第5話 魔法適正検査

 リラさんの作ったご飯は、とても美味しそうな香りを漂わせていた。真っ白でふっくらとした米と、野生動物と思われる干し肉、焼き魚に山菜のスープと、とても豪華な食事だ。

「こんな豪華な食事、いただいていいんでしょうか」

「もちろんです。たくさん食べてくださいね」


 俺を含めて五人分ということもあり、テーブルいっぱいに料理が並んでいる。そのどれもがやさしい味で、バラリ村のスパイシーな料理とは違った美味しさで新鮮だった。

 驚いたのは、先ほど教わった魔法というものがかなり日常的に使われていることだ。ミルクをとったり、スープを取り分けたりする際にも動かす魔法が使われていた。手は汚れないしこぼす心配もないので便利なのだろう。


「ごちそうさまでした!」

 結局、米とスープを2杯ずつおかわりしてしまった俺は、ようやく我に返って食事を終えた。それほどまでにリラさんのご飯はおいしかった。

 食器などを片付け終わったところで、俺の魔法適正を調べることになった。

「まずは、魔力の流れを感じる訓練をしましょう。これは誰でもできるはずです」

「私がやる」

 そういってミラが手を挙げた。それを見たラオさんもうなずいてこちらを見る。

「ミラはうちで一番魔法が得意なんです。あとはこの子に従ってください」


 ラオさんがそう言うと、ミラは両手を差し出した。その手は先ほど腕相撲をした時のように淡く光っている。

「手、握って下さい」

 いわれるがままにミラの両手を握ると、その手から何かが流れ込んできた。なんだこれ。血液が流れているのと似た感覚だけど、何かが違う。

「今流してるのが魔力です。集中すれば自分の中で循環させられるはず」

 手を握ったまま俺は目を閉じ、全身を流れている魔力というものに神経を集中させる。手のひらから腕、肩、そして全身へと魔力が流れていくのを感じる。それに伴って、自分の体の内側からも魔力がこみあげてくるのを感じた。これが魔力か、不思議な感覚だ。

「いい感じです。じゃあ、逆に私の方に魔力を流してみて」

 俺は体に循環させた魔力を手に集めようとする。手の方に魔力が流れる様子をイメージすると、魔力がミラの方に流れていく感覚があった。するとミラが俺の手を放し、「よくできました」といった様子でほほ笑んだ。


「すごい…」

 初めての魔力に驚く俺に、ラオさんが手のひらほどの紙を持って近づいてきた。

「魔力をうまく感じられたようですね。それでは適性検査をしてみましょう」

「適性検査って、そうすればいいんですか」

 そう聞いた俺に、ラオさんは手に持っている紙をひらひらと見せる。

「この魔法紙を使います。今、ミラに魔力を流した要領でこの紙に魔法を流すと、適正によって様々に反応します。動かす魔法なら紙が浮き、強化する魔法は紙が光り、生み出す魔法は紙の量が増えるといった感じです」

 なるほど、便利な紙だな。そう思いつつ、緊張しながら体に魔力を循環させていく。それに注目する4人の視線を痛いほど感じる。

 手のひらに魔力を込め、魔法紙へと流すと、紙がほんの少しだけ浮いた。そして、すぐに落ちてしまった。俺、魔法適正がないのか。そんな考えが頭をよぎりかけた瞬間、魔法紙からすさまじい光が発せられた。思わず手を放し、まぶしさに目をつぶる。うっすらと目を開けると、ラオさん、リラさん、ライ、ミラの四人がおんなじ顔で驚いている。

 愕然としている四人の視線の先にある魔法紙を見ると、真夏の太陽のように光り輝いている。

「これは、強化する魔法の適性があるみたいですね」

「僕、魔法紙がこんなに光ってるの初めて見た!」

「私の時と全然違う」

「強化する魔法だけの適性なんて珍しいですね」

 一家四人が口々に感想を言っていく。どうやら俺は強化する魔法がかなり得意らしい。動かす魔法を使えないのは少し残念だが。

「強化する魔法は、使いこなせればとても便利な魔法です。この本によると、自身の体に加え、訓練次第で物や他人の事も強化できるようになるそうです」

 そういって、ラオさんは先ほどの本を差し出してきた。

「いつまでいるかはわかりませんが、この村にいる間はこの本を使って魔法の訓練をしていただいて構いません」

「私も一緒に練習したい」

 ミラも強化する魔法の練習をしたいようだ。もちろん俺としてはありがたい。


 魔法紙の光が収まってきたところで、俺はベガの存在を思い出した。結構長い時間ほったらかしにしてしまったみたいだし、ご飯も食べていないはずだ。リラさんに先ほどの食事の残りをいただき、外に出ると、ベガはふてくされた様子で玄関わきに寝そべっていた。

「ごめん、魔法について聞いてたらベガのこと忘れてた」

「急に部屋が光ったのでなんとなく予想してましたけど…、さすがにおなかがすきました。それ、もらってもいいですか?」

 ベガの前にご飯を差し出すと、ベガはそれを勢いよく食べ始めた。かなりおなかが空いていたようで、少し申し訳ない気持ちになる。

「おれ、強化する魔法の適性があるらしい。この村で少し練習していこうと思う」

「いいれふね、わらしのことも強化できるじゃないれふか」

 ベガは食べながら答える。やっぱりこいつ魔法のこと知ってたのかよ。

「なんで魔法のこと教えてくれなかったんだよ」

「きかれなかったので」

 まあ、ベガの背中に翼が出たり消えたりするのに疑問を持たなかった俺も悪い。今思えばあれも魔法だったんだな。

 そんなことを考えながらベガの食事姿を眺めていると、玄関からラオさんが出てきた。

「バックさん、私はウルフの件で気になることがあるので、少し村の周りを見てきます」

 そういってラオさんは魔力を体にまとい、宙に浮いて飛んで行った。ベガの速度にはかなわないものの、なかなかに早い。動かす魔法はあんな風にも使えるのか。


 

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