東のゴーレム、ヤン+ツンの妖精と気ままな旅に出る

真夜中のうま茶

第1話

 あらゆる物質は、2つの特性を持っている。

 物という側面、波という側面だ。


 小さな世界において、万物は、粒でもあり波でもある。波、つまり揺らぎがあらゆる現象を作り出す。そして揺らぎは人の意志にも影響される。


 だから人の想いは、ともすると破滅を招く。


 万物の揺らぎを操ることができるその世界では、すべてが、ゆらゆらと、ゆらゆらと、揺れ続けている。


 世界の臍。人が最初に生み出された場所がある。


 そこに1人の孤独な王がいた。王は、その星の全てを統べる能力を与えられていた。武力も知力も思うがままで、その星の全てはその王に従うことでありとあらゆる恩恵を受けることができた。


 最初、王は希望に満ちていた。


「世界は祝福されている」


 そうして星にいる全ての存在に知識や資源を与えた。

 そこには人がいた。王は意思疎通ができることを喜んだ。王は人に対して特にたくさんの恩恵を与えた。


 やがて人々は与えられたものに工夫を凝らし、さまざまな『もの』を新たに開発した。中には生物の生態系を変えてしまうようなものもあった。星そのものに影響を与えるものもあった。だが当時人々は、新たなものを生み出すと、ワクワクした瞳と共に、必ず王に報告した。

 王は人々の工夫を喜び、同時に悲しんだ。


「人々の工夫はいつか世界を滅ぼすのではないか…」


 人々は成長を止めなかった。さらなる進化を求めた。いくつかの危険な開発は、王自ら止めることもあった。だが人々は聞き入れなかった…。


 あるときから王は、とても気まぐれでわがままな王になった。

 気に入らないものがあると、


「もはや害にしかならん。消えてしまえ」


 と言ってすぐに、無慈悲に消してしまう。物だけでなく、生き物も、土地も、国も全て一瞬で無かったものにしてしまうのだ。王の力に人々は恐れた。


「王に逆らうと消されてしまう。王に逆らってはいけない…」


 同時に人々は、それでも進化を止めなかった。隠れて研究を行った。王を排除して自らが頂点に立つことすら画策し始めた。

 王はまた孤独になった。

 王いわく、


「万物には波がある。いつも揺れている。その揺れは星に有益でなければならぬ…」


 と1人で呟く。

 身勝手な進化は世界に綻びを生み、やがて世界を滅ぼすことになる。世界の全てを知る王は、おかしな波動にゆらめき始めた世界を憂う。


「もうすぐ、この世界は無くなってしまうだろう」


 その呟きは誰も理解できない。

 誰も一緒に悲しむことができない。


 もうすぐ世界は、王ですら抗えない、大いなる力で消されてしまうであろう。王は、そのことに危惧を抱き、憂いは日を追うごとに強くなっていく。


 孤独な王には、王自身が生み出した側近たちがいる。人に似せて作った4体のゴーレムたちだ。

 王は、王の住む宮殿の東、西、南、北に城を作り、それぞれにゴーレムたちを配置した。それらは、その星が産んだ精霊と呼ばれる高い周波数を持つ存在を宿していた。


 カタチは人に似せ、能力、性格は、王のものを分け与えたのである。


 東には東王、西には西王、南には南王、北には北王が座し、いつしかゴーレムたちは、王の全ての職務を任されるようになった。


 北王は諭す。

「人々の工夫はあらゆる可能性を秘めている」と…。


 南王は叫ぶ。

「人々の創り上げるものはやがて星を救うであろう」と…。


 西王は嘆く。

「人々から可能性を奪ってはならない」と…。


 東王は囁く。

「人々は感動を生み出すことができる稀有な存在だ」と…。


 それらを聞いても孤独な王は決して安心できなかった。

 やがて人々は、自分たちが住む地域から一番近いゴーレムたちに、それぞれの願い、要望を伝え、開発したものを報告する。人々はゴーレムにしか会わなくなり、孤独な王のことを少しずつ忘れていく。


 王の憂いは世界の憂い。

 だが、世界の憂いが人々に伝わることはなかった。


 ある時、東のゴーレム、東王は自問する。


「私は何のために人々の想いを汲み取っているのか…」「なぜ人々は争いを好むのか」「なぜ王は人々を諦めているのか」「なぜ人々の物語に王は触れようとしないのか…」


 その自問は疑念へと変わり、孤独な王に何度か問いかける。だが王からの答えはなかった。東王は他のゴーレムにも聞いてみる。皆、興味深く聞いてくれるが欲しい答えを持ち合わせていなかった。


 あるとき東王は奮起する。


「もっと世界を知ろう。そして私はもっと人々が知りたい」


 その想いは強く、東王は生み出されてから長い年月を過ごした東の城から出ていくことを決意した。だが孤独な王は、


「お前たちは心が汚れていない。外の世界で傷つくのはお前自身だ…」

「それも勉強だと思っています」

「私の側から離れてしまうと、お前は長く生きられない。それでも行くのか?」


 などと何度も引き留めた。


「王よ、お気遣いは感謝します。しかし、それでも私の気持ちは変わりません。私は人々をもっと知りたいのです」


 東王の決意はそう言って一歩も引かなかった。

 何度目かの交渉後、結局許しを得ることができなかった東王は、やがて秘密裏に孤独な王の元から去ることにした。


 東王であるゴーレムは、1人孤独に、世界を見て回ることになった。

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