第8話

 移動と言っても人間族の領地。ただの農村を走っていくだけだ。魔族が現れるといったことはなく、順調にアメシスト王国の方へと向かって行った。


「もう一度確認するが、アメシスト王国で降りた後、俺と優香はそのままダイヤモンド帝国に行く馬車を探してダイヤモンド帝国に行く。晴人と夏帆はアメシスト王国で情報収集を頼んだ」

「分かった」


 アメシスト王国からダイヤモンド帝国の帝都は千六百キロメートル近くある。だがそれはダイヤモンド帝国の帝都に行く場合で、ダイヤモンド帝国内ならばその距離はグッと短くなる。大体九百キロメートルくらいだ。馬車は一日五十キロくらいしか進まない。これでは十八日もかかってしまう。


「馬車だと結構かかるよな。ダイヤモンド帝国の帝都」

「ダイヤモンド帝国に行くには馬車でも一カ月以上はかかる。望みは薄いが、転移魔法を使える人間を探した方がいい」


 私たちが口々と言っていると、馬に乗っている人間が口を挟んだ。ダイヤモンド帝国に行ったことのある転移魔法を使える人間を探せと言うのだ。


「アメシストからダイヤモンド帝国に行くには山脈が邪魔をする。だから迂回しなくてはならない。ダイヤモンド帝国の植民地であるアクアマリンというところを通る」

「そうか、転移魔法は風属性の上級魔法。使えるやつがギルドとかにはいるかもな」


 そうこうしているうちに、アメシスト王国の国境に設置された門が現れた。門の両脇には国境警備隊のような者が立っている。


「行先は?」

「王都だ」


 馬に乗った人間は馬から降りると、国境警備隊からの質問に答えている。荷物を調べられたりするのだろうかとそわそわしていたが、そのようなことはなく、スムーズに通ることが出来た。


「王都はもうすぐだ」

「ありがとうございます」


 すぐという言葉は正しく。小一時間経ったところで農村を抜け、城が遠目に見えた。アメシスト王国東部に位置する王都は、ガーネット王国と比べると小さく、店構えも煌びやかな装飾の無いただの店に見える。


「ここまでだ」


 私たちは改めてお礼をすると、馬車から降りる。長かった馬車での移動も終わり、皆でとりあえず昼ご飯を食べようという話に行きついた。


「保存食ばかりだったからね」


 居酒屋らしき店に私たちが入ると、店には人一人いなかった。店先にはしっかりとOPENの文字が書かれていたし、太陽の位置からしても昼ごはんの時間だとは思うのだが、人気のない店だったのだろうか。


「注文が決まり次第、声かけて」


 奥のテーブル席に座ると、店員が乱雑にメニュー表を置いた。ここの国の人間は紫色の髪をしているらしい。紫色を見るとどうしても四天王の一人を思い出してしまう。私が魔王だったころの四天王が今も四天王をしているのなら、交渉の余地があるだろう。


「アメシスト王国は内陸の国だから、野菜とか肉がメインなんだね」

「店なのに結構安いな」


 私はメニュー表を見ながら目を丸くする。ガーネット王国の店はどこも高級店が多く、貧富の差を目の当たりにした。


「そうなの?城でしか食べたことなかったから相場があまり分からないんだよね」

「私がガーネット王国で食べたチキンステーキは金貨二枚だった。だが、ここのチキンステーキは石貨五枚。安すぎる」

「石貨は確か木貨の十倍の価値だっけ?日本円で考えると木貨が一円玉、石貨が十円玉。金貨は一万円札だな」

「つまり五十円ってことね。ギルドの依頼で石貨は何枚かあるからそれで食べよ」


 夏帆はポケットから小さな巾着袋を出すと、数枚の石貨を出した。


「そういえば、言い忘れていたんだけど、木貨と石貨は国の間で換金システムが無いから、多分使えないよ。だから金貨で支払うしかないかも。金貨は換金システムが存在するから、別の国で使っても同じ価値で利用できるって本に書いてあったよ」


 私は、店では金貨を使うことになっていると思っていた為、入る前に止めなかったが、メニュー表にあるのはどれも石貨で買えるようなリーズナブルなものばかりだ。


「でも、それだとお釣りがかなりの量になるよね」

「うん」


 そんな話をしていると、メニュー表を渡した店員が話しかけてきた。


「別の国に来るのは初めてかい?」

「はい、ガーネット王国から来ました」

「ガーネットからか。それならこの町は見劣りするだろうね。ここ最近はダンジョンで多くの冒険者が死んだ影響で、皆怯えてしまった。この国の近くにあるダンジョンはダンジョンボス一体しかいないという話だけどね」

「町に人が少ないのもそれが原因ですか」

「ああ。今はダンジョンにいるとはいえ、ずっと留まるとは限らないしね」


 ダンジョンとは魔族が住み着く家のようなものだ。人間族が俗にいうダンジョンボスとは、謂わば家主のようなもので、無断で入り込んだ人間族に腹を立てているのだろう。本来なら攻撃しなければ向こうから襲うことは無いはずだが、家主を前にして魔法を放てばあちらも家を守るために攻撃するだろう。


「今日は初めてのようだし、代金は要らないよ。ここ最近はお客が減っているから、お客が来ただけで嬉しいよ」

「ありがとうございます」


 ご厚意に甘えて、私たちは好きな料理を頼み、温かいご飯に在りつく。


「美味しい!」


 正直この世界に来てからようやく美味しいと思えるものに出会えた気がする。ご飯をものの数分で平らげ、私たちは店を後にした。ダンジョンボスの話を聞いて、三人は、少しテンションが上がっている様だ。


「どれくらい強いんだろうね?ダンジョンボス」

「とりあえず、ギルドに行ってみるか。転移魔法を使える人物も探さないといけないし、情報収集もギルドが最適だろう?」


 多くの冒険者を葬る力を持つダンジョンボス。四天王の可能性も考えられる。聖剣がもし四つに分裂しているなら、四天王がいる場所に何か手がかりがあるかもしれない。私が魔王の頃はそのような話は聞いたことが無いし、見たこともないが、四天王を倒すことで手に入れられるとすれば、私が知らないことにも納得がいく。しかし、先代の勇者たちは、四天王を殺してはいない。正確に言えば、殺される前に四天王側が逃げたのだ。勇者が勝ったといえば勝っている。


「ここがギルドか」


 冒険者カードは万国共通。ギルドシステムも同じようで、依頼書が難易度順に貼られている。ギルドには数人の冒険者がいたが、皆どこか疲弊している。


「Sランク依頼。ダンジョンボス討伐だって」


 晴人がダンジョンボス討伐の依頼書を見るなり目を輝かせる。敵が強ければ強いほど楽しいと言っていたし、今までの敵よりも確実に強い敵だ。


「Sランクなんて無理だよ……」

「俺らはこれ以上の強い敵を相手にする。倒せないとダメなんだよ」

「やめときな。そのダンジョンボスは、龍族だ。俺はギリギリ逃げられたが、挑戦した冒険者はほとんど死んでいる」


 Sランク依頼書を囲んでいた私達の後ろから声が聞こえた。その男は片足が無く、頭には包帯が巻かれている。


「龍族……確か知能が高く、ドラゴン族と共に高火力を誇る最強の魔族か」

「ドラゴン族と龍族は同じじゃないの?」

「ドラゴンは翼があるが、龍は翼が無い。どちらも飛行はしているがな」


 忠告をした男はそう言い残して、その場を離れた。龍族がダンジョンボス。間違いなく四天王クラスがいるとみて間違いない。


 龍族の中でも紫龍と呼ばれる種は代々魔王に仕えている。私の時にもお茶目だが話が分かる紫龍がいた。大体のことは察してくれ、芯は強く、言いつけはしっかり守る、何より周りが明るくなる。いい奴だった。人を襲うようなタイプではないが、何かあったのかもしれない。


「予定変更だ。このダンジョンボスをやろう。俺らの力試しにも丁度良さそうだし、もし死にそうになったら転移魔法を使えばいい」

「確かにそうだね。四天王だとしたら倒せないと魔王なんてやれないしね」


 将吾は依頼書を壁から剥がすと、私たちの名前を書いていった。


「この依頼受けます」

「気を付けてくださいね。あくまでも自己責任ですよ」

「分かっています」


 どうやらこの依頼は報酬金が高く、興味半分でやる人間が最初は多かったらしい。しかし、そのほとんどは生きて帰ってこなかったという。


「装備とか大丈夫か?夏帆、優香」

「明日にしない?今日はもう日が傾いているし」

「そうだな。依頼の期限は無いみたいだし、今日は宿に下宿して、明日に備えるか」


 夏帆のおかげですぐに出発とはならなかった。私たちは、ギルドで各々別れていく。将吾と晴人はギルドで簡単な依頼を受け、この国の通貨を稼ぐらしい。夏帆はこの国の図書館に行ってみると言っていた。私は王都の店でも巡ることにした。


 もし、ダンジョンボスが私の知っている紫龍だった場合、交渉をすれば、今の魔王の状況が掴める可能性がある。他人の家に入るときには手土産があるといいだろう。



「優香、同じ部屋でごめんね」

「大丈夫。男女で部屋を分けるのは当然でしょ、夏帆」


 その日の夜。王都にある下宿で私たちはダブルベッドの部屋を二つ借りた。お金は将吾と晴人が稼いだお金だが。


「それより、図書館で何かいい魔法はあったの?」

「ううん。だから、私の適正がある水属性魔法を少し覚えてきたところ」

「そっか」

「優香は、何してたの?」

「王都を見てた」


 購入した物は既にマジックバッグに入れている。私は、まず露天商に金貨を一枚渡し、この国の貨幣と交換してもらった。レートは一対一ではないが、この国の通貨を得ることが出来ればいいのだから躊躇いは無かった。


「明日、ダンジョンボスに挑むんだよね……。大丈夫かな」

「大丈夫だよ。龍族は硬い鱗が特徴的だけど、神話級の魔法ならその鱗も貫通する」

「そうなんだ。だったら大丈夫だね。晴人が火と土属性マスターしているみたいだし、私も少しは使えるから」


 確かに龍族は硬い鱗が特徴的で、普通の人間族の上級魔法くらいならノーダメージだ。但し、勇者のような規格外のパワーの魔法を打たれればノーダメージで済むわけがない。私が知っている紫龍は勇者に瞬殺されそうだったと泣いていた。いや、私に仕えていた四天王は口々に勇者には歯が立たなかったと言っていたっけ。攻撃をする隙すら与えず、勝てるビジョンが見えなかったと。


 翌日。ギルドにある転移魔法の道具で魔族領に転移すると、ダンジョンの場所が示された地図通りに歩いていく。私は将吾が探索魔法を使う前に、探索魔法を展開し、魔族と思われるものには全て隠密魔法を掛けた。そして、私達の半径数十メートルの範囲に生物を除ける効果がある魔法を掛けた。これで出くわす心配はないだろう。


「全然魔族いないね」

「ダンジョンボスの力が偉大なんじゃないか?ダンジョンにはボスしかいないって言っていたし」


 目的の場所に着くと、紫の鉱石で作られた門のようなものが見える。その門の奥には洞窟らしきものが見える。


「これがダンジョンか」

「ワクワクするね」


 男子二人は先導するように門をくぐり、洞窟へと入っていった。その後を追うように夏帆も中へ入っていく。私は門をくぐる前にお邪魔しますと小さな声でつぶやいた。アポ無しの突撃。普通に考えれば無礼講にも程がある。


 洞窟の先を少し進んでいくと、地下へと続く階段が見えた。どうやらダンジョンボスは地下にいるようだ。


「結構深いな、このダンジョン」

「でも魔族がいないっていう情報は本当だったね、魔力は温存しておきたいし」

「少し気味が悪いけどね。ここまでの道のりで魔族に出会ってないのは」


 数分は歩いただろうか、下から明るい光を感じると、夏帆の光が無くても周りが見えるくらいは明るい場所へと出た。


「ドアがあるな、この先にいるってことかな」

「多分そうだろうね」

「ノックしておかない?」


 私は、ドアを開けようとしていた将吾に言った。ダンジョンは魔族の家。家に入るときにいきなり開くのはマズいだろう。


「ジョークでこの場を和ませようとしているのか。緊張していないと言えばウソになるからな」


 将吾は少し笑うと、私が言ったように、ノックをした。ジョークではないが、結果的にノックをさせたのは大きい。これですぐに襲ってくることは無いだろう。私が知る限りの魔族ならばの話だが。


「おお、凄い広いな」


 天井はかなり高く、明るい空間がドアの先には広がっていた。私たちが中に入ると、扉は自動的に閉まり、奥に座っている龍が視界に入ってくる。紫色の体、間違いなく紫龍である。私の知っている紫龍ならば、すぐに襲うことはない……はずだ。


「おお、大きい」

「お主は、他の人間族とは違うようじゃな」


 龍を眼前にして二人が呆然としていると龍が人語を話した。龍は知能が高い。このような芸当は驚く事ではない。その龍は私たちを見つめながらさらに言葉を紡ぐ。


「ちゃんと門から見ていたぞ。礼儀の正しい人間族じゃと思っていた」


 龍は、そう言って私たちの方へと歩み寄る。


「惑わされるな、近づいて一気に攻撃するつもりだ!」


 将吾と晴人は思いっきり火属性の魔法を放った。


「危ないのぉ。我は、お前と話しているのでない。奥で立っているお主と話しているのだ」


 私の方を見つめながらそう言った。門の所から見ていたという話で大体は察したが、話を聞いてくれるのは私だけのようだ。やはり魔族の家であるダンジョンに入るなら、礼儀正しくないとな。


「その前に、手土産もありますよ」


 私はリュックから昨日買ったチョコチップクッキーを取り出す。マジックバッグを使っているところを見られるとマズいので朝にリュックに入れておいたのだ。


「おぉ、気が利くのぉ。チョコチップクッキー大好きなのじゃ。よく我の好みを知っていたのぉ」


 私の知っている紫龍のようだ。私の知っている紫龍はチョコチップクッキーが大好物であった。正直、八十年も会っていなければ見た目が少し変わっているのは織り込み済みだ。それならば好物を渡した時の反応を見ればよい。二百年以上好いていたものだ、変わるとは考えにくい。


「この姿じゃちと面倒じゃな」


 そういって龍は女の子へと変化した。成り代わりというものだ。これはいわゆる魔道具を用いた魔法のようで、首からぶら下げているネックレスが成り代わりをさせているものらしい。


「おお、これは美味しい。ありがとうな、お主の名前は?」

「優香。あなたは四天王で間違いない?」

「四天王か、懐かしい響きじゃ。我はもう四天王ではない。我は、逃げたのじゃ。今の魔王の政策が嫌いでな。こんなこと人間族に話しても関係ないと思うのじゃが」

「魔王!?」


 将吾たちはその言葉に反応した。今の魔王の政策。やはり、魔王によって魔族が人間族を襲うように仕向けていたのか。


「魔王はどこにいるんだよ」

「我は優香と話しておる。お主達は、我に殺意を向けておった。我がそんなものと話したいわけがないだろう」


 その時だった、火属性、神話級の魔法が後ろから撃たれていたのは。紫龍が隙を見せていたからだろう。晴人が撃ったものだった。私はギリギリで防御結界を紫龍に張る。間一髪といったところだ。


「そんなに戦いたいのか、我は、戦う意思はない」

「ちっ、防御結界か」


 いつの間にか、三人は結託して魔法をどんどん紫龍に向けて放っていた。戦う意思のない魔族。それでも魔族は魔族。元四天王だからと言って、今回依頼を受けた理由は実力を測るためでもあった。


「全属性無効にしてやがる、どんな高等な魔法を使ってるんだ」


 私は神話級でもある防御結界を何重にも張り巡らせる。勇者の才があるから無詠唱でも魔法を使えるのはありがたい。


「この魔法……!ならば、我が相手をしてやろう。我は紫龍。悪いが我は今の魔王よりも強い」


 紫龍は、私に背を向けて龍へと変化した。どうやら私の魔法に気づいたようだった。簡単に防御結界と言っているが、防御結界はほとんどの場合魔力を浪費するだけの使えない魔法だ。この世界では守りよりも攻めの方が大事だ。攻撃は最大の防御。わざわざ守りながら戦うなどせずに、相手が攻撃する前に攻撃すればいい話だ。


「神話級魔法が弾かれてる。こんな防御結界見たことない。防御結界って、確か神話級でも上級魔法までしか防げないんじゃないの?」

「それはただの防御結界じゃ。ある神話級の防御結界は、自分が知っている魔法を全て弾くことが出来る。つまり勉強が大事ということじゃ」


 紫龍はそう豪語しながら、水属性の魔法で相手を牽制する。しかし、どちらかというと紫龍は押されているほうだ。いくらこの世界に来て日が浅いとはいえ、あの三人は紛れもない勇者である。魔力量もそこら辺の人間族とはけた違いだ。


「はぁ。また、負けてしまうのか。我は……」


 紫龍はか細い声でそう呟いた。その言葉は三人には聞こえていないようだ。


「待って、三人とも。確かに実力を測るのは大事だけど、紫龍は戦う意思はないって言ってるじゃん」

「じゃあなんで人を襲ったんだよ。挑んだ奴はほとんど死んだんだろ。優香はそれを野放しにするのか」

「何の事じゃ、我は殺しなどしておらぬ」


 紫龍は、攻撃をやめてそう言った。紫龍は嘘を言うような魔族ではない。少なくとも私の知っている紫龍ならば本当の話だ。だが、帰還してきたという冒険者の話では龍族が襲ってきたと言っていた。


「確かに人間族がよくここにきては魔法を放っていたが、皆魔力切れで逃げるように立ち去っていた。我は殺傷を好まぬ」

「将吾、晴人、悪い人じゃなさそうだよ」


 夏帆がそういうと、二人は魔法を止めた。完全に信頼しているわけではなさそうだが、かなり魔法を打っていたせいか魔力が減っているのが顔色から分かる。


「確かに、このまま魔法を放っても、無効化されるだけでジリ貧だ」

「正直、魔王もああいう防御結界を使うんだったら、対策を練る必要があるね。紫龍だっけ?どういう魔法を使ったのか教えてほしいな」


 紫龍は二人に怖れながらも人間の姿へと変えた。


「敵に簡単に手の内を明かすわけないじゃろ。この魔法は特別じゃ。お主らじゃ会得することは無理じゃ」


 そう言って紫龍はチョコチップクッキーを口に入れると、追い返すように手でしっしとやった。


「ギルドの討伐依頼どうしようか。核を回収しないと依頼達成にはならないよな」

「依頼達成をすれば、もうここに人間族は来ないじゃろ?この鱗を持っていくとよい。核じゃなくとも、信じてくれるはずじゃ」


 紫龍は将吾に二枚の鱗を渡した。ポケットから鱗を出してくるとは思わなかったが、生え変わりのタイミングで取れた鱗だろうか。


「お主達の魔法、凄かったのじゃ。正直、結界が無かったらきっと負けていたのじゃ」


 そう言って紫龍は私に近寄ると耳元でささやいた。


「今夜、ここに来てほしいのじゃ」


 紫龍は、私の正体に気づいたはずだ。チョコチップクッキーを渡したところや魔族への敵対心が無いこと、そして防御結界。あの結界は、そこら辺の結界とは性質から違う。普通、防御結界というのは魔法を使用したものの周りを守るものだ。しかし、私の防御結界は個人を指定して守っている。その為、どれだけ離れても防御結界が発動する。デメリットと言えば大人数を一気に守ることが出来ないことくらいだ。


「いやぁ、優香は凄いな。そういう文献があったのか?ノックをすべきみたいな」

「ううん。ダンジョンは魔族の家って聞いてたからなんとなくかな」

「でも、私達、優香のおかげでこうして戻ってこれた。今日はいっぱい魔法使って疲れちゃったな」

「ギルドには俺が報告しておくよ。今日は宿に戻った方がいい」

「そうだね、明日からは予定通り情報収集するよ」


 私たちは転移魔法でアメシスト王国へと戻ったのだった。その夜、夏帆はすぐに寝付いてしまい、私はそっとベッドから出て転移魔法を使う。


「待っておったぞ、昼間の……優香じゃな。我は誇り高き龍族の一種、紫龍のトップの娘じゃ。昼間は見事なものを見せてもらった。誰かから教わっていたのか?」

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