新しいはじまり7

 それから数日後、エリンがオフの日、

「……ただいま」

 いつもより早く帰宅したディープの声にチカラがなかった。


「お帰りなさい。……どうしたの!?」

 マスクをしたディープは、ひどく具合が悪そうだった。

「熱発と咽喉のどが痛い。それで早く帰ってきた」

 ひどい声をしていた。ディープはエリンを押しとどめるように手をあげて、

「あ、近寄らない方がいい。君に感染うつると困るから。最近、病棟でも外来でも流行ってて、スタッフもけっこうやられてるんだ。ああ、不覚だなぁ。気をつけていたんだけど。とにかく解熱するまで出勤停止なんで、奥の部屋で自主隔離するから。くれぐれも感染しないようにね」

 熱にふらつきながらディープは奥の部屋へ向かった。そこは、ディープが夜遅くまで勉強するとき使っていて、簡易ベッドが置いてある。


 エリンがマスク、手袋など感染対策をしてから様子を見に行くと、毛布にくるまって寝ていたディープは、だるそうに目を開けて、

「エリン、僕の荷物の中に輸液セットがあるから。お願いしていいかな」

「はい。環境が変わって、きっと疲れが出る頃で、休むようにってことですよ」

「うん。ああ、まだこれから熱が高くなりそうだなぁ。寒気がする」


 エリンが予備の毛布と輸液セットを持ってくると、眠っていたディープは、身じろぎしながら小さくつぶやいた。

「う、ん。△△を準備して……」

 それは薬剤名で、彼は夢の中でまだ仕事をしているらしかった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る