第7話 冒険者免許の試験
「それじゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
「お気をつけて」
以前から行っていた冒険者の免許を取得する為に、俺はこれから数日間ゲーテ村から離れ、ジオニクスの冒険者協会に行く。魔獣の死骸を解体して売りさばき、村の収益にするためにやるのだが……ゲーテ村からジオニクスまではそれなりの距離があるので面倒だ。しかし、これからのことを考えると冒険者の免許を持った人間は必ず必要になるので、俺が行くしかない。
本当は行商人が来た時にジオニクスまで乗せてもらおうかとも思ったんだが、次に来るのは1ヶ月以上先らしいので、今から歩いていくことにした。
ジオニクスは、ここら辺一帯の土地を領地としているジオトラス子爵が居を構えている町で、典型的な地方の町って感じの場所だ。ジオトラス子爵領の中でも中心地ということもあり、地方裁判所や冒険者協会なんかの主要施設もジオニクスに集まっている。最近は、このジオニクスに出ていく若者も多くて、田舎の村は閑散としている所も多いのだとか。そう考えると、ゲーテ村にはそれなりに人が住んでいるのだからまだ栄えている方か。
特に何事もなく、数日間歩き続けてジオニクスにやってきた俺は、真っ先に冒険者協会へ向かった。冒険者の免許を取得するには簡単な筆記試験と実技試験があり、合否の結果が出るのに1日かかるので、真っ先に終わらせておくべきだと思ったのだ。
町の中心近くにあった冒険者協会の建物に入ると、中には屈強な筋肉を晒している男や、如何にも魔法使いって感じの格好をしている女性などで賑わっていた。
ジオニクスは帝国の中でも比較的治安がいいと言われている町なので、こうして冒険者の数も多い。冒険者と聞くと、結構野蛮な人間たちだと思う人も一般人には多いらしいのだが、実際には免許が国家資格なだけあってそれなりに常識のある人間が多い。
「すいません」
「はい、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「免許を取りたくて」
「冒険者免許の取得ですね? では……今から15分後に筆記試験を受ける方が数人いるので、そちらで一緒に受けてもらうことになりますが、今からでよろしいですか?」
「あ、大丈夫です」
「はい、ではこちらに氏名と現在お住まいになっている町村のお名前をご記入してから、2階にある試験会場で待っていてください」
へー……冒険者協会は騎士の仕事で何度も来たことはあったけど、全然中身については知らなかったからなぁ……免許とかってこんな感じで取れるんだ。
促されるまま名前を記入して、受験番号を貰って2階に上がる。広めの試験会場には確かに数人の受験者が座っているのが見えたので、少し前の方の席に座る。
「なぁ」
「ん?」
筆記試験があることは知っていたので、普通に筆記用具は要していたのだが……少し離れた場所に座っていた男がいきなり隣にやってきて驚いてしまった。
「アンタ、何処から来たんだ?」
「……ゲーテ村」
「ゲーテ村……知らねぇな。まぁいいや」
いいのかよ。
「なんで冒険者の免許なんて取るんだ? やっぱり田舎の村から飛び出したくて?」
「いや、逆だな……ちょっと前まで帝都に住んでたんだけど、そこから田舎に戻ってきた。そしたら村の中に免許を持っている人がいなくて、魔獣の死骸を売れないから俺が取ることになった」
「帝都に住んでたのかっ!? すっげぇ金持ちじゃん!」
帝都に住んでいるってそのまま金持ちなのか?
「俺はヘリオスって言うんだ。よろしくな」
「お、おぉ……俺はアレイスターだ。何をよろしくするのか知らないけど、よろしく」
「何言ってんだよ。冒険者の同期なんてそういないんだぞ?」
まぁ、同期って言い方はどうかと思うけど、確かにそういう意味では俺たちの同期はこの部屋に座っている5人だけだからな。
「実は……お前が来るまで男一人だったから、ちょっと気まずかったんだよ」
知るか!
筆記試験は基本的なことだけだったので、騎士として働いていた過去があれば普通に解けるようなものばかりだった。まぁ、騎士やっている奴が冒険者の試験を落ちることはないと言われていたけど、まさかここまで簡単だとは。
「実技試験はある程度の魔法技術と武器を扱えるかの確認だけですので、この人数ならすぐにやってしまいましょう。筆記試験の採点はその間にやっておきますので」
「……実技、自信ある?」
「ないなら受けてない」
なんでヘリオスはちょっと自信無さそうなんだよ。
試験官に連れていかれた先には、屋内の訓練場らしき場所があった。広い空間の半面では若い男女が教官らしき人にしごかれているのが見えるので、多分魔獣を狩る為の特訓かなんかじゃないのかな。
「あちらは新人の冒険者の方々は、小型の魔獣と戦えるようにするための訓練ですね。免許を取った後は幾らでもできますので、自信がない人は是非」
俺には関係ない話だな。
試験官が運んできたのは、木で作られた中型魔獣の模型だった。こういうのって人型のものを相手に叩くもんだと思ってたんだけど、魔獣なんだ。
「よし、俺はやるぞ!」
ヘリオスは意気揚々と木剣を手にしながら木彫りの魔獣の前に立ち、掛け声を発しながら力いっぱい剣を叩きこんでいた。明らかに下手くそな振り方、そして手に痺れが来ているとわかる表情をしているのを見て、俺はちょっと頭を抱えそうになってしまった。
「……大丈夫そうですね!」
いいのか!?
冒険者の免許の試験、思ったより簡単そうだ。
「では、次はアレイスター・レックスさん」
「アレイスター・レックス?」
試験官さんが名前を言うと、俺の背後に立っていた女性が急に反応した。もしかして……騎士時代の俺のことを知っている人間だろうか。いや、今は試験中だからそんなこと気にする必要はないな。
手が痛いって顔をしているヘリオスから木剣を受け取り、俺は雑に木彫りの魔獣に向かって振り下ろす。小さな音と共に、魔獣の角部分を切断して、ちらりと試験官の方を見ると合格ですと言われたのでそのまま下がった。
「……貴方、少し後で付き合ってもらうわ」
「え」
俺と入れ替わりで試験を木剣を手にした女性から、急に顔を貸せって言われたんだが、やっぱり俺の過去を知っている人間ってことでいいんだよね?
うーん……だからあんまり町には近づきたくなかったんだけど、冒険者免許の為だから仕方ないよな。ヘリオスに押し付けて逃げられたり……できないよなぁ。
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