ふたり5

 その朝、起きてきたディープは、まだ半分目が開いていなかった。

「おはよう」

 ラディがいつものようにオレンジジュースのパックを手にすると、

「おはよう……あぁ、いい。濃い〜コーヒーにして」

 片手で頭をガシガシかきまわしながら、ため息をついた。

「うーん、頭痛がするなぁ」

「寝不足が続いてるんだろう?」

 昨日も確か深夜に呼び出しを受けていたはず。

「いつも睡眠不足なのは職業病だよ」

 普段は砂糖とミルクをたっぷり入れるのに、無理してブラックのまま飲んでいるのは相当眠いのだろう。

(うぇ、まず……こんなのよく飲めるな)

 そう言いたげに顔をしかめている。

「朝食は?」

「食欲ないから……いいよ」

 ラディはエプロンを外し、怪訝そうに見るディープに

「支度できたら送ってくよ。その様子じゃ、いくら自動運転でも厳しいだろ?」

「うん、助かる」


 エアカーを職員駐車場に停めると、ディープは目を覚ました。

 小さく伸びをして、「うーん。それじゃ、ありがとう」

 降りようとしたところを呼び止める。

「ディープ、これ」

 ふりむいた彼に紙袋を渡した。

「時間あるときに。少しでも食べておかないと、もたないぞ」

「うん」ディープはニッコリ笑った。「ありがとう。行ってきます」


 ディープは、ラディの用意する食事に不満を言ったことが全く無い。

 勤務中、忙しくて食事する時間がないこともよくあって、医者のくせに自分の食生活のバランスについては考えもしないらしい。


 今までひとりで、いったいどうやって生活していたのだろう、と思うこともある。


 ラディは、ディープが遅くまで調べ物をしていて、そのまま寝落ちしているのを何度も見たし、自分のことは、つまり寝食も自分の気持ちもいつもあとまわしで、そもそも医師という仕事以外には無頓着で、あまり関心を向けることがないのだ。

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