第十六話 シーダスト島

 さて、まずいことになった。

 完全にミスった。


 〈シーダスト島〉。

 又の名を、“海の藻屑島”。


 この島の魔物は繁殖速度が半端なく、一定期間ごとに大量発生する。

 ただ魔物は島から出ないからクスリにも毒にもならない島らしく、普段は放置しているらしい。だが最近になって人攫いが流行りだし、“もしかしたらシーダスト島の魔物が攫っているのでは?”と捜索隊を組むことになったそうだ。


 その捜索隊の船に、乗ってしまった。

 オレはトイレの個室でアシュが封印された札を持つ。

 トイレは穴が空いた木の板が置いてあるだけの簡素な物だ。糞尿はそのまま海へポイ式だ。


 さて、とりあえず事情をアシュに話さなくてはならない。オレは「解封」と唱え背中を向ける。


「ム」


 ぼん。と白煙が視界に入る。

 後ろに感じる気配、解封は成功したようだ。


「もう着いたの?

――ここ、トイレ?」


「ああ、まだ船の中のトイレだ。

 すまん、ちょっと面倒なことになった」


 オレはアシュに事情を説明する。

 アシュは表情一つ変えずに状況を飲み込んでくれた。


「うん、別にいいと思う」

「わりぃな。

 無駄に寄り道することになっちまったけど……」

「いいよ、人攫いは許せないから、わたしは賛成。

――お姉ちゃんは怒ると思うけど」


 ですよね。


「一応、一人分の船賃で乗って来てるから島に着くまでは札に入っていてくれ」

「わかった」

「島に着いたら人目の付かない場所で解封する」

「うん、わかった」


 オレは再びアシュを札に封印する。 



---



「随分長かったな。

 デカい方か?」

「下品ですよ!

 トイレについて尋ねるのはマナー違反です!」


 先ほどの真面目女子とカーズが甲板で待っていた。

 この二人、恐らくは非魔術師。魔力の圧を感じない。

 他の連中も同様だ。魔術師らしき人間の姿は見えない。


 本当にこんな非魔術師だらけの部隊で魔物を討伐できるのか心配になるな。

 〈ディストール〉から〈カラス港〉までの道中の魔物は弱かったし、あのレベルなら非魔術師でも倒せるか。


「それで、アンタは誰だ?」


 オレは青髪女子に目を合わせ、問いかける。

 青髪女子は煌びやかな長髪を揺らし、誇らしげに名乗りだす。


「ぼくはイグナシオ=ロッソ!

 誇り高きロッソ家の騎士です!」


 男みたいな名前だ。

 誇り高き~とか言ってるから貴族の家だろうか?


「オレはシール=ゼッタ。

 よろしく」

「俺はカーズ=ガルシオンだ。

 よろしくな、イグナ」

「略さないでくださいっ!」

「じゃあ、イグナっちゃん」

「変な語尾付けないでください! イグナシオと呼べばいいでしょう!」

「嫌だよ、なげぇし」

「“イグナっちゃん”も同じくらい長いでしょう!」


 イグナシオ=ロッソ。腰に据えてるのはレイピアか?

 突きに特化した剣だ、文献では見たことあるが実物は初めて見た。


「二人共、魔物討伐の経験はあるのか?」


「おいおい、どうやってここまで来たと思ってるんだ?」

「〈カラス港〉に来るまでに何体か倒してきました!」

「そんな華奢な体で、本当に魔物倒せたのかよ」

「こう見えてあなたより強いですよ。ガキ大将のカーズさん」

「へぇ、言うじゃねぇの」


 あらら、仲の悪い。

 でもこういう奴らに限って、ちょっと時間が経つとくっついたりするんだよなー。


「シール、提案があるんだが」

「なんだ?」

「俺とチームを組んで魔物を狩らないか?

 オレの狙いは魔物の素材だからな。売っぱらって旅の資金にするんだ。

 一人より二人の方が効率が良い」


 魔物の素材を売って資金集めか。

 それ自体は悪くないな。だが――


「断る。

 ちょい事情があってな」


「そうかい。

 そりゃ残念」


 島に降りたらアシュもしくはシュラの力を借りる。戦力は十分だ。

 非魔術師と組めば最悪足手まといになるし、手を組む必要性はまったくないな。


「さっそく徒党を組もうとするとは、

 さすがはガキ大将ですね。一人じゃなにもできない」

「おぉっと、すげぇ喧嘩売って来るな。

 島に降りたら後ろに気をつけろよ。隙見せたら犯してやる」

「おかっ……!?

 あ、あなたほど下品な人は見たことがありません!」

「上品になりゃ強くなれるなら、喜んで品のある人間になるさ。

 礼儀やマナーなんてクソの役にも立たねえ。

 人間に必要なのは流儀と矜持だぜ、お嬢さん」


 やばい、また喧嘩になる。というところで、青の景色に緑が浮かんだ。

 島だ。

 思っていたより大きい。街一つ分はある樹海島だ。


『着いたぞ!

 さぁ降りた降りたぁ!』


 

---



 オレ達は砂浜の上に降ろされた。背後には乗って来た船が浮かんでいる。

 砂浜に並び立つ面々は見た目だけならインパクト抜群だ。どいつもこいつもオレより一回り二回り体が大きい。男女比は9:1ってとこかな。5、6人女性の姿は見える。総勢は50数名だろう。


 この捜索隊のリーダー、船長の男は船からオレ達を見下ろし、声を大きく発する。


「捜索は東と西、二手に別れて行う!

 両端から順に探していき、中央で落ち合うぞ!」


 人探しが目的の奴も居れば、〈マザーパンク〉に行くのが目的の奴も居る。そんで魔物の素材目当ての奴も居るのか。


 見渡してみるとちらほら萎んだバックを持った商人が居る。魔物を解体して〈マザーパンク〉で売っていくのだろう。


 捜索隊は人数が均等になるように東と西で別れた。オレは東側だ。


「まったく、面倒なことになったな……」


――『すみません……この子を見つけたら連絡を』


 カラス港に居た母親の姿を思い出し、オレは表情を引き締める。

 思わぬ展開だが、手を抜くわけにはいかないな。


「このカーズ様が一番多く魔物の首をあげてやる」


「ロッソの名に懸けて、行方不明者を探し出して見せます!」


 オレ達はスタートの合図を待つ。


「じゃあこれより、〈シーダスト島〉の捜索を始める!!!」


 一斉に動き出す猛者たちだったが……オレも含め、全員が一斉に足を止めた。


「――ッ!?」

「そんな……」


 背後で爆音が響いた。


 振り返るとそこには煙を上げ、炎に包まれながら沈没していく船の姿。

 一番初めに、退路が息を止めた。



――『寄り道はしないようにね。まっすぐ〈マザーパンク〉に向かうといい』



 あの音痴吟遊詩人、ソナタ=キャンベルの言葉を、なぜかオレは思い出す。



 ――――――――――

【あとがき】

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