第二十四話 カーズ&イグナシオ&フレデリカvsオロボス
蟻と象――とまでは言わない。
魔力を使える者と、そうでない者の差。
相手を馬から引きずり下ろし、首を絞めれば殺せる……
――弱者側はそう考えるだろう。
だが実際に騎兵と生身の人間が戦えば、ものの数秒で生身の人間は貫かれるか切り裂かれるか馬に蹴飛ばされて死ぬだろう。両者の実力差は結局のところ絶対なのだ。
花畑、
美しい花々が咲き誇る開けた空間でカーズ、イグナシオは悪魔馬(オロボス)と対峙する。
突きの一撃によって
「渾身の一撃だったんだがなぁ……!」
「傷はなくとも魔力は吸引できています! この調子でいきましょう!」
カーズ、イグナシオ、フレデリカと
――カーズたちは限界を迎えようとしていた。
カーズは左手を風魔術でズタズタにされ、今は右手一本で槍を構えている。イグナシオは
フレデリカは外傷こそ無いものの、息は上がり、魔力も底を尽きようとしていた。
「【お、おまえ、ら、――よよよよ、よわ、っちい、な……!】」
「二人共、さがってください!」
カーズとイグナシオは左右に別れる。
フレデリカは
「【し、ね――!】」
「“
炸裂する水と風。
バチン! と魔術が相殺したのを見計らって、カーズとイグナシオは攻撃を仕掛ける。
イグナシオの突きは
「ぐっ!?」
「野郎……!」
前衛二枚、後衛一枚。
魔術はフレデリカが処理し、あとはひたすらカーズとイグナシオが接近戦を仕掛ける。フレデリカと
カーズとイグナシオは同時に
「こりゃ負けるなぁ~!
俺達っ!」
カーズは笑う。
この流れ、徐々に追い詰められているのはカーズたちだ。
繰り返していけば限界が来るのは自分達だと、カーズは確信する。
「呑気に言ってる場合ですか……」
イグナシオの手は震えていた。
イグナシオは魔力こそ扱えないものの、剣の扱い、武術に関しては達人。否応にも、この戦いの行方が見えてしまっていた。
頭に浮かぶのは惨殺され、喰い散らかされる自分達の姿。
カーズは震えるイグナシオの手を見て、目を細める。
「イグなっちゃんよぉ。
賭けに出るしかないぜ、コイツは」
相殺しようと粒子を浮かべるフレデリカ。だがその行く手をカーズが腕で制す。
「カーズさん!? なにを!」
「フレデリカ、魔術はアイツに直接ぶち込んでくれ。
――次の奴の魔術攻撃は、俺様が受ける」
「アナタはバカですか!?
そんなことをすれば」
「体がバラバラになるかもな。
だがあくまで『かも』だ。
ならん可能性も幾分かあるよ!」
カーズが前に出る。
――一瞬、カーズは首を落とされたのかと錯覚した。
魔術を受けた首から下の感覚がなくなったのだ。カーズは視線を落とし、血を全身から滲みだしつつも、しっかりと繋がっている自分の五体を見て笑った。
「なあんだ。案外大したことねぇじゃんかよ……!」
カーズは感覚が戻ったところで地面に片膝をついて着地した。
常人なら絶叫する痛みを、カーズは容易く飲み込む。
「どうして、笑ってられるのですか?
いま、アナタは死にかけたんですよ?」
イグナシオが、片膝をつくカーズに問う。その声は恐怖に似た感情で震えていた。
「ひひっ、楽しいねぇ……! 冥土の淵が見えたぜ」
震えるイグナシオの肩を、カーズはポンと叩いた。
「楽しめよイグなっちゃん。こんな
「アナタは……」
カーズは立ち上がり、槍を構える。
イグナシオはカーズの背を目で追い、レイピアを天に向けながら瞼を閉じる。
震えは、止まった。
「――形は歪ですが、アナタの覚悟の方が上だったようですね。
ロッソの名に懸けて、ぼくも覚悟を決めましょう」
フレデリカが緑の粒子を放出した。
「いきますよ! 二人共!」
水の剣が放たれる。
しかし
イグナシオとカーズが歩を合わせ、左右から斬りかかる。
カーズは槍を薙いで使う。イグナシオは洗練されたレイピアの突きを繰り出す。どちらも
ガムシャラともとれる、二人の猛攻。
ただひたすらに斬り裂くだけ。刃を叩きつけ、叩きつけ、叩きつけ続ける。
「【い、だ、いぃぃぃ!!!?】」
血しぶきが上がる。強化の魔力を封印術で乱され、本当の意味で生身となった肌をイグナシオのレイピアが削ったのだ。
好機、カーズが前に出ようとすると緑の粒子が
「さがって……下がって! イグナシオ! カーズ!」
フレデリカが叫ぶ。
だがカーズとイグナシオ、二人の戦士はここを逃すと次はないと直感していた。
二閃。
槍とレイピアが
「ちっ……!」
「――――ッ!!?」
二人の心も肉体もまだもっている。
だが、武器が先に限界を迎えた。
完全な崩壊、レイピアも槍も、持つ場所がなくなるほどに砕け散った。シールの描いた字印も砕け散った。カウンター、
二人の手元に武器はない。
――ならば、拳を握れ。
二人は同時に同じ思考に至り、カーズは右こぶしを、イグナシオは左こぶしを握った。だが、
――無慈悲な突風が、二人を吹き飛ばした。
---
カーズとイグナシオは
花畑を転がり、両者共に気を失う。
残されたフレデリカは魔力を練りながら、ガタガタと歯を震わせていた。
「うそ……! うそっ!?」
「【ひ、ひひっ!
お、おおお、おわり。おま、え、おまえ、らの――ま、け】」
力無く、フレデリカは地面に尻もちを付く。
頭に降りかかる絶望。
ヨタヨタと近づいてくる死。
なけなしの魔力をかき集める。次の一撃はフレデリカの方が早く作れる。だが、あと一発魔術を当てたところで
フレデリカは視界を遮断し、顔を伏せた。
――“終わった”。
フレデリカはその時、絶望の淵で、確かに聞いた。
ずし、と花を踏みつける――人間の足音を。
「……。」
「……。」
血まみれで、目は虚ろ。
だがカーズとイグナシオは立ち上がった。
フレデリカは瞼を開き、二人の姿を見て歓喜する。
「よかった! ふたりと――も?」
二人は
武器は無い。手にはなにも持っていない。
なのにカーズは槍を構え、イグナシオはレイピアを構えた。
態勢だけだ。体が覚えている動きを自然と行い、
(意識が、ない――……)
フレデリカは再び希望を消そうとするが、二人の目を見て考え直す。
カーズもイグナシオも意識がない。だが確かに、
――最後の魔力。
それをどう使うか、フレデリカは決断する。
「“水の
いつかギルドの仲間に習った詠唱術を、思い出しながら口にする。
「――“
渦巻く水のレイピアがイグナシオの手に、渦巻く氷の槍がカーズの手に形成される。
そこでようやく、
「【オ、ま、え、ら――!】」
――ほんの一滴。
死地の中で、芽生えた黒き雫。
カーズ、イグナシオの内に眠る副源四色、その色が……氷水の武器の先に灯される。
その魔力は、触れるモノを塵と化す。
水の剣、氷の槍。二つの突きは
「【い、がっ――!!?】」
漆黒の突きが、
フレデリカは目の前で起きた出来事を理解するのに、数秒の時を要した。
「黒魔……破壊の魔力ッ!!」
通常、魔力操作は主源三色→副源四色の順番で覚える。
単純に難易度の問題だ。副源四色の操作は主源三色に比べて遥かに難しい。特に黒魔力はその凶暴な性質から難易度は跳ね上がる。非魔術師が決して扱えるようなものではない。
だが二人はそんな常識を打ち破った。敵を壊し、殺したい。その感情に対応する魔力を死の淵で感覚的に引き出したのだ。
カーズとイグナシオ、両者ともに紛れもない魔術の天才だったからこそ、できた芸当である。
フレデリカはそのことを理解していた。
「すごい……この二人、魔術を学んだらとんでもない傑物になるっ!」
頭を貫いたのは水のレイピア。
心臓を貫いたのは氷の槍。
「やった? ――勝った!!!」
フレデリカがカーズとイグナシオの元へ走る。
だがフレデリカが到着する前に二人は後頭部から後ろに倒れた。
「カーズ! イグナシオ!」
フレデリカは「どうしよう、どうしよう!」とあたふたし、自分の副源四色を思い出す。
白魔――再生の魔力。
「回復術は苦手だけど、言ってる場合じゃない!」
フレデリカは拙い手つきで白の魔力を二人に灯していく。
――
――――――――――
【あとがき】
『面白い!』
『続きが気になる!』
と少しでも思われましたら、ページ下部にある『★で称える』より★を頂けると嬉しいです!
皆様からの応援がモチベーションになります。
何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!
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