第6話 

「ガーネット王国中央冒険者ギルドです。冒険者登録ですね」

 

 私たちは四人で冒険者登録をした。冒険者証はこの世界での身分証としての役目がある。どこの国で発行しても共通の冒険者証として使うことができる為、持っていて損はない。


 また冒険者ギルドは国の情勢や思想などは反映されない。その為、変な貴族のしがらみや思惑も無いのだ。


 冒険者証を作るには、再度適性と魔力量を測定する必要がある。生まれ持った魔法の才能は絶対に変わることがない。しかし、偽造などを防ぐために再度測定しているのだという。私は魔法の適正と魔力量を偽造している。あの時は適当に皇女の後ろにいた召使を選んだが、ここで属性が変わってしまったりするとおかしな話になる。

 

 ギルドの職員がギルドの説明をしているうちに、私は急ぎギルドにいる人間を鑑定魔法で鑑定していく。まずは風属性魔法だ。魔力量は魔道具を付けたといえば幾らでも盛ることができる。風属性魔法は直接的な攻撃魔法が少ないが転移魔法や速度上昇バフなどレパートリーが多いことが魅力的だ。

 

「いないっ!?」

 

 私は少し声を荒げる。ギルドの職員が水晶玉を持って、机に置いた。私が測定するのは四人のうち一番最後。まだ時間はある。落ち着いて考えるのだ。二十三レベル程度なら幾らでも見つかるが、まさか風属性魔法を持っている人がいないとは思わなかった。

 

「どうしたの?優香」

「別に……」

 

 どうしたものか。水晶玉に1、2秒触れるだけの簡単な作業。私の番が回ってくるまで数分もかからないだろう。私は頭の中にある魔法知識の中から偽装できるものを探す。

 

「はぁ、ウルフの鳴き声で魔力量のデバフかけられてしまったぜ」

「それで魔力切れ起こしたのか」

 

 その時、ギルドに冒険者らしき姿が入ってきた。どうやら魔族の討伐をしていたらしい。デバフということは、魔力量が一時的に下げられてしまったということだ。私が勉強を欠かさなかったのはこういう時のためにある。普通デバフというのは相手に与えるものだが、自身を対象にすることもできる。さらに高度な魔法の中には属性を封印する魔法もある。

 

『火、土、水、光、闇属性封印。魔力量低下』

 

 頭の中でそう唱える。勇者の才が役に立っているようだ。封印魔法は強そうに見えるが、実際にはそこまで強くない。何故なら継続時間がとても短いからだ。私が知っている最上級の封印魔法ですら数秒しか封印できない。水晶玉に触れる時間は一秒もあれば測定可能だ。故にかなりギリギリの戦いである。

 

「風属性、23レベルですね」

「はい」

 

 正直、再測定というのは二度としたくない。疲れがどっと押し寄せてきた。無事に私たちは冒険者証を入手する。私は平凡的なステータスに調整したが、勇者として全く隠していない三人のステータスはギルド職員たちが驚いていた。勇者というのは伝説上の存在。それが常識らしい。確かに世界史でもほとんど勇者の出現はない。

 

「っ。」

 

 ギルドの職員がカードを作っている間、私たちはカウンターの前で待っていた。その時、微かに視線を感じたのであった。咄嗟に私はその視線を辿る。鑑定魔法に近い魔法を感じたのだが、気のせいだろうか。

 

「どうしたんだ?さっきから」

「いや、何でもない」 

 

 私が常時偽造していない理由は、鑑定魔法が闇属性で使える人間が少ないからだ。だが、もし鑑定魔法が使える人間がいれば、私が偽っていることがバレてしまう。将吾は闇属性が使えるが同じ勇者同士。バレたところでこの世界の普通を知らない。勇者の才とでも嘘をつけばなんとでもなる相手だ。


 ギルドの職員が冒険者証を四枚並べて私たちに渡した。冒険者はギルドに来た依頼を自由に受けることができる。依頼の難易度はギルドが精査し、SからFの難易度に分けられる。Sが最も難しい依頼で報酬金もそれなりに出る。逆にFの依頼は魔法がほとんど使えない者でもできるような依頼が多い。依頼中の怪我などは全て自己責任である。ギルドは紹介場のような場所なのだ。

 

 依頼書は、難易度ごとに壁に貼られており、受けたい依頼書を壁から剥がし、名前を書いて受付に渡すだけで依頼を受けたことになる。

 

「一番低い依頼はスライム三体討伐。木貨三枚」

「木貨って確か金貨の価値の一万分の一だよね」

「それくらい簡単な依頼ってことだろ。初陣にはちょうどいいかもしれないな」

 

 まずは初めての魔族討伐ということで簡単なものを殺すようだ。皆意外と乗り気で依頼書を眺めている。冒険者は好きな依頼を好きに受けることができる。上下関係もなく、いきなり難易度Aの依頼を受けることだってできるが、少しずつ難易度を上げていくのが定石だ。

 

「僕的には、簡単なものから受けるのがいいと思うから、将吾の意見に賛成。魔族の力量も分からないしね」

「じゃあ、これにしよう。夏帆、優香いいか?」

「うん。私はいいけど、優香は?」

 

 ギルドに来ている依頼は採取系の依頼と討伐系の依頼、そして人間族の手伝いなどだ。何でも屋というのは本当らしい。難易度Fは手伝い系が多い。掃除や魔法を教える人なんてのもある。学校がない分、魔法の習得は本を読んで独学になる。ただ、魔法を習得するためには魔法を理解すればいいため、極端な話、魔法を極めている者が教えることでも習得できる。

 

「うーん」

 

 スライムは核を壊すことで死ぬ。それ以外では死ぬことはない。

 

「まぁ、スライムは攻撃しないらしいよ」

 

 魔族を怖がっているように捉えたのか、晴人がスライムが攻撃しないという情報を出した。魔族に関しての知識はないと思っていたが、案外しっかり勉強していたようだ。敵を知ることは大事、ゲームでは常識だ。しかし攻撃しないとわかっている魔族を討伐する意味は私には分からない。害のない生物を魔族だからと殺す。酷い話である。

 

「とりあえず、これやろう」

 

 依頼書を壁から剥がし、名前を記入していく。魔族を殺す経験は確かに魔王を討伐することに必要かもしれない。いきなり初めての討伐が魔王というのはやりすぎである。だが、この三人は殺すということを軽い気持ちでやろうとしている。

 

「そういえば、依頼って一気に複数できるんだよね」

 

 EやDの難易度の依頼書が貼られた壁を晴人が見つめる。折角魔族が出る森に行くなら他の依頼も受けておこうという話だ。Eランクはビッグアントの討伐、Dランクはゴブリンの討伐でガーネット王国近くの魔族領の森で出る魔族は、スライム、ビッグアント、ゴブリンが殆どだという。

 

「へー、Aにもなるとキングベアーだってよ」

「体長五メートルを超える大きな魔獣か。将来的にはこういうのも軽々倒せるようにならないとダメなんだよな」

 

 報酬はAまで行くとかなりの額で金貨百枚が支払われるようだ。強い冒険者は富裕層にもなれるということだ。その分危険も付いてくるが。

 

「キングベアー、気になるかい?」

 

 私たちがキングベアーの依頼書を見ていると、後ろからガタイのいい人間が話しかけてきた。身長は二メートル近くある大男で、背筋が凍るほどの目つきでこちらを睨んでいた。明らかに纏っているオーラが普通ではない。咄嗟に私は後ろに半歩引いた。

 

「え、まぁはい」

 

 将吾は慄然としながらも、受け答えをする。晴人は足を震わせ、夏帆も後退りをしている。

 

「キングベアーは、魔力量五十レベル近くの人間が四人いてようやく倒せるくらいの高難易度依頼だ。もし遭遇してしまったら、背を向けてはならない。絶対に目を逸らすな。キングベアーの弱点は高火力の上級以上の火属性魔法で燃やした後に氷のように冷たい水属性魔法を打つことだ」

「へぇ、よく知っているんですね」

 

 大男は私の方を見てきた。私は鑑定魔法でこの大男を鑑定する。思った通り、この男は人間族では珍しい二つの属性適性を持っている。間違いなくこのギルドで最強の冒険者だ。

 

「冒険者が死ぬのはあまり見たくないからね。こうやって伝えようとしているのだが、なかなか難しくてな」

「おい、晴人。この冒険者、闇属性魔法と光属性魔法の適性がある。かなり珍しいんじゃねえか」


 将吾はなりふり構わず、相手を鑑定したようだ。勝手に盗み見ることは本来ならご法度である。見たとしても口に出さずにする。属性というのは簡単にオープンするものではない。


「そうなの?」

「ご名答。俺はロイって言うんだ。一応このギルドのマスターをやっている。君たちが勇者なら、きっと魔王も討伐できるだろう」

 

 ギルドマスターであるロイは冒険者を退いた後、このギルドのマスターとして新人冒険者達を育成することに尽力しているらしい。冒険者は最悪死に至る仕事だ。弱点や逃げる時のことなど新人冒険者に伝えているらしい。

 

「依頼書は受付に出してくれ。俺は受付じゃないからね」

「はい!」

 

 晴人達は難易度Dまでの依頼書を抱えて受付の方へと走っていった。

 

「急がなくてもいいのに」

 

 私は三人を追うように歩こうとすると、ギルドマスターに止められた。

 

「あの三人を頼んだよ。勇者様」

「大丈夫ですよ、あの三人なら」


 先ほどの鑑定魔法の気配はきっとこのギルドマスターだ。私の偽造を知っていても口に出さない所がギルドという場所を感じさせる。ギルドは思想などに染まらない分、様々なバックグラウンドを持っている人が訪れる。そこに干渉しないのが暗黙のルールというものだ。


 ギルドマスターに私はお辞儀をして三人の方へと向かった。受ける魔族討伐依頼は以下の三つだ。難易度が低い順に、スライム三体、ビッグアント五体、ゴブリン一体。色々な魔族を討伐して自分たちの力量を測るらしい。

 

「依頼、受け付けました。お気をつけて」

 

 私たちは依頼書を持って、ギルドに置かれた魔道具、転移魔法ゲートを潜る。これは、ガーネット王国と魔族領の境目に転移することができる魔道具だ。転移魔法の代替品ともいえる。

 

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