第9話 星冬の過去
「お前は俺の言う事を聞いていればいい!」
「私だって仕事してお金を稼ぎたい!」
「俺の稼ぎが悪いっていうのか!」
「そういう事を言っている訳じゃない!」
小学生の幼い俺の目の前に映る光景は両親が激しく口論する姿だった。
「おにいちゃん…」
星冬 「大丈夫だよ。
星冬は弟の律を守るかのように身体を包み込むように抱く。そして弟の律も兄の身体に縮こまりながらギュっとしがみつく。
母親を制御したい父親。束縛を拒む母親。いつからだろうか…とにかく俺の両親は物心がついた頃には仲が悪かった。
そんな生活が続く中、母親は夜にも関わらず念入りに化粧をしオシャレな服に着替えていた。
「ちょっと友達と出かけてくるから」
「……」
母親は夜の中、外へ出かけていった。父親は何も答えず仮想モニターにゲームを映しプレイする。
ゲームが大好きな俺と律は父親のプレイを見続けていたが中々、上手く操作する事が出来ず何度も戦闘不能になる。父親は座っていたソファから立ち上がると俺と律の方へ振り返る。
「何でクリア出来ねぇんだよ!」
顔も声も明らかに不機嫌な父親は律に向い手をあげる。
星冬 「っっ!!」
俺は律を守るように包み込むように抱き着くと背中に父親の手がバシンッ!っと当たる。
星冬 「痛っ!」
「っち!」
背中を思いっ切り殴られたけども律が無事ならこのぐらいお安い御用だ。
星冬 「律。一緒に遊ぼう」
律 「うん!お兄ちゃん!」
星冬は手を出すと律は小さな手でギュッと握りしめる。部屋に散らばるおもちゃで遊んでいる間に玄関口からドアの開いた音が聞こえ兄弟は振り返る。
律 「お母さんが帰ってきたんだ!」
星冬 「律!行こう!」
手を繋ぎ部屋を出ると
「車で追いかけたんだけどさぁ。お前、男と一緒に遊んでいたんだろう?」
「ち、違う!この前、ここに遊びにきた女友達とだよ!」
「確かに女もいたけど男もいたよな~?」
「あなた……ストーカー?」
俺と律が部屋で遊んでいる時に庭から車のエンジンをかける音が聞こえた。きっとその時に母親の後を追うように車を走らせたのだろう。
父親が日曜出勤だったある日の事だった。
「星冬、律。一緒に出掛けるわよ」
星冬 「ほんと?いくー!」
律 「いくー!」
朝早い時間帯に俺と律は母親と外へ出る。見慣れた風景の中、母親を筆頭に俺達、兄弟は後を追うと小さな駐車場に1つの車がポツンと停まっていた。
「さぁ、星冬!律!中へ入って!」
母親は見知らぬ車のドアを開け中へ乗ると、俺達も釣られて乗る。車の中に乗っていた人物は見知らぬオジサンだった。
オジサンを見た瞬間、俺と律は頭の中でなんとなく理解していた。そう…これはきっと『不倫』ってやつなのだと。
―――【数年後】
俺が高校生になると両親は離婚した。俺と星冬は母親に引き取られ現在は
「律は可愛いなぁ~」
律 「ありがとうお父さん!」
母親は小学生の時に初めてあった見知らぬオジサンと再婚していた。
「それにしても星冬は―――」
義父は俺の顔を見つめると顔をしかめる。
「お前は本当に不細工だな」
星冬 「っ!!」
実の父方にそっくりな俺を毛嫌いし、正反対に母親にそっくりな律を溺愛していた。
「あなた。そのぐらいにしてあげて?」
「え~~。だってなぁ~~」
それからは義父のみならず、愛する母親そして律までもが俺の事を人間として見る事は無く貶される生活が続いた。
「本当に星冬は物覚えが悪いわね!」
「お前は本当にとろくさいな!」
律 「お兄ちゃんは本当に出来が悪いよね」
貶され続けられ俺の精神は崩壊へと進んでいた。それでも家族が幸せなら―――それでいい。
「あなた~律~。行くわよ~」
「はいはい。今いくよ」
律 「待って~!お父さん、お母さん!」
義父、母親、律はキャリーケースに荷物を詰め込み玄関の方へと向かう。
星冬 「どこに行くの…?」
そう呟くと3人は俺の方へ振り返り口を開く。
「〇✕に旅行へ行くのよ」
星冬 「えっ?そんなの聞いていない!」
「別に教えなくても良いだろう」
律 「お前のチケットなんて無いよ?だってお前は犬の子守りをするんだから」
3人はそう話すとドアを勢いよく閉める。それから俺は犬の世話をしながら普段通りの生活をした。これで良い―――家族が幸せになるなら…これで…。
高校3年になり大学受験を迎える前の出来事だった。
「起業してから安定してきたし…そろそろ引っ越しでもするか~」
「本当!?新築の家でも建てちゃう!?」
義父の一言で母親は興奮気味に話す。
律 「僕、広い自分の部屋欲しいな~!」
「律に広い部屋…うん、いいな!新築検討しようか!」
「どんな家にしようかな~。楽しみね!」
律 「うんっ!吹き抜けの玄関も良いよね」
3人は既に新築の家に引っ越したかのような勢いで興奮し話し続ける。俺はリビングで呆然としていると3人はヒソヒソと話しクスクス笑う声が聞こえる。
「星冬」
義父に名前を呼ばれ驚く。普段なら"お前"と呼ばれるのがお決まりだったからだ。
星冬 「何?」
新築の家の相談を受けるかと思い、俺はようやく家族の輪の中に入れると思った瞬間だった。
「俺達が引っ越したら、お前はどこに住むんだ?」
星冬 「えっ…?」
「ふふっ。あの顔!」
律 「お前の住む部屋なんて用意してないよ?」
3人の笑い声に俺の心はガラスのように割れるような感触がした。親に振り回され挙句の果てに己を犠牲にしててでも家族を幸せに思う気持ちが無に返った時だった。
俺はどうやら―――家族の輪に入る事も許されないようだ。
俺は大学生になると共に家族から離れ一人暮らしを始めた。親の援助なんて無い、自分でなんとかするしか無かったからバイトをしながら生活費を稼ぎ奨学金を払いながら大学に通っている。
そんな生活も慣れた頃に俺は暇つぶし程度に
最初は暇つぶし程度と思い一人でプレイしていたが、とある人物が声を掛けてくれた。
「ねぇ。名前似てるね!私と同じ初心者みたいだし一緒に遊ばない?」
ピンク色の髪を赤いリボンでポニーテールに結ぶ女の子の
適当に絡んでいれば良いかと思っていたが次第に毎日、遊ぶようになり彼女の発言や太陽のように輝く笑顔に次第に俺は惹かれていった。
人など信じられなかったが、彼女の人柄にまた人の温もりに触れたいと思った瞬間だ。
彼女といる日々は俺の暗い過去を眩しい太陽の光で照らすように満ち溢れていた。ハッキング後も親しい仲間に楽しい日々、悲しい日々、人に裏切られる事なんて無かった。
―――【現在】
2人は息ぴったりで武器を出すとSF1号の刃を揃って受け止める。武器が互いに交じりギリギリと音を立て火花が放つ。
Seito 「こっちの苦労も知らない癖に言いたい放題、言いやがって!」
SF1号の言葉にSeitoは過去の記憶が蘇ると足に力を入れ、刀で押し出すように踏ん張る。
Seito (俺はこれまで、必死に考えて家族の為に犠牲になってきた!これ以上、AI如きに俺達の幸せを奪われてたまるものか!これからは本当に大切な人のために生きていきたい!)
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