第4話 魔法…?なんだそれ
「じゃあ、バックさんは海に向かって旅をしているんですか?」
先ほど森で助けた兄妹のライとミラが、目をキラキラさせている。この様子だとだいぶ警戒心を解いてくれているようだ。
「そうだよ、知らない世界を見に行こうと思ってるんだ」
ベガはさっきから一言も話さない。人里にいる間は馬として扱っておいた方がよいのだろう。
「ここが村の入り口です!」
森を抜けたところには、害獣除けと思われる柵と大きな門があった。バラリ村のそれよりもいくらか大きいようだ。門の両端には物見用の柱が存在し、上には武器らしきものを持った男が立っている。
「ただいまー!」
ライが門の上の男に手を振る。その男は手を振り返しながら目を凝らしている。
「ライ、その男は誰だ?」
「森で助けてくれたバックさんだよ。な、ミラ」
ライが手をつないでいるミラを見る。ミラはライの方を向き、コクっとうなずいた。
「このあたりに人が来るなんて珍しいな、まぁ悪い奴じゃなさそうだし、入んな」
門がゆっくりと開き、村の中の様子が見える。家の数は少ないけれど、すごく広い村だ。村の中にも川が流れていて、その周りを田畑が囲んでいる。
ライとミラの家に案内されると、両親らしき人物が家の前で待っていた。二人と同じで金の髪色をしている。
「ライ、ミラ、遅いから心配したのよ」
「いったい何があったんだ」
少し後ろについてきた俺のことも気にしているようだ。というより、隣の大きな白馬に興味があるみたいだ。
ライが大筋の説明を終えた様子で、こっちを向いた。
「バックさん、こっち来て!」
ベガとともに近くに寄って、会釈をする。父親らしき男性が話し始める。
「子供たちを助けていただいたようで、ありがとうございます。二人の父親のラオです。こちらは妻のリラ」
隣の女性がお辞儀をする。緑色のワンピースを着たきれいな女性だ。当たり前だが家族全員顔が似ている。
「俺はバックです。この馬と一緒に海へ向かって旅をしているんです」
「とりあえず中に入って話しましょう。お礼もさせてください」
家の中で料理をふるまってもらえることになった。申し訳ないがベガには外で待っててもらうことにした。木材で作られた家の中には暖炉や本棚が並んでいて、とても居心地がよさそうだった。
母親のリラさんが料理を始めると、リビングに残された俺たちは先ほどの事件の話になった。ウルフの群れを見たことを伝えると、意外な答えが返ってきた。
「ウルフがこのあたりに来ることはめったにないはずだ。いったいどうして…」
「そうなんですね」
うちの村の周りにはウルフがたくさん暮らしていたし、食べてもいた。さっき解体して持ってくればよかったと思ってしまう。
「バックさんが来てくれて本当によかったよ。そうだ!あの時使ってた武器見せてよ」
ライは好奇心旺盛な子のようだ。断るわけにもいかないので、二丁の銃から弾薬を取り出して机に出す。それをみたラオさんも興味津々なようだ。
「これでウルフを?初めて見る武器ですね」
「はい、僕のいた村ではこれで野生の獣を狩っていました」
この村に銃がないのは意外だった。ウルフが来ることは少ないとはいえ、大きな獣などが来た時に対処する武器は必要だ。そうじゃなきゃ村の入り口に門番を置いたりしない。
「この村には武器はないんですか?」
ラオさんは俺の考えていることを瞬時に理解したようだった。
「危険な魔物が来たときは、魔法を使って追い払っています」
魔法…?なんだそれ。その単語自体、初めて聞いた。
「魔法って何ですか?」
そう聞くと、ラオさんは意外そうな顔をした。
「あれが魔法ですよ」
そういってキッチンの方を指すと、そこではリラさんの周りで数々の野菜が飛び交っていた。どうなってるんだあれ。俺は口を開けたまま呆然とその様子を見つめる。
どうやらこの村では魔法というものは常識らしい。愕然とする俺の様子を見たラオさんは少し悩むと、壁際にあった本棚から本を一冊とってきた。銃をしまって机のスペースを確保する。ライが少し残念そうな顔をするのが見えた。
「これは、海の方から来た商人に売ってもらった本なんですが」
その本を開くと、魔法についての基本的な説明が書いてあるようだった。その本に書いてある図を見せながらラオさんの説明が始まる。
「魔法には大きく分けて三種類あります。動かす魔法、強化する魔法、生み出す魔法ですね。この分類の外側に闇魔法と聖魔法というものもあるそうですが、これらを使える人間はほとんどいません」
「じゃあ、今リラさんが使っているのは動かす力ってことですか?」
「その通り、魔法は先ほど言った順番で習得できる人が少なく、この村では9割以上が動かす魔法を使えます。しかし、強化する魔法は3~4割、生み出す魔法は2、3人しか使えません」
九割以上が魔法を使えるとは驚きだった。ベガはこのことを知ってたのかな、教えてくれてもよかったのに。
「うちの一家は全員動かす魔法を使えて、強化する魔法は、ミラだけが使えます。ミラ、バックさんと腕相撲してみてくれるか?」
ラオさんの隣でおとなしくしていたミラは、コクっとうなずいて右手を差し出し、肘を机についた。その手は淡い光のようなものをまとっているようにも見える。恐る恐るその手を握る。腕相撲ならバラリ村の大人にも勝ったことがあるし、10歳かそこらのミラに負けるとは思えないけど。
「はじめ」とラオさんが言うと、ミラが怪我をしないように俺はゆっくり力を入れた。しかし、ミラの腕は一向に動く気配がない。石像の手を握っているみたいだ。驚いてミラの顔を見ると、ミラはニコッと笑い、手を動かした。抵抗しようとするけれど、その意思に反して俺の右手は傾いていき、あっという間にテーブルの上に右手の甲がついた。
「すごい」
ミラは得意げな顔をしている。これが強化する魔法か。
「バックさんにも使えるはず、私にも使えるんだもの」
ショックを受ける俺を励ますようにミラが声をかける。俺にも魔法が使えるってことか?
「確かに、魔法を知らなかったということは適正検査もしたことがないんですよね、その結果次第ではバックさんにも魔法が使えるはずです」
食事の後に魔法の適性を調べることを決めたところで、リラさんの料理が出来上がったようだ。よい香りの料理たちが、リラさんの魔法でふわふわと運ばれてくる。その光景は俺にとって非日常そのものだった。
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