第6話 憎悪
Anzuがスピファンから消え去ると4人は無言でLenの家に帰宅した。
Seito 「何でAIが人間を…プレイヤーを…」
Seika 「An…zuさん…うぐっ…うっ…」
Shin 「Anzu姉…」
リビングの椅子に座り涙を流す3人だがLenは無言のまま着席していた。
Len 「アイツを…絶対にアイツを探し出して殺してやる!」
威圧感のある声を出すLenはテーブルを叩き、鈍い音がリビングに響き渡る。涙を流す3人は音に驚くと、Lenの顔を恐る恐る見つめる。
Anzuの戦闘不能に悲しむどころか、鋭い目つきをするLenの顔は憎悪に満ちていた。
Shin 「兄ちゃん…」
Shinが声を掛けるがLenは聞く耳も持たずに席を立ち、よろけながら自室へと向かっていった。
―――【3日後】
Anzuが戦闘不能になってから3日が過ぎた。SeitoとSeikaはLenが住む家に訪れShinに招かれると椅子に座り窓から景色を眺める。
雨はポツポツと降り、まるで自分達の心情を風景に現したかのような景色だ。窓越しから見える景色を呆然としながら見つめていると紅茶の入ったカップが置かれた音が鳴り振り返る。
Seito 「Seika…。ありがとう」
Seika 「ううん。皆、辛いよね」
Seitoの対面にSeikaは座ると2人は無言で窓越しの景色を眺める。
Seito 「Lenさん。3日間も自室に引きこもったままらしいよ」
Seika 「うん…。Shinが何度もドアを叩いているけど何の反応も返ってこないって」
窓に雨がポツポツとぶつかる音が鳴る中、2人は呆然としていると背後から足音が聞こえ振り返る。
Shin 「Seito、Seika…」
眉尻を下げ静かに話すShinに2人は表情から察し肩を落とす。
Seito 「今日もLenさん出てこないのか?」
Shin 「うん…」
Seitoにそう答えるとShinは席に座る。
Seika 「ねぇ…Anzuさんの部屋ってあれから入ったっけ?」
Seito 「そういえば、見てないな」
Shin 「あぁ。そういえば、そうだね」
Anzuが戦闘不能となり心の整理がついていない3人はふと思い返す。
Seika 「ちょっと行ってみない?Lenさんが立ち直るきっかけが何かあるかも」
Seikaの意見に同調するように2人は頷き席から立ち上がりAnzuが寝起きしていた部屋へと向かう。
Anzuの部屋は2階にあり3人は階段を上っていく。扉にはハートの形をしたプレートに『Anzuの部屋』と丸い文字で書かれ3人はドアノブを握り中へと入る。
部屋の中にはクマのぬいぐるみや収納棚の上にSeito、Seika、Len、Shin、Anzuが満面の笑みで花火を楽しむデジタルフォトが飾られている。
Seito 「絶対にクリアして現実世界で花火しようって約束したのに…」
Seika 「うん…」
Shin 「悔しいよ…」
そう呟くとSeikaはデジタルフォトを持ち見つめると紙のような薄い物体が床に落ちる。
Seika 「えっ?」
床に落ちた物体を3人は見つめると『Lenへ』と書かれた封筒だった。
Shin 「Anzu姉が兄ちゃんに残した手紙だ!渡さないと!」
Shinは落ちた封筒を手に持つと急いで階段を挟んだ真正面にあるLenの自室へと向かいドアを叩く。
Shin 「兄ちゃん!Anzu姉の部屋に兄ちゃん宛ての手紙が残っていたよ!!」
大きな声を出すと3日間越しにLenの自室のドアが開く。青白く、やつれたLenはShinが突き出す封筒を受け取るとドアを閉める。
Seito 「後はLenさんの問題だ…」
Seika 「うん。今はそっとするしかないよ」
Shin 「そうだね。リビングに向おう」
3人は階段を下る中、Lenは薄暗い部屋で封筒を開くと便箋を手に取る。
―――蓮へ
手紙を書くなんて何年振りかな?幼馴染だから、あんまりこういったやり取りはしないよね。
この手紙を読むのは私の寝室に入ったって事だから、恐らく戦闘不能になった時だと思うので伝えたい事を正直に書きます。戦闘不能になってないのに読まれたら恥ずかしいけど…。
私は蓮と真が遊ぶゲームを通して、また一緒になりたくてこのスピリットファンタジーを始めました。
だって2人とも、お父さんとお母さんのお仕事の関係で遠い所まで引っ越しちゃうんだもん…。
私は、あんまりこういうゲームは得意じゃないから皆と一緒にレベル上げを出来なくてごめんね。
でもね、ハッキングされたこのゲームを絶対クリアしたい気持ちは皆と一緒だよ。もし、私が戦闘不能になってこの世界から消えても絶対にクリアする事を約束してほしい。
覚えているかな?小学生の時、私が同級生達にいじめられている時のことを。蓮は私をいじめる同級生を思いっ切りぶん殴って私を守ってくれたよね。蓮は私から見ても正義感に溢れて真っすぐな心を持つ人です。
私が消えても絶対に自分に負けないでね。それでこそ私が愛する大切な蓮です。一つ心残りがあるとするのであれば、現実世界で手を繋いでデートをしたかったな。
植物人間になった私の手を繋いでくれたら、それはそれでもいいかも(笑)
いつまでも挫けない心を持つ、私の知る蓮でありますように。
―――――――――――――――
Len 「杏子…。杏子…絶対に…約束は…まも…るよ…」
Lenは手紙を読み終えると嗚咽混じりに涙が溢れ暫く泣き続けていた。
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