ふたり7

 それは、休職期間も残りあと2週間という頃だった。


「エリン。相談、と言うより報告したいことがあるんだけど、聞いてくれるかな?」

 ディープが切り出した。

「僕は元の職場には戻らないつもりなんだ。これからは小児の血液疾患専門医を目指そうと思ってる」

(……!)

 エリンは少し驚いたが、黙って聞いていた。


 医師として今までそれなりの経験を持つはずの彼が、ここで専門を変更するのはやり直すことになり、覚悟がいるに違いなかった。


「小児科病棟で2年間の研修を受け入れてもらえた。その間は今までの収入は望めないから、当直のバイトをするつもりで、先輩にお願いしてある」

 エリンは微笑んだ。彼の意思を尊重したいと思った。

「良かったですね」

 ディープには、それは意外な反応だったらしい。

「君は……止めないんだね?」

「どんな選択であっても、否定するつもりはありませんから。私はいつでも味方で応援します」

「……ありがとう」

「やり残した宿題、なんですね。きっと」

「そう、かもしれない」


 ディープはようやく前に進もうと、動き出していた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る