アネットちゃんとてのりドラゴン~ハズレ魔法【サンダー魔法】は、全てを縮小させるチート魔法なようです~

帝国城摂政

第1話 おっきな隕石も、アネットさんにかかれば楽勝っす!!

 ----世界の終焉。


 冒険者の街【ラッカルト】に訪れたその危険物は、人々にそのような感想を抱かせていた。





 ラッカルトは、冒険者の街だ。


 ダンジョンと呼ばれる摩訶不思議まかふしぎな迷宮----その迷宮から出て来る財宝と、それを持ち帰る冒険者の収益あがりを狙う、開拓都市。

 ダンジョンの探索を助けてくれる"鍛冶屋"や"道具屋"の他にも、勝利と生存を喜ぶための"酒場"、女との喜びを教えてくれる"娼館"など、冒険者を支え、冒険者のお金によって支えられている街。


 そんなラッカルトの街の空----その街の倍はあろうかという巨大な隕石が、こちらに落ちてこようとしていたのだ。

 地面へと落ちれば、このラッカルトの街が崩壊するのは、目に見えるような圧倒的巨大感ビッグサイズ


 街の人々は、自分の運命が終わりを迎えてる事に後悔し、涙を流す。

 慌てて逃げ出そうとする者、泣きわめき醜態をさらす者、この機に乗じて犯罪つみを犯そうとする者----巨大隕石をなんとかしようと立ち上がる者など、僅か数名ばかりである。

 そんな僅か数名ばかりの戦士も、ただ震えるばかりで、人々の死は確実に迫っていた----。


 ----ゴゴゴゴゴゴゴッッッ!!


 大きな音と共に、隕石は刻一刻と迫りつつあった。




「うわぁ! おっきい隕石です。ね!」


 そんな中、的外れな感想を、少々舌ったらずな声で話す者が、最前線にいた。


 その者は、真っ赤なドレスを着た、愛らしい少女であった。

 腰まで伸びる黒い長髪の少女は、にこやかな笑顔を浮かべており、今から隕石と対峙するような戦士が浮かべるような表情ではなかった。


『流石っすね、アネットさん! あの巨大隕石相手に笑っていられるだなんて、オレサマ、びっくりっすよ!』


 そんな少女に媚びるように話しかけるのは、小さなドラゴン。

 彼女の手の上に乗るくらいの、30cmくらいの大きさの超小型なそのドラゴンは、パタパタッと翼を羽ばたかせながら、全力で少女に媚びていた。


「え~、そうか。なぁ? でもでもあの隕石さん、落ちちゃうと私、死んじゃうのか。な?」

『そうっすねぇ、アネットさん。流石のオレサマでも、あのサイズだと死んじゃいますっす。というか、全員漏れなく、滅亡コースっす』


 ニヒヒっと、小さなドラゴンは、まるで他人事ひとごとのように笑っていた。

 それに対して少女は、「だよ、ね~」と同意する。


「という訳で、やっちゃいます。か!」


 少女は笑い、その手を隕石に向けて、魔法名を唱える。



「----サンダー魔法【メッチャ・プチサンダー】!」



 少女の手が持つ銀の杖から、真っ白な雷が手から放たれ、その雷はまっすぐに隕石に放たれていた。

 銀の杖から放たれた雷は勢いこそ素早いが、上下に激しく揺れる不安定な雷で、今にも消えそうなはかなさを見せていた。


 そして雷は街を滅ぼそうとする隕石にぶつかり、雷は隕石を破壊できず、そのまま消えてしまう。


 ----ぎゅぎゅぎゅっ!!


 すると、隕石に大きな変化が訪れる。


 隕石の輪郭がぼやけ始め、その輪郭がどんどん縮んで行く。

 そう、巨大隕石が、目に見えて小さくなっていくのだ。


 ----ぎゅぎゅぎゅーぎゅっ!!


 どんどん縮み続け、街を覆っていた隕石の影がどんどん小さくなって、街の危機がどんどん小さくなっていく。


『ほいっ、と』


 街を覆うほどの隕石は、1/20くらいの小ささになり、その小さくなった隕石にドラゴンが熱線を放つ。

 その熱線は光のように真っすぐ放たれ、小さくなった隕石を粉々にする。

 粉々になった隕石はパラパラと雨のように、街へと降り注ぐ。


『ぱくっ、とな』


 ガブリっ、とドラゴンは口を大きく開けて、粉々になった隕石の中でも、ほんの少し大きいモノ----それでも小石程度だが----を厳選し、食べて処理する。


 あっという間、ものの数秒。

 街を滅ぼす隕石は消え、少女とドラゴンはハイタッチで喜びを分かち合っていた。



 街の人々は知らない。


 少女が、先程の魔法を与えられたせいで実家から追放された、元貴族令嬢である事も。

 手乗りサイズのドラゴンが、世界を滅ぼすとされる"災厄の六獣"の一角【滅炎竜ブレイズ】である事も。


 1人の元貴族令嬢と、1匹のドラゴンが、どのようにして出会ったのか。

 まだ、誰も知らなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る