第二十七話 切り札

 狙いは一つ、アイツをぶん殴って字印を付ける……!

 もしかしたらアイツの魔力がオレより上かもしれない。いや、今はそのことは考慮しない。

 勝ち筋が一つしかないんだ。それがダメなら諦めて死ぬ。


 だが当然、奴もオレの接近を警戒している。封印術のタネはバレているのだろう。

 オレが迫ると必ず大規模攻撃で押し返そうとする。近づけて十歩の距離……残り十歩が果てしなく遠い。


 だが悪くはない。魔力の消費量はオレの方が圧倒的に少ない。

 奴はオレが接近しようとするだけで、明らかにオーバーな攻撃で返そうとしてくる。


「近づかせはせん! 絶対に、貴様らだけは……!」


 怯えた瞳。

 どうやら封印術が余程恐ろしいらしい。トラウマなんだろうな。


「いいのかねぇ、そんな魔力使っちゃってさ」


 足に赤魔を溜めてルッタによる機動攻撃を仕掛けるが、どうしても物量に押し返される。


 オレが骨の波に押し返されたところで、屍帝は新たに白き骨の竜と赤き血の竜を作り出した。


「そぅら!

 踊れ封印術師ッ!!!」


「大盤振る舞い感謝だよ!」


 白と赤の竜が混ざってオレに迫る。

 防御は論外。

 回避しようと足に力を込める。


「んなっ!?」


 オレの両足を地面より這い出た白骨の腕が掴み止める。


「まずった……!」


 赤白の竜の攻撃を真正面から受けた。

 足の踏ん張りなど意味を成さず、オレは地面から足を離した。



――意識を繋ぎ留めろ……!



 眠ったら終わりだ。

 大ダメージなのはわかっている。痛みに備えろ! 耐えなくては……!


 人生で一番の痛みがオレを襲う。

 骨の破片が肌に食い込み、血の激流が魔力を削る。


 二匹の竜がオレを引きずり回す。


「いっ!?」


 背中に衝撃が走る。

 どうやら見張り台に背中から突っ込んだようだ。竜は散り去った。


「ん――おえっ!?」


 オレは口に溜まった血液を吐き出す。


「やべぇな……」


 ずっと感じていたが、改めて再確認する。この屍帝とかいう奴……明らかに今のオレが相手するレベルじゃない。

 別格だ。

 魔力量も、経験も、技の豊富さも……すべてにおいて別格だ。


「休む暇はないぞ! 封印術師ぃ!

 次はlevel2。肉体だけでなく、生前の技術スキルをも再現するッ!!!」


 またもや生み出される生身の屍。


 合計8体。今回は少ないな……だが、油断など一瞬でもできなかった。

 そいつらは形成の魔力を使い、一点に水の塊を作り出していた。


――“海辺の支配者シーサイドルーラーズ”。


 恐らく、その元メンバーたちだろう。フレデリカが水の魔術を主に使うギルドだと言っていた。

 水の塊は膨れ上がり、川でも作れそうな水量へ達した。


 直撃したら、間違いなく死ぬ……!



「う――ごけぇ!!!」



 体が動かない。血液が足りないのか?

 あぁ、まずいな。力が入らん。


「なら、もういいさ」


――もう血には頼らない。

 オレは支配の魔力黄魔を体に循環させる。魔力で体を


 血液の代わりに魔力を回せ――動け体……!


「だあああああらぁ!!!!」


 撃ちだされる水の渦。

 オレは支配の魔力で己の体を動かし、渦の直撃を躱す。しかしその余波、渦の端に右肩をぶつけただけで大きく吹き飛ばされ、集落にある三列の建物、その東端の建物の中まで押し込まれた。


 木の壁を破り、扉の反対側の壁まで飛ばされる。


「かはっ……!」


 背中と後頭部を壁に打ち付け、眩む意識。

 オレは視界に入った暗闇を首を振って払う。頬を二度叩き、意識をキープする。


「ここは……」


 家の床には死体が並べられていた。


「食糧庫か……!」


 ただの屍じゃない。腐臭がしない、鮮度が保たれているような気がする。肌のツヤもくすんでない。ひび割れもない。フレデリカが言っていたように、加工されているようだ。


――生きている人間は居なかった。


 奴ら、魔物たちにとっての食糧庫。気持ちが悪い。

 死体からは凄い量の魔力の圧を感じる。なんらかの方法で魔力を死体に溜めているのか?


 ふと、最悪のシチュエーションが頭に浮かぶ。


「……。」


 同時に浮かぶ……一つの策。

 

 

---  



 オレは家から外に歩いて出る。

 屍帝は8体のしもべの後ろに待機していた。


「ほう、まだ生きていたか……」


 屍帝は一筋の汗を垂らしていた。


 息が上がっている。生きているオレを見て、明らかに顔色を悪くした。

 いま、オレはあの家の中に一分ほど居た。その間、追撃は一切なかった。

 理由は簡単、奴にそんな余裕が無かったからだ。


「あんだけ大技連発すりゃ、限界は来るよな……。

 お前、もうそんなに魔力残ってないだろう」


 屍帝は玉座に座り、オレを睨んだ。


「全盛期と同じ感覚で技を使うからそうなるんだ。

 テメェは一度、あの封印で魔力をゼロまで減らされたはずだ。

――500人喰って得た魔力、しかしそのほとんどは非魔術師。

 蓄えられた魔力は想像よりも少ない……」


 しかしゾッとする。

 奴の全盛期、魔力が無数にあった時代……手持ちのの質と量も今より遥かにやばかったのだろう。


 全盛期のコイツを倒せた爺さんもサーウルスとかいう奴も、バケモンだな。


「貴様など、十年前ならば小指すら動かさず吹き飛ばせたと言うのに……!」


「だろうな。お前は強い。

 多分、オレなんかじゃ戦う事すら恐れ多い次元の奴なんだろう。

――だがな、どんな相手だろうが条件さえ揃えば封じれる。

 それがオレだ、封印術師だ」


「なにを勝った気でいるのだ!?

 余の手駒、この魔術師8人を倒すすべが……貴様にはないだろうに!!!」


「……あるって言ったらどうする?」


「なに?」


 オレはポケットに指を突っ込む。


「文字通り、さ」


 オレは“死”と書かれた札を手に取る。

 それは、師より受け取った唯一の魔成物。


 爺さんが遺した、狂気の指輪――


「解封、

――“死神の宝珠オシリスオーブ”……!」



 ――――――――――

【あとがき】

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