新しいはじまり8

 ——雨の音がしていた。


 ディープが、ふと目を開けると、ベッドの端にモーリスが腰かけていた。

(……!!)「……モーリス」

 モーリスはふりむいて、笑った。

「久しぶりだね。今はあまり元気、じゃないみたいだけど……大丈夫?」


 話したいことはたくさんあったはずなのに、言葉が出てこない。

「うん。なんとか……。まあ、なんとかやってるよ」

 でも、これだけは伝えておきたい。

「手紙……。ありがとう」

 エリンとお互い歩み寄るきっかけになった手紙だった。

 モーリスはうなずいて、

「読んでくれたんだ。良かった。……ディープ。今、僕が居る場所は、静かで、あたたかくて、とても美しいよ。君達のことがよく見える」


 そうだ。モーリスにひとつだけ、どうしても聞いておきたいことがあった。

「モーリス。僕は君の望む通りに、ちゃんとできたのかな?」

 モーリスは微笑んで、

「うん。僕の願う通りにしてくれたよ」

 ディープは涙があふれるのを感じた。

「でも、それが君を苦しめることになった。……ごめんね」

 ディープは首をふった。

「ありがとう、ディープ。僕が感謝していることを忘れないで。いつもみんなを見守っているよ。エリンのこと、頼むね」


 モーリスの姿が薄れていって、引き止めようとしたが、身体が動かなかった。

「モーリス。待っ、て」

「じゃあね……」

 そして、かき消すように姿が見えなくなった……。

(ああ……)


 *


 ディープが目を覚ますと、エリンが汗と涙をそっと拭いてくれていた。

「熱、少し下がってきましたね」

 夢の余韻でまだぼんやりしている感じで、

「今、夢を見てたんだ。モーリスが出てきた」

 エリンはディープの涙と、モーリスへ呼びかけていたのであろう「待っ、て」という寝言に気がついていた。

 彼女は微笑んで、輸液の交換を続けながら、黙って聞いていた。

「考えてみたら、僕はモーリスに一度も責められたことがないんだ……。そう、ただの一度も」

 ディープはまた眠ってしまい、エリンは小さくつぶやいた。

「私の夢の中にも来てくれたらいいのに……」


 

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