして勘当されてから1か月----。


「うわぁ~! この赤い実、美味しい。ね!」


 アネットちゃんは、楽しく生きていたのでした。

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