ふたつの魂が交わるとき

夏乃夜道

第1話 プロローグ

 かすむ視界の先に、あまりにも巨大な影が立っていた。

 ただ大きいという意味ではない。

 偉大にして畏怖すべき存在という意味の巨大さだった。

 僕は壁を背にして座っている。倒れているといったほうが正確かもしれない。

 辺りには夥しいまでの死体で埋めつくされていた。多くの者が鎧を身に付けていたが、なかには鋼鉄のはずの鎧が砕かれ、溶けているものがある。

 いつの間にか、近くに寄り添っている者があった。動かない体で視線だけを向けると、よく知っている顔だった。……一瞬、名前が出てこない。

 自分の副官としてついてきた男だ、それは覚えている。

 彼は何かをいっていた。叫んでいる。同じ言葉を繰り返していた。

「………………」

 僕はそれに応えようとして、意識を失った。

 どれだけの時間が経っただろう。

 気づくと、僕は立っていた。

 足元には巨大な影が、そびえていたはずの相手が横たわっている。

 いったい何があったのだろう。僕は涙を流しながら、これを見下ろしていた。

 周囲からは、ひっきりなしに歓声が揚がっていた。

 世界を滅ぼそうとした存在、それを倒したのだから当然だった。

(じゃあ、僕はいったい何を泣いているんだろう?)

 その理由が思い出せない。

(そもそも僕は、一体どうやってこの強大な敵を『破壊神』を倒したのだろう?)

 その方法が思い出せない。

 目の前に、白い壁のような空間が広がっていた。

 僕はそちらに向かい、まっすぐ足を前に出す。

「……さよならです、ロレンさま――」

 すぐ後ろから声が聞こえた。それが、僕が最後に耳にした言葉だった。

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