ふたり6

「君がわかっていてくれて良かった」

 そう言うラディに、エリンは微笑んだ。

「あの……いろいろありがとうございます。部屋の鍵のことも、ラディさんが言ってくれたんですよね?」

 ラディは黙ったまま、肩をすくめて、

「もういっそのこと、一緒に住んでしまえばいいのに」

「そうですねぇ……」

 エリンが言いよどんだので、

「何か困ってる? 僕の気のまわし過ぎかな」

 ラディは、ふたりのまだなんとなく遠慮がちな関係を知っていたのだ。


「彼の本当の気持ちはよくわからないんです。なかなか本心を明かさない人なので」

 なりゆきと勢いで、ということだったとは思いたくないが、そのあとで、ふたりの距離を近づけることが、今ひとつなかなかできずにいた。だからと言って、なかったことにはできない。


「確かにね。自分の気持ちと向き合うのは、下手くそなところがあるからなぁ」

 ディープはおそらく自分でも、自身の気持ちがわかっていないのだろう。

「たぶん、彼をためらわせているのは、ラディさんと、私の心の中のあの人に気兼ねしているからではと、思うんです」

「モーリスに、というのはわかる気がするけど、何で僕?」

 ラディは続けて、

「僕から言わせれば、もういい大人なのに、君達ふたりとも馬鹿みたいだ。お互いの気持ちはわかっているはずなのに。明日は僕達だってどうなっているかもわからないし、今度とかこの次とかいう約束ができないことは見にみているはず」

 エリンは黙って聞いていた。

「モーリスが君に願っていることは、君が笑顔で幸せでいること、だよ。そのときとなりにいるのは、それは僕じゃない。残念だけどね」


(え?もしかして……?)

 ラディは首をふった。

「ディープにも言われたけど、そういうつもりはないよ。だから、僕に気兼ねする必要なんてないんだ。まったく……。モーリスに続いて、ディープ。お互い苦労するよね。今度、ディープに煮え切らない態度をどうにかするよう言っとくよ」

 ラディの冗談混じりの言葉に、エリンは微笑むだけで何も言わなかった。


「エリン」

 ラディは表情をあらためた。

「ディープのこと、頼むね。あいつは、ひとりで重い荷物を背負いたがるから、気をつけてやって。あらためて、よろしくお願いします」

 エリンはうなずいた。

「はい」

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