第十五話 望まぬ航路
オレとシュラは飯屋を離れた後、手分けして〈マザーパンク〉行きの船を探した。
一時間後、飯屋の裏路地で待ち合わせる。オレは手持ち金を超えない額で乗せてくれる船を見つけられなかった。あとはシュラ次第だが……と思って、先に裏路地で待っていたらアシュの方が来た。途中で入れ替わったのだろう。
「お待たせ。
7番港で怖い顔の男の人が一人7000ouroで乗せてくれるって」
「助かった。オレの方は収穫ナシだ。
予定通り、お前を札に封印して荷物として運ぼう。
そうすればオレ一人分の船賃で済むからな」
「……封印するには、肌を直接殴らないといけなんだよね……」
アシュは眉を細めながら、服を捲り上げてへそを見せてくる。
「優しく、してね。
痛いの、嫌い」
なんだこの罪悪感は。
知らない奴が見たら絶対勘違いするぞ、この状況。
「確かに殴るのが手っ取り早いが、時間をかけて字印を書いてもいいんだよ。
あと字印を付ける場所は腹じゃなくていい!
腕を出してくれ、腕に書きこむから」
アシュはホッと胸を撫でおろした。
---
「えっと、7番港だよな……」
アシュを封印した後、オレはアシュの言っていた7番港、船着き場へ向かう。背中にはアシュが背負っていたバッグもある。
標識を1から順に追っていき、4、5、6と行ったところで7の数字が見えた。
7番港に停まっていたのはかなりの大型船、内装もそれなりだ。
これが本当にアシュの言ってた船か? と勘繰る。明らかに7000ouroクラスの船じゃ無い。
しかし、船の乗り場で待ち構えている厳ついあんちゃんを見て、これがアシュの言っていた船だと確信する。
「これ、〈マザーパンク〉行きの船か?」
「そうだ」
無愛想なあんちゃんがオレの体を観察し、「まぁいいか」と頷く。
なんだろう、品定めされた気分だ。
「数は?」
「一人だ」
「3000ouroになる」
「ありゃ、そんだけでいいのか?」
「そういう契約だからな」
アシュに聞いていた額の半分以下だ。ラッキー。
オレは財布袋からコインを取り出し、バンダナを巻いた船員に渡した。
しかしたった3000ouroで済むとはな。
これならアシュを素っ裸で札に封印することも無かった。いや、金が節約できるんだから、どっちみち封印していた方がお得か。
オレは雑に架かった木の橋を渡り、船に入る。
船にはダンスパーティーが開けるぐらいの大部屋があったが、そこはほとんど埋め尽くされていたため、甲板へ移動する。
潮風が心地よい。
船の先端から見えるのはひたすらの青。太陽の照り返し。
うぅむ、船旅か。船酔いとかするのだろうか、オレは。
「いやぁ、ちょっぴり緊張するねぇ」
軽快な男の声が背後から聞こえた。
振り返ると、着物を着た、燃え盛る真っ赤な長髪の男が立っていた。
「おたくも船旅は初めてかい?」
同世代、体格はオレより一回り大きい。
矛先を布で縛った槍を携えている。
コイツの顔、間違いない。
オレはこの男を知っている。
オレの居たあの街、ディストールで裏の連中を締め上げていた男だ。確か名前は……
「――カーズ……」
「ん、名乗ったっけ?」
この男、カーズとは面識はない。だが見たことがある。
一度コイツが喧嘩しているところに居合わせた。
相手は二十人も居たのに、コイツは無傷で殲滅した。
殴られても蹴られてもピクリともせず、相手をなぎ倒すさまにオレは心底ビビった。
「〈ディストール〉の有名人だからな」
「そっちはそっちで有名だぜ? 領主の息子を殴った大馬鹿」
あの話、オレの知らない内に結構広まってるのか。
「あれ以来、例のドラ息子はおとなしくなったらしいぞ。
もうちょい暴れてたら俺様が制裁してやったのにな」
「そりゃ、余計なことしちまったか――なっ!??」
――一閃。
鼻先を槍圧が掠め、呼吸が調律を乱した。
なんの脈絡もなく、話の途中で、赤毛の男は背中の槍で槍撃を繰り出して来た。
なんとか体を仰け反り、オレは槍を躱した。
「やっぱり躱すか」
「オイオイ、一体どういうつもりだ!」
オレは懐から“祓”の札を取り出す。
「俺様には夢があってね。
その夢に、お前が使えるか試させてもらいたい」
「お前さぁ、よく自分勝手だって言われないか?」
「悪い悪い。器用なことは昔から苦手でな。
お前、この前――茶髪のガキと戦ったろ?」
コイツ、
前のシュラとの戦いを見てたのか。
「ビックリしたね。
お前らの戦いは俺様の理解を超えていた」
「それで?
自分より強い奴が居るのが許せないって感じか?」
「言ったろ俺の夢にお前が使えるか試したいと。
あの時は俺も時間がなかったから試せなかったが、今は時間がある。
一つ、手合わせを願いたい」
昔見たカーズは異常な強さを誇っていた。
だがそれは二年前のオレの感想だ。
今の一撃も、シュラの攻撃に比べたら取るに足らない。
「お前、魔力は使えるのか?」
「いんや、使えないぜ」
こりゃ、戦えばほぼ間違いなくオレが勝つ。
仕方ない、暇つぶしに手合わせしてやるか……。
「いいぜ。かかってこい」
「そうこなくっちゃな!」
同時に地面を蹴る。その瞬間に、
「コラぁ! やめなさい!」
女性の怒号。
オレとカーズは動きを止め、声の方を見る。
ロングスカートに上はワイシャツ。
いかにも真面目そうな青髪ロングの女子が立っていた。
「あなたたち! こんなところで喧嘩して海にでも落っこちたらどうするつもりですか!」
ピッ、と人差し指を出す。
オレとカーズは互いに“知り合いか?”という視線をぶつけ、すぐさまどっちの知り合いでもないことを理解する。
「お嬢さん、乗る船を間違えてないか?
この船は〈シーダスト
「〈シーダスト島〉?」
なんだ? 〈シーダスト島〉って……。
「間違えてません!
ぼくも行方不明者捜索に参加する身ですから!」
「捜索!?」
オレは札をしまい、辺りを見渡す。
船に乗ってるのは全て武装をした者達。物騒な雰囲気だ。
「待て待て!
これは〈マザーパンク〉行きの船だろ!」
「そりゃ報酬だろ?
捜索に協力したら本来〈マザーパンク〉まで10000ouroかかる船賃を3000ouroでいいってな」
なんだと……。
道理で船賃が安いはずだ。
「乗り間違え……? 確かにアシュは7番港に停まってるって……」
「もしかして、運航図表(ダイヤグラム)を間違えたのでは?
確か一時間後に〈マザーパンク〉行きの通常便が出るはずですよ」
だ、だだだダイヤグラムッ!
しまった! 〈ディストール〉から一歩も出てこなかった弊害がここで来たか!
船に慣れてないゆえの痛恨のミス! つーかアシュの奴、時間も一緒に言っといてくれよ!
「やべぇ! やっぱオレ降り――」
『出航~~!!!』
船長の合図で船が動き出す。
望まぬ航路にオレは身を投じることになった。
――――――――――
【あとがき】
『面白い!』
『続きが気になる!』
と少しでも思われましたら、ページ下部にある『★で称える』より★を頂けると嬉しいです!
皆様からの応援がモチベーションになります。
何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!
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