第二十九話 囚人の反逆

 骨の塊が地面を砕き、巨大な土煙を生み出した。

 屍帝はその光景を見て、勝ちを確信する。


「勝った。勝ったぞ!

 遂に封印術師を仕留めた!!!」


 ガッツポーズし、土煙に背を向ける屍帝。


「見よ……見よ!

 これが余の――」


 そこで、屍帝は気づく。

 背後に忍び寄る足音に。

 煙を切って飛び出す裸の男の姿に。



---シール視点--- 



 迫る骨の束。

 オレは予め用意しておいた小石を手に取る。


――二つ目の、切り札だ。


 その小石に描かれるは円の字印と――オレの名前だ。

 オレは小石を骨の束に向かって投げた。同時に右拳で自分の脇腹を殴り、字印を付けた。


「――“封印close”ッ!」


 体が、投げた小石に吸い込まれていく。


 自己封印。


 爺さんは以前に自己封印は難易度が高いと言っていた。

 だが爺さんは封印に対して難易度が高いと言ったわけじゃ無い、爺さんは自己封印した後の解封に対して難易度が高いと言ったのだ。


 恐らく、オレは封印されたら自力で抜けられない。

 シュラに聞いたことがある。封印されている時、どんな状態だったかと。聞くと、シュラは『まったく記憶がない』と言っていた。封印されている時、意識はないのだろう。意識が無ければ解くこともできない。


 オレがこの先成長すれば解封もできるようになるのだろうが、今は無理だ。


 だが、封印術を解く方法はオレが解封することだけじゃない。器の破壊だ。

 オレは小石を奴の攻撃で砕かせ、自分を解封する手を取った。


 オレは小石に引っ張られ、封印された。



――次に意識が戻った時、オレは土煙の中に居た。



 小石が破壊され、中身が出るまでおよそ0.8秒、干渉されない時間がある。それを使って奴の攻撃を躱したのだ。


 オレは裸になっていた。当然だな……。

 骨の欠片を拾い、己の血で字印を描く。そして字印の周りに、奴の名を刻んだ。


『勝った。勝ったぞ!

 遂に封印術師を仕留めた!!!』


 馬鹿の声が聞こえる。

 オレは裸足で地面を穿ち、土煙より外に飛び出した。


「見よ……見よ!

 これが余の――」


 奴がオレに気づき、後ろを振り返る。

 すでに赤魔は尽きている。だが、この距離――


――拳は届く。


「“烙印mark”……」


 左拳が奴の生身の右頬を殴った。

 字印が、浮かび上がる。手に持った骨の欠片は青く光った。



――長かった。



 この十歩が、本当に長かった……。


「屍帝、“レイズ=ロウ=アンプルール”」


「き、さまあああああああああああああああああっっーーーーーーーーー!!!!」


「テメェに、無期懲役をくれてやる……」


――“封印close”。


 骨の欠片から渦が発生し、奴を飲み込む。

 成立さえしてしまえば、後は抗うことはできない。


「ふざけるなぁ! 許さん、許さんぞぉ!!

 封印術師ぃぃぃぃぃっ!!!!!」


 屍帝はなんの抵抗もできず、骨の欠片に封印された。



「あぁ、マジで疲れたぜ……」



 オレは赤く光った骨の破片を掴み、大の字に倒れる。


「なぁ爺さん。

 半人前ぐらいの活躍はできただろう」


 波は去り、シーダスト島に平穏が訪れる。

 こうして、屍帝“レイズ=ロウ=アンプルール”との戦いは終わった。



---



 戦いは終わった。

 オレはとりあえず屍帝が履いていたズボンを履き、一番重傷そうなカーズの方へ向かおうとする。だが――


「いっ!?」


 膝がガクンと落ちる。

 忘れていた。オレもかなーり限界だった。


 奴を封印した骨の破片をポケットにしまう。

 状況はまだ軽く悪いな。オレ、ここから動ける気がしない。魔物が一匹でも来たらジ・エンドじゃねぇの?


 獅鉄槍とルッタとオシリスオーブが地面に散らばっている。

 自己封印の際、オレに置いていかれ、器が壊れて飛び出したのだろう。


 後処理が中々大変だな、コレは。


「……っ!」


 マジで、ふざけんなよ……!

 影が落ちた。集落に、羽の生えた生物の影が落ちた。


 見上げると、空から一匹の竜が舞い降りて来た。

 黒い竜、瞳は真っ白で、歪なオーラを纏っている。


 味方じゃないと一瞬でわかる。

 その全身から放たれる魔力は、屍帝よりも上だった。


 竜は翼で風圧を作りながら、オレのすぐ目の前に降りてくる。

 

「おーいおい。

 屍帝の野郎を迎えに来たら、なんだこりゃ?」


 黒き竜。

 しかし、真にヤバいモノは、その背中に乗っていた。


 そいつは竜の背から飛び降りる。黒のマウンテンハットを押さえながら。

 背の高い男、白の長髪。黒のロングコートを着ている。腰には見たことの無い筒状の何かを仕舞っていた。


 男が顔を上げ、オレを見る。

 オレはそこで初めて奴の顔を認識する。


「――――」


 言葉を失うとは、こういう状態を言うのか。

 その男の顔はシワが付いており、一見穏やかそうに見える老人。



――『少年、名はなんと言う?』



 知っている顔だった。



――『肩たたき、上手くなったな』



 居るはずのない顔だった。

 だってそうだろ、アンタは、アンタはひと月前に確かに――!


「爺さん……!?」


「あァ? 誰だテメェ」



 ――――――――――

【あとがき】

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何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!

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