第21話 作戦通り

 ガスパルの居場所を噂として流し、ザヒール兄弟の女の方──ザヒール・ギゼラが来る少し前に、セゲド派の講師を備品室の前に呼んでおく。


「何故ここに先生がいますの?」


 口調とは裏腹に、現れたギゼラには落ち着きがなかった。やけに備品室の扉を気にして躰のどこかを常に動かしている。反対に講師はわけもわからずギゼラとその取り巻きを見回していた。


「呼ばれただけだ。君には関係ない」


「関係あります。そこを通してください!」


 講師を押しのけ、備品室に入ろうとする。しかし開かない。中のガスパルが逃げないよう俺が施錠したから当然だ。ギゼラは何度か開けようとするも諦めて取り巻きを振り返った。


「開けて! 早く!」


 躰の大きな生徒たちが扉に群がった。力づくで鍵を壊し、いの一番にギゼラが突入する。


 悲鳴が上がった。


 手足を折られ、顔面が膨れ上がったガスパルを見た反応は、派閥争いしている奴とは思えないほど幼稚だった。にわかに辺りが慌ただしくなる。ギゼラの涙で濡れた目が、取り巻きと同じように動揺しているセゲド派の講師を捉えた。


「あなたはここで! 何をしていたんですの!?」


「よ、呼ばれたと言っただろう」


「誰に!?」


 講師の視線が彷徨う。そこに、偶然通りかかった風を装ったイレーンが登場する。これ幸いにと、講師はイレーンを指差した。


「彼女だ! 私は彼女に呼ばれたんだ!」


 血でも流してそうなギゼラの瞳がイレーンを捕まえた。


「そうなんですの!?」


「えっ……えっ?」


 わけがわからない、そんな様子でイレーンはなんとか声を出しながら当惑する。本当に当惑したのはセゲド派の講師の方だろう。すぐにハメられたと気付いてイレーンを睨んだ。


「えっ……そ、そうです。、私が呼びました……」


 お上手。これじゃ講師に脅されて無関係の気の弱い女生徒が巻き込まれた、そうとしか見えないだろう。実際ギゼラもそう考えたらしく、イレーンなんて無視してセゲド派の講師に食って掛かった。


「セゲド・イグナーツの命令ですか!?」


「いや、違──」

「──決闘です」


 火種はずっと存在していた


 そもそもザヒール派とセゲド派という派閥が存在している以上、いつぶつかってもおかしくなかった。それを免れていたのはひとえにセゲド・イグナーツが不干渉を貫いていたからだ。ザヒール派もザヒール派で危険を負ってやりやうのは避けたいから、争いは起きなかった


 それなら隙なんて作る必要はない。ちょっとしたきっかけがあれば十分だ。


 ザヒール派の人間が次々に闇討ちされる。その犯人がまさか自分たちがイジメている人間とは露ほども思わないだろう。犯人の一番手は勿論、自分たちに対抗できるセゲド派だ。不安に襲われているところに兄弟がズタボロにされ、そこには見張りのように立つセゲド派の講師がいる。


 こんなの開戦するしかないだろう。


「わたくしザヒール・ギゼラは、セゲド・イグナーツに決闘を申し込みます」

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