第33話 余計なお節介
「あ、あの!」
後ろから女の声がした。聞き覚えのある声だ。振り返るとドーラがいた。ただでさえ小さい躰を丸めて俺を見上げてくる。
「あ……もしかしてまだ、話続いていましたか?」
「いや、もう終わったよ」ヘンリクが即答した。「俺はまだ動く。じゃあな」
結局、ヘンリクは警戒を促しにきただけか。去っていく背中は、確かに頼りがいがありそうな広さをしている。そんな感傷に浸りながら、ドーラが俺に用があるらしいことに疑問と気まずさを感じていた。
「レヴェンテさん、少しいいですか?」
なぜ俺に。ドーラと俺の関係なんて友達の友達、いや知り合いの知り合いぐらいだ。俺はドーラに用はないし、ドーラも俺に用があるとは思えない。
「そっちこそ良いの? こんなのだけど」
俺が周囲の視線を指差すと、ドーラは見向きもせずに頷いた。
「大丈夫です。どこかに行く途中ですよね? ご一緒します」
歩みを再開する。しかしどうにも居心地が悪い。
「イレーンさんのことです」
それはまあ、イレーン関連のことに決まっているか。俺が最後に見たイレーンとドーラの会話は、ザヒール派とセゲド派の決闘の後か。思い出すと無関係の俺ですら気が重くなる。
「私、イレーンさんと仲直りしたいんです」
「……したらいいんじゃない?」
ドーラの眉尻が下がった。
「会っても取り合ってくれないんです。最近は私に気付くとすぐに離れて行って……」
その光景が目に浮かぶ。あの時ですらドーラやヘンリクとの関係を断ったんだから、魔力暴走を起こした今はもっと頑なだろう。
「だからレヴェンテさんに協力してほしいんです。仲直り、いえ、そもそも直す仲なんてなかったかもしれないですけど、大貴族が相手だろうと皆の為に立ち上がったイレーンさんと、私は仲良くなりたいんです」
イレーンは悪い奴じゃない。むしろ事情を知っている俺からすれば良い奴だ。でも色々と積み重なった結果、取っつきにくい冷たい奴みたいになっている。だから一時的とはいえ、一緒に行動したドーラがイレーンと仲良くなりたいという気持ちは理解できる。
「でも俺が言っても同じだろ」
「レヴェンテさんとイレーンさんは仲良さそうに話してるじゃないですか」
どこが、とは思ったけど話が拗れそうだから黙っていた。
「だからそのレヴェンテさんが協力してくれれば、切っ掛けは作れると思うんです。全面協力してくださいとは言いません。せめてイレーンさんと話す機会を作ってくれませんか」
今のイレーンは、ある種の人間不信だ。
また魔力暴走を起こせば誰かが死ぬかもしれない。だから誰も近づけさせない。元々その思いはあったけど、俺のせいで被害が出てさらにそれが深まってしまった。
「今日の放課後で良いか」
ドーラの瞳が輝いた。
「はい!」
これは贖罪だ。
昔ならまだしも、今は俺がいる。魔力暴走は二度と起こさせない。だからイレーンの魔力暴走で犠牲になる奴は出ない。俺が絶対に出させない。だからイレーンが人間関係をきっぱり断ち切る必要はない。
放課後になって、俺はイレーンとドーラを最上階の空き教室に呼び出した。これで施錠すればしばらく二人は出られない。
「開けなさい!」
イレーンが何か言っているけど、俺は無視してその場を離れた。
俺にできることなんてこれぐらいだ。仲直りなんて何をどう手伝ったら良いか分からないし、そもそも人間関係に口を出せるような立派な経験は俺にはない。
「……同類なんだよなあ、結局」
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