第3話 約束

Seika 「―――っっ!!」


Seito 「あっ!Seika!!」


 頬から涙が溢れると手で顔を覆いワープし消え去るSeikaにSeitoは手を伸ばす。


Seito 「フェアリー11R!Seikaの位置は!?」


 問いかけるSeitoだが反応が無くキラキラと輝くフェアリー11Rの姿を探すように辺りを見渡す。


Seito 「11R…?」


 姿が見当たらずSeitoはメニュー画面を開く。システムをタップすると、AI設定、ログアウトの文字色が薄っすらと灰色になっている。


Seito 「本当に…AIもログアウトも出来ないのか!?」


 灰色になった文字を何度もタップするが"Error"と警告で赤い文字で大きく表示されSeitoは髪をクシャクシャにし頭を抱える。


Seito 「くそっ!!Seikaを追いかけないと!どこだ…どこにいったんだ…」


 SeitoはSeikaに関するあらゆる情報を短時間で思い返す。名前が似ているから一緒にゲームをし始めた頃。


 同じ大学生の20歳と年ごろが近いと更に距離が縮まった頃。そして……AIに助言されても自分の意思が強く自ら考え動く事。


 力を合わせレベルを上げ、精霊の試練に挑むのも、アイテムやお金を稼ぐ時も常に一緒だった事を思い返す。


Seito 「そういえば最近…2人でお金をコツコツ溜めて家を買ったんだ!絶対にあそこだ!」


 モニターを映し出すと操作しMAPを展開する。がむしゃらに操作していくと家を購入した場所をタップし瞬座にワープする。


 緑色の葉が香る場所にワープする。風がサァーっと吹くと葉がユラユラと揺れる音が鳴り、満月の灯りが建物の屋根を照らしている。


 建物の中は外から見ても薄っすらと灯りが照らされてる事が確認でき、Seitoは確信する。


Seito 「中の灯りが点いている…。やっぱりSeikaがいるんだ」


 息を深く吸い、ゆっくり吐くとSeitoは頷き建物の中へと向かう。玄関口まで辿り着くとドアを軽くコンコンっとノックの音を鳴らす。


Seito 「Seika。入るよ?」


 ドアを引くとギィと鈍い音が鳴り中へと足を踏み込む。建物の中は人気を感じない程に静かだった。


Seito 「Seika?」


 声を出すSeitoだが反応は全く無く廊下を歩き出す。ウロウロと見渡すとリビングからシクシクと女性の泣く声が聞こえ耳をすませる。


Seito (泣いている…?)


 廊下から顔だけ出すとSeikaはテーブルの上に肘を置き両手で顔を覆っていた。


Seito 「Seika…泣かないで」


 頬を通しテーブルの上にポタポタと落ちる涙は止まる事が無く流れている。


 涙を見せるSeikaにSeitoはいても立ってもいられず歩み寄る。


Seika 「絶対…嫌われた…」

 

 震えた声で呟くSeikaの背中をなだめるようにSeitoは優しく撫でる。


Seito 「嫌われた?」


Seika 「私っ!!全然可愛くないから!Seitoに嫌われた!」


  広いリビングにSeikaの大きな声が響く。Seitoは涙を流すSeikaの顔を見つめたまま目を丸くする。


Seito 「Seikaは…可愛いよ」


Seika 「えっ…?」


 Seitoの言葉にSeikaは拍子の抜けた声を出す。


Seito 「それに、俺は元々Seikaの性格が―――好きだし」


 顔を赤らめながら話すSeitoの言葉にSeikaはドキッとし頬を赤らめる。


Seika 「ごめん。感情的になって…」


 涙を拭うSeikaにSeitoは首を横に振ると、隣の椅子に座る。


Seito 「無理もないよ。あんな出来事が起こったんだから」


Seika 「うん…」


 現実世界の姿になり、互いに改めて見ると2人は恥ずかしい気持ちになりぎこちない様子を見せる。


 リビングで沈黙の間が経つとSeikaは気持ちを落ち着かせるよう深呼吸をし隣に座るSeitoの顔を見つめる。


Seika 「ねぇ、Seito」


Seito 「ん?」


Seika 「もし、このゲームをクリアした時には…その…」

 

 言葉に詰まるSeikaは頬を赤らめながら手を組んだり緩んだりする。


Seika 「仮想空間ダイバーエリアの中じゃなくて、実際に逢いたいな」


 真剣な表情で話すSeikaだがSeitoはプフッと吹き出し笑う。


Seito 「あははっ!」


Seika 「もう急に笑って何!?」


 吹き出し笑うSeitoにSeikaは眉を寄せる。


Seito 「いや。もう俺ら現実世界の姿だから逢ってるのに等しいかなって」


Seika 「そ、そうだけど…。うちらって案外、近いところに住んでるし…実際に触れてみたい…し…」


 顔を赤くしながらもぽつりぽつり話すSeikaの言葉に、Seitoは思わず顔がニヤけてしまいそうになるほど気持ちが高まる。


 紳士に対応したいSeitoは気持ちを何とか落ち着かせ隣に座るSeikaの手を握る。


Seito 「俺とSeikaが住んでいる間の並木道で必ず逢おう。その時に、俺から真面目な話をするよ」


Seika 「真面目な話?こんな状況なんだし攻略の事なら今、してよ!」


 Seikaの鈍さにSeitoはガクッと肩を落とす。


Seito 「いや、その真面目じゃなくて…。大事な話があるから。俺達2人の事だよ」


Seika 「む~~。気になるな~~」


 腕を組み頬をプクーと膨らませるSeikaに、Seitoは再び吹き出し笑う。


Seito 「はは!お楽しみに。本当にSeikaは面白いな」


Seika 「私はお笑いの人じゃないのに!」


 ハッキングされ、一時は重い空気が漂うリビングだったが、賑やかな声が響き渡る。


Seito 「絶対にクリアしよう。Seika」


Seika 「うん。絶対に大事な話を聞かないと!」


Seito 「命じゃなくて、そっちか…」


 話が路線しているが2人はゲームの攻略の道へと真剣に進む事となった。


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