第5話 Anzuの想い
戦闘が不得意なAnzuはレベルが低く安全地帯だけ歩くようにと幼馴染のLenに耳がタコが出来るほど言われ続けられていた。
だがAnzuには、ある目的を果たすためLenとの約束を破りスピファンのチュートリアルを行う戦闘エリア地区の"初心の森"へと訪れる。
Anzu 「皆に美味しい料理を食べて貰わないとね。そうしたら皆、笑顔になるし!」
一面、草原が広がるエリアにAnzuはゆっくりと歩き出すと薬草が沢山生えている場所を見つけ腰に手を当る。
Anzu 「ここのモンスターなら私、一人でも倒せるしね!よーし!薬草を採取してAnzu様、特製ハーブからあげを作ろう!」
Anzuは袖を捲ると膝を折り、足元に生えている薬草を採取し袋の中へと入れていく。
Anzu 「LenとShinったら全然、料理出来ないからおじさんとおばさんの帰りが遅い時は作ってあげてたな。からあげを作って食べた時の顔―――」
薬草を採取しながらAnzuは過去の記憶を思い返す。サクサクに揚がった、からあげをLenとShinは何度も美味しいと口にし満面の笑みを見せる2人の記憶。
Anzuにとって宝物に等しい記憶を思い返すと自然と薬草を採取しながら顔は緩む。
Anzu 「よしっ!こんなもんかな」
膨らんだ袋を掴みAnzuは満足気に頷く。モニターの収納をタップした瞬間、薬草が入った袋は消え帰宅しようとワープをタップする寸前だった。
Anzu 「Lenから通話だ…絶対怒られる…」
Lenからの通話がありAnzuは恐る恐る応答をタップする。
Len 「Anzu!どこにいるんだ!」
Anzu 「初心の森で薬草を…」
Len 「戦闘地区に出るなって、あれだけ約束したじゃないか!」
応答をタップすると"初心の森"エリア全体に響いてしまうのではと感じるほどにLenの大きな声が響き渡りAnzuは思わず耳を塞ぐ。
Anzu 「そ、そんなに怒らなくても……」
Len 「早くここまでワープをするんだ!」
Anzu 「わ、わかったって…」
Lenの凄い剣幕にAnzuは大人しく帰宅しようとワープをタップする。しかし、"戦闘中のため使用不可"とモニターに赤い文字で大きく表示される。
Anzu 「戦闘中?」
警告の文字にAnzuは辺り一帯を見渡す。モンスターが襲っている気配も無く首を傾げると再びワープをタップするが"戦闘中のため使用不可"と表示される。
Len 「Anzu、どうしたんだ?」
Anzu 「ワープをタップしても"戦闘中のため使用不可"って表示されて…。辺りを見渡しても敵はいないんだよ―――キャッ!!」
Len 「Anzu!Anzuっ!!今いくから!」
Anzuとの通話がプツンッと切れる。LenはギルドメンバーのSeito、Seika、Shinとレベル上げを終えたばかりで家へと帰宅していた。
帰宅するとAnzuの姿は無くLenは心配になり通話を掛けた所だった。
Len 「初心者がチュートリアルで飛ばされる”初心の森”でAnzuが敵と接触している!」
Shin 「兄ちゃん!俺達も―――」
Shinが話ている最中にも関わらずLenは聞く耳も持たず"初心の森"へとワープしていく。
Seito 「早く助けにいこう!」
Seika 「Anzuさんを助けにいかないと!」
Lenの家に残る3人は互いに顔を合わせ頷くと後を追いかけるように”初心の森”へワープする。
一瞬で"初心の森"までワープするとLenはウロウロとAnzuを探すように辺りを見渡していた。
Len 「クソッ!Anzu!どこだ!」
焦るLenにSeitoは冷静にゆっくりと見渡すと遠くの位置で人が倒れ込んでいるらしき姿を見つける。
Seito 「あれだ!Anzuさんが倒れ込んでいる!」
Seitoが指を差した方向に4人はマジマジと見つめると―――白銀の色をした短髪と目…そして背中には妖精のマーク縫い込まれている白い服を着用している少年の姿をしたプレイヤーがAnzuの胸に剣を刺し込む光景だった。
Len 「お前…。よくも…よくもAnzuを!!」
信じがたい光景にLenはワナワナと怒りがこみ上げ、剣を構えると理性を失ったまま突っ込む。
Seito 「あの姿は―――AIだ!」
Seika 「何で人を…人間プレイヤーを殺すの!?」
Len 「絶対に生きて帰れると思うなよ!!」
AIはAnzuの胸から剣を抜くと、迫るLenとは正反対の方角へと走る。
Len 「まてっ!!逃げる気か!?この腰抜け!!」
Lenの挑発に耳を傾けずAIは逃げるように走る。
Len 「絶対に…絶対に捕まえてやるっ!!」
Lenは何が何でも必死に追いかける。ひたすら全力で走るが、AIのステータスが高いせいか移動は早く徐々に距離が遠ざかっていく。
戦闘範囲外まで互いに離れるとAIはLenに向いニヤリと笑い姿を消す。
Len 「クソッ!!」
AIはワープし姿を消すと、息が荒いLenは膝に手を当て呼吸を整える。
Len 「ハァハァ…Anzu…!!」
呼吸はまだ乱れているがLenはAnzuの元へ全力で走る。
Len 「Anzu!Anzuは大丈夫だよな!?」
そう遠くはないAnzuの元へ辿り着くとLenは回復魔法を詠唱するSeikaの腕を力強く握りしめる。
Lenに掴まれ口元が咄嗟にキュとなるが、Seikaは回復魔法を無言で詠唱し続ける。
Anzu 「Seika……もう…だい…じょうぶ…だか…ら」
Anzuは回復魔法を詠唱しているSeikaの腕をそっと握る。
Len 「Anzu!今、Seikaが回復してくれるから!」
Anzu 「ううん。もう…いいの」
Lenの顔を見つめたままAnzuは首を弱々しくゆっくりと横に動かす。
Len 「何、馬鹿な事を言ってるんだ!絶対に…絶対に治る!」
Seikaの手から光が消える。
Len 「Seika!何で回復魔法を中断するんだ!」
Anzu 「Len。わたしの…HP表示を…見て」
AnzuのHPは10。そしてステータスに治療不可の出血が表示されていた。
Anzu 「Lenの言う事…聞かなくて…ごめん…なさい」
Len 「Anzu喋るな!何か治す方法があるはずだ!」
Anzu 「本当に…Lenは…諦めが…悪いね…」
AnzuのHPはどんどん減っていき僅か3となってしまった。
Anzu 「Shin…。お兄ちゃんを…よろし…くね…」
Shin 「Anzu…姉……」
大粒の涙を零すShinにAnzuは涙を親指で拭い微笑むと、誰よりも顔が近いLenの頬に手を当てる。
Anzu 「そして…Len…」
Len 「Anzu…Anzu…嘘…だよな…?」
Anzuの身体が小さな粒子となり、足元から消えていく。
Anzu 「だぁい…すき…」
HPは0となり、Anzuは笑ったまま小さな粒子が空に向い消えていく。
Len 「そ、そんな…。そんな……おい…嘘だ…」
Anzuはスピファンから完全に姿を消す。LenはAnzuが姿を消した前で両腕を思いっ切り上にあげ地面を力強く何度も何度も―――何度も叩きながら泣き叫ぶ。
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