第10話 星夏の過去

 高校生になった私は友人達とお昼時間を過ごす事となった。


 「はぁ~。授業眠かったー」


 「あの教師の授業はかったるいはー。それよりお弁当食べよー!」


 私は友人達の言葉に同調するように頷くとお弁当箱を取り出す。


 「今日のお昼ご飯は―――えー!お母さん昨晩食べた残りのおかずいれてるー!」


 「えー、でも美味しそうじゃん。ッゲ…。うちのお弁当、彩悪い~!もう少し可愛いお弁当作ってくれないかなぁ~~」


 お弁当を作った自分達の母親に文句を話す友人達。私は本音を言うと声を出して羨ましい…と言葉を口から出したい。だけど、そんな勇気も無く私は言葉を心に秘め羨ましい感情すらも打ち殺す。


 「星夏のお弁当は―――ん~~?それだけ?」


 「ご飯の上に…生姜焼き?」


 開けた弁当箱を覗く友人達。私が昨晩、作った生姜焼きをご飯の上にのせたもの。妹のはるが何度も美味しいと口にした料理を小馬鹿にするような声と表情を友人達は見せる。


星夏 「あ…あはは!!うちのお母さんってズボラだからさぁ~~!」


 私は頭に手を当て、口から舌をペロッと出すと無理やり笑顔を作る。


 「へ~~…そうなんだ~…」


 「あぁ……星夏のお母さん忙しかったのかな?」


 冷めた目で友人達は私のお弁当箱を見つめる。まるで異質な物を見るかのような目だ。何とも惨めな思い…何とも悲しい思い…それよりも母親に愛されている友人達が羨ましい思いと同時に悲しい気持ち生まれる。


 友人達が別の世界の人間に見えるのは気のせいなのだろうか?私は複雑な気持ちでご飯の上に生姜焼きをのせたお弁当に箸を動かす。


 学校が終わり私は家に帰宅した。靴を脱いでいるとドタバタと廊下を騒がしく音を鳴らし走る晴。


 「姉ちゃん~!今日の晩御飯は何~?」


星夏 「はる!ただいま!う~んと…今日は…」


 妹にふと問われ私はリビングへと向かい冷蔵庫を開ける。たいした食材の入っていない冷蔵庫を隅から隅まで見つめるが食材は無く私は妹の方へ振り向く。


星夏 「丁度、食材を切らしたみたいだからお父さんからお金を貰って買いにいかなきゃ」


晴 「えーーー!!お腹空いた~~!」


 駄々をこねる妹に私は苦笑いする。


星夏 「お父さん帰ってくるまで待ってて。そうだ!晴は何が食べたい?」


 晴は考え込む仕草を見せる。


晴 「カレー!」


星夏 「じゃあ、今日はカレーだね!」


晴 「わーい!!」


 晴は飛び跳ねてしまうぐらい両手をあげ家の廊下を走っていく。私は微笑ながら晴の背中を見つめるが、不安が押し寄せる。


 数時間が経ち、18時になると父親はスーパーの袋を持ちながら帰宅をする。


星夏 「お父さん、食材が何も無いからお金を――――」


 「うるさいっ!!」


 父親は私に怒鳴り声を出すと、スーパーの袋を荒々しい音でテーブルの上に置く。広いリビングが静まり返ると、父親は険しい顔で私を睨みつける。


 「金ばっかの話をしやがって!!お前は本当に金の掛かる奴だな!そもそもお前、高校生だろ!?バイトでも何でもして稼げる歳だろっっ!!」


 父親は娘の私に小言を言い続ける。その後、何度もお願いをし少量のお金を貰うと急いでスーパーで食材を買いこむ。


晴 「お姉ちゃん!お帰り!お父さんからお金貰って買ってきたんだね!」


星夏 「うん!今、急いでカレー作るから!」


 家を帰宅すると、晴は早々にお出迎えをしてくれて私はキッチンへと向かい調理をする。私が料理を作っている間、晴は何度も「まだかな~」と口に挟む。父親はというと、自分で"自分の為"に購入したスーパーのお弁当をソファーの上に座り仮装モニターで番組を観ながら口にしていた。


星夏 「よし!晴!出来たから器を用意して!」


晴 「は~い」


 私が晴に指示をすると小さいながらも食器棚にある底の深い器を手に取る。


 陶磁器で出来た食器が割れないように晴は両手で抱え込みキッチン台へと乗せる。私は事前に炊いておいたご飯を器に入れ、出来立てのカレーをおたまですくい入れる。


晴 「わー!!早く食べよ!」


 器にのったカレーライスを晴はテーブルの上へと運ぶ。スプーンを置くと、晴は何度も美味しいと言い夕食を済ませた。空になった器をキッチン台へと運び洗っていると玄関口から扉を開く音が鳴る。


 「3人とも元気ー?」


星夏 「お母さん…」


 母親が久しぶりに家へと帰ってきた。2週間ぶりだろうか。私は"何で早く帰ってこなかったの?"、"お母さん、今日は学校でね…"、"お母さんが帰ってこなくて辛いよ"。そんな言葉を吐きたくて溜まらない気持ちになる。


 だけども、帰ってこない人に対し"帰ってきてよ"など言葉を吐いた所で本当にお母さんが帰ってこなくなってしまうのでは無いかと怖くて言葉が喉まで上り詰めた所で胸に秘め押し戻す。


 「晴、ここを出る支度をして」


晴 「は~い」


 晴は自室に行くと、リビングは静まり返る。父親は一つも変わらず、缶ビールを飲みながらテレビの映像を見つめたままだ。


星夏 「お母さん、どういう……」


 私の問いに母親は答える事も無く、目線すら合わせようともしない。まるで私を空気のように扱っているようだ。廊下の上を騒がしく音をたてて晴は歩くと、背中にリュックを背負ったままお母さんと玄関口へと向かう。


 「じゃあ、星夏、お父…あぁ、もう赤の他人だった。まぁ、元気でね」


晴 「お姉ちゃん!またね!」


 私は訳が分からず玄関の前で足から崩れ落ち座る。これは夢なのだろうか?これは現実なのだろうか?それすら分からない心境だ。


 「お前はお母さんに捨てられたんだ」


 背後から父親に言葉を掛けられ私の心は壊れるような音がした。制服のスカートの上にポロポロと涙が流れると心の中で同時にあぁ、私は要らない子なんだ…と現実を受け入れる他が無かった。


 私のしてきた己の犠牲、我慢、家族の為に吐いた嘘の言葉。全てが無へと返った出来事だった。


 私は大学に進学と共に家を出た。父親に暴言を吐き続けられる生活に耐えきれる事なんて出来ないからだ。


 大学の費用など払ってくれる訳もなく、奨学金で入学しバイトをして自分の生活費を稼いでいた。


 大学生活とバイトに慣れたきた頃、私は仮想空間ダイバーエリアにダイブする機械とスピリットファンタジーを買った。


 最初は興味心で買ってみたら仮想空間ダイバーエリアのリアルさに感動した。


 スピリットファンタジーをプレイし始めると私と同じような初心者がいた。姿アバターはアッシュ色の短髪に整った容姿。ちょっとかっこいいと思って見つめていると名前が似ていたので思わず近づいた。


 「ねぇ。名前似てるね!私と同じ初心者みたいだし一緒に遊ばない?」


 彼は最初、戸惑う反応を見せたが頷いてくれた。それからは一緒にプレイをする日々が続き、話も合うせいかよく笑っていた。


 どことなく冬のように冷たい目をする彼は次第に笑う顔が増え、私の心は温かくなり満たされていく。


 彼は私の言葉を一切否定する事もなく全てを受け止めてくれる。心を許したいと思った人物だった。


 ハッキング後も容姿を可愛いと言ってくれて、増えた仲間達も私を受け入れて接してくれた。


―――【現在】


 2人は息ぴったりで武器を出すとSF1号の刃を揃って受け止める。武器が互いに交じりギリギリと音を立て火花が放つ。


Seika 「あんたなんかに負けてたまるのかっ!!」


 SF1号の言葉にSeikaは過去の辛い記憶が蘇りSeitoと共に力負けしないよう剣を強く握り踏ん張る。


Seika (私は今まで家族の為に必死に考えて犠牲になってきたんだ!これ以上、自分の人生をAI如きに潰されてたまるか!私は大切な人のためにもう一度、人生を歩みたい!自分の人生は自分で決めるんだ!)


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